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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第12話 王都西区

 あの密会の数日後。

 俺とシロは戦闘訓練中にゼルオス小隊長に呼び出された。

 ナイフの扱いもだいぶ慣れてきた頃だった。


「お前らの王都入りの許可が出た」

「そうですか……」

「どうした。お前にとってはいい知らせだろ」

「いえ、ちょっと、いつも通り訓練でボコボコにされていたので……」

「……そうか」


 ちなみに俺をボコボコにしたのは俺の横に立っている奴である。

 最近は時間を逆転させる方にも魔力が制御できるようになってきているためいよいよ手に負えなくなってきた。


 ゼルオス小隊長の憐れむような眼が心に痛い。


「王都入りの件だが、いくつか条件がある。

 一つ、お前らには2人の兵士が同行する」

「監視要員ですね」

「ああ、そうだ。

 エトゥスとミレアが立候補したからこの2人をつける。

 この2人の目が届かない場所へは行かないように」

「承知しました」


 これは予想していたことだ。

 王都に入ってからも2人に訓練をつけてもらえると思えばむしろありがたい。


「次に、お前も1日に1回は俺にその日の行動履歴の報告書を提出しろ。

 簡単なもので構わん」

「方法は『風便』でよろしいですか?」

「おう。それでいい」


 それなら近くに『風便』のポイントがある場所に滞在したい。

 後でよさそうな場所をエトゥスさんに聞いておこう。


「最後に、お前らが動けるのは王都西区と王城内だけだ」

「西区はともかく、王城への立ち入りも許されたんですか?」


 そこは一番守らなければいけないところだろう。

 俺の疑問にゼルオス小隊長は声を潜めてその理由を教えてくれる。


「お前は御子の死の原因を探るんだ。

 そのためには王城内で話を聞く必要もあるだろう。

 上……アーガルム宰相閣下も許可してくれてる」


 俺への配慮だった。

 しかしアーガルムが許可してくれるとは意外だった。


「当然、街中とは比べ物にならない程監視の目は増える。

 少しでも怪しい動きをしてみろ、その瞬間に全方位から『風刃』を叩きこまれるぞ」

「……十分気をつけます」


 そんなことをされれば俺は間違いなく死ぬ。オーバーキルである。


「私も報告書、書く?」


 西門の兵士との会話を経て、以前より流暢に話せるようになったシロが問う。


「お前は何を報告してくれるんだ?」

「王都内の美味しい食べ物」

「採用。任せたわ」

「任された」

「任されんな」


 コイツただの食いしん坊キャラに成り下がってないか?

 なんか将来が不安になってきた。

 ……こういうこと考えてるからオカン認定されるんだろうな。


「いつからであれば王都に入れますか?」

「お前らの準備ができ次第いつでもいいぞ。

 監視役の2人にはすでに伝えてあるから、あいつらの準備は終わってるはずだ」

「分かりました。

 ありがとうございます」


 では早速仮眠室に戻って準備を始めよう。

 といっても持っていくものなどほとんどないが。


 立ち去ろうとする俺たちにゼルオス小隊長から声がかかる。


「お前らが訓練で使ってた武器は餞別としてやるよ。

 ……気を緩めるなよ。王都内でも何があるか分からねえからな」


 俺が今からやろうとしているのはあるかどうかも分からない御子の死の原因を探すこと。

 その過程で誰かの探られたくない部分を探ることになるかもしれない。

 妨害を受けることも容易に想定できる。


「特にロック。お前は弱い。

 決して無理はするな」

「もちろんです」

「大丈夫。

 私が守るから」


 自信満々にシロが言い放つ。

 男としてのプライドは既にズタズタである。


「……そんな状況にならないよう、精一杯努力します」

「……おう」


 別れ際のゼルオス小隊長の表情は何とも言えないものだった。


 その後準備を終え、監視役の2人と合流。

 俺たちはついに王都入りを果たした。








 王都は王城が中心に置かれ東西南北の4つの区に分けられている。

 俺たちが立ち入りを許された西区は商業区らしい。

 西区一番の大通り沿いにはこの道を歩く者向けの屋台が立ち並ぶ。

 道を1つ外れれば西区で商売をする商人のための住居が所狭しと並んでいる。

 建物を見れば目に付くのはこの国を象徴する薄緑色の装飾。この西区で商売を行う許可状の代わりにもなっている。


 だがこの国で注目すべきは地上ではない。

 上を見上げれば空に浮かぶ絨毯があちこちに行き交っている。

 問屋から商人への運送。商人から客への運送。

 無人の絨毯は送り先へ到着し、その任務を果たすとふわふわと元の持ち主のもとへ戻っていく。

 色とりどりの絨毯が空を舞う光景は空の青色を背景とした一つの絵画のようだった。


 風王の御子の葬式が近いため自粛ムードが漂っているかと思えばそんなことなく活気に満ちていた。


「アーガルム宰相閣下のご指示です。

 凶事ではありますが、それにより経済が滞ってはならぬとのお考えのようです」


 そう説明してくれるのは同行メンバー兼監視役のエトゥスさん。


「宰相閣下の発言力は長く生きてるだけあってすごく強いんだよ。

 その分ラシルドさんの影が薄くなっちゃってるんだけどね」


 もう一人のメンバーのミレアさんが付け加える。


「これおいしいよ。食べる?」


 ゼルオス小隊長からもらったお小遣いを早速消費するシロ。

 無視して俺は今後の計画を打ち明ける。


「とりあえずこれから滞在することになる宿に行って荷物を降ろしましょう。

 エトゥスさん、いい宿はありましたか?」

「『風便』のポイントが近くに合って、訓練ができそうな庭がある宿ですね。

 こちらです」


 エトゥスさんの先導についていき「風の便り」という看板の宿屋の前に到着する。

 街中でよく見るつくりの建物だが、1階部分の窓からたまに物が飛ばされていくのが見える。


「ここは宿屋と『風便』のポイントの両方を兼ねている便利な場所です。

 外国からの来訪者もよく利用されているんですよ」


 中に入ると1階は『風便』の受付所、2階より上が宿泊場所となっていた。

 2部屋を借りる手続を済ませ、それぞれ荷物を降ろしに行く。

 部屋割は俺とエトゥスさん、シロとミレアさんだ。


 今後は二手に分かれて行動することもあるだろう。

 同性同士であること、かつ、監視できるようにとのことでこのペアとなった。


「シロをよろしくお願いします。

 間食は控えるように、好き嫌いを言うようでも無理に食べさせてください、あと夜もちゃんと決まった時間に寝るように、あと……」

「「「オカン(です)か」」」


 総ツッコミを受ける。もうこの路線でいいんじゃないかな。

 荷物を各部屋に置いたら、俺の部屋に集合。

 作戦会議を始める。


「これからの行動に関して、何か意見がある方は?」


 司会進行及び書記は自然と俺に決まっていた。

 エトゥスさんから手が上がる。


「実はアーガルム宰相閣下からお二人に王都に落ち着き次第挨拶に来るよう要請がありました」

「えー……。

 閣下の所に行くのー……?」


 ミレアさんが嫌そうな声を出す。


「ミっちゃん、宰相に会ったことあるの?」

「いや、ないんだけどさー……。

 小隊長が会いに行くたびに死んだ目で帰ってくるから印象はぶっちゃけ良くないかなー」

「閣下がお二人を呼んでいる以上、同行している我々も行かないというわけにはいかないでしょう」

「うげー……。

 2人についていけば訓練休めてラッキーと思ってたのにー」


 ミレアさんが同行メンバーに立候補したのはそういう理由か。


「エトゥスさんは宰相閣下に会ったことは?」

「遠くからお見かけしたことはありますが、お話させていただいたことはありません」


 今回の王都立ち入りの許可をしてくれたアーガルム宰相閣下。

 御子殺しの原因かもしれない人物。

 どこかのタイミングで話を聞く必要がある。


「行かないという選択肢はないですよね……」

「そうですね……」


 そういうわけでまず王城に向かうことになった。

 王都中心に鎮座する巨大な王城。

 4つの尖塔と中心の主要塔から構成される薄緑色の淡く光る城壁に守られた立派な城。


「王が即位されて少しデザインが変わったんです。

 現王シルヴァリオ陛下は『穏やかなる風のシルヴァリオ』という愛称で、これまでの要塞のようだった城を王の印象に合うよう建て直されたのです」


 これは城を見て口が開きっぱなしになっている俺とシロを見てのエトゥスさんの言。


「建て直したって、何年かけたんですか?」

「2日ほどですかね」

「2日!?」


 あり得ない。

 どうやったら2日でこんな城が建つんだ。


「あらかじめ用意した建材を風で浮かばせて積み木のように組み立てて、魔術で固定したんです。

 新たに城を建て直すというのは王の即位を象徴するものと同時に王の力を周囲に示すもの。

 そのため、陛下自身がその権威をはっきりさせるために御自ら魔術を用いられたのです」


 改めてこの世界の王の規格外っぷりを実感することとなった。 


 王城に着けば厳重なボディチェック。持っていたナイフは没収された。帰る時に返却してくれるらしい。

 周囲を警備兵に囲まれながら、巡回兵にじろじろ見られながら城の奥へ進むこと数分。

 俺たちは「宰相執務室」と書かれた部屋の前に着いた。


「ノックしますよ……」

「あ、ちょっと待って。

 心の準備をする時間を頂戴」

「さすがに緊張しますね……」

「宰相、おいしいお菓子持ってるかな?」


 1人おかしいやつがいる。

 こんな感じでドアの前で時間をかけること2,3分。


「早う入ってこんかい。

 時間は有限という言葉を知らんのか」


 部屋の中からしゃがれた男の声がかかる。

 これ以上待たせると機嫌を損ねそうだ。


「「「失礼します」」」


 俺たちは部屋に踏み入った。

 声が3人分しかない理由はお察しである。

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