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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第11話 情報整理と考察

 寝床である仮眠室に戻った俺はゼルオス小隊長にもらった記録を早速読み始める。

 横を見ればシロが寝ているため、明かりは最小限に抑えてある。


 シロは一度寝付けばなかなか起きないが、寝起きはいつも不機嫌だ。

 機嫌をとるのも面倒くさいため気を配っておいた方がいいだろう。


 さて……。

 風王シルヴァリオは今から10年前に即位。

 妻はエルディーネ王妃一人。夫婦仲は至って良好。


 その治世を一言で言い表すなら堅実。

 これまでの伝統を重んじ、古き良きものをできる限り残す方針のようだ。


 ページをめくって読み進める。


 王にはシルヴィアという姉がいた。

 後継者を決めるときにはどちらを王にするかで貴族の派閥争いもあった。

 しかし姉弟仲は極めて良好であり、睨み合っていたのは貴族だけだったようだ。


 最終的に前王が指名したのは弟のシルヴァリオ。

 国内において最強の力を持つ王の鶴の一声で後継者争いは収束に向かうかと思いきや姉派の一部が反発。

 王に鎮圧されるという事件が起きていた。


 ……元姉派の貴族による犯行?、とメモに書き込んでいく。

 ページをめくって読み進める。


 王に即位したシルヴァリオがまず行ったのは姉側についた貴族の排除。

 即位後10年たった今でも彼らは辺境の地に飛ばされたままだ。

 

 ……つい先ほど書いたところを斜線で消す。

 現在でも姉側についた貴族は警戒されている。

 王都に入って何か事を起こすことは難しいだろう。


 刺客を送るという手段も考え難い。

 王城の警備は門とは比べ物にならないはずだ。

 王妃が妊娠しているときに刺客の侵入を許すような失態があればそれはそれで大問題だろう。


 政争に敗れた姉は国を出奔。

 その際に自らの王位継承権を放棄を宣言。

 その後の行方は誰も知らない。

 

 ……姉が帰ってきていて今更王位の奪還を狙っている?

 弟の風王にはもはや勝てないから、その子を標的にしている?

 とにかく今は気になったことは何でもメモしていく。


 次は現在の王の周辺に関する情報だ。

 現在政治の中心に立っているのは風王自身。

 右腕と称される人物は2人。

 宰相のアーガルムと乳兄弟のラシルド。


 宰相アーガルムは歴代の王に仕えてきた歴史の証人ともいえる人物だ。

 なんと初代王の時から宰相を務め今でも現役。

 圧倒的な経験と知識量を誇る生き字引。

 その発言力は絶大である一方、王位継承が問題となったときは中立を維持し続けた。


 乳兄弟ラシルドは風王と幼い頃から共に歩んできた盟友。

 名前に『シル』が入っていることがわかるように王族の血を引いている。

 王位継承が問題となったときは真っ先にシルヴァリオの支持を表明。

 王からの信頼も厚く、その信頼にこたえるように日々奮闘している。


 アーガルムとラシルド。

 どちらが怪しいかと言われればアーガルムだ。

 ラシルドには王の子を害する動機がない。


 記録を一通り読み終わり一息つく。

 とりあえず人間関係は大雑把に把握することができた。


「次は、どうやってやったか、だな……」


 妊娠中の王族に近づくことなど容易ではない。

 城の外部から魔術を使う?

 こっそり忍び込んで魔術をかける?


 頭に浮かんだことをメモに書いていく。


「それは難しいのではないでしょうか」

「……!」


 いきなり後ろから声をかけられて驚く。

 エトゥスさんだった。


「びっくりしました。

 こんな夜遅くにどうしましたか?」

「小隊長からあなたを手助けするように言われたのです。

 部屋にはいる時には声もおかけしたのですが反応がなかったもので……」


 ゼルオス小隊長には助けられてばかりだな。 

 しかしどうやら俺はかなり集中していたらしい。

 

 驚きはしたが、せっかく助けてくれるようなので先ほどの発言について尋ねる。


「ここに書いてある方法では難しいですかね」

「ええ。

 城は外部からの攻撃に備えて常に風王陛下自身が防御魔術を展開されております。

 内部に侵入しても巡回兵にすぐに察知されるはずです」

「ふむ……」


 外部からは無理。侵入も無理。

 であればやはり内部に原因があるということになるが……。

 その方法が分からない。


「この件とは関係ないかもしれませんが、風王陛下が即位して以降、おかしなことが起きているのです」

「おかしなこと?」

「『風便局』には一度全ての『風便』が集められることは知っておられますか?」

「はい。

 検分後、そこから再度配達されるのですよね?」

「その通りです。

 ですが風王陛下が即位されてから、宛先不明で白紙の『風便』が届くようになったのです」


 宛先不明の白紙の『風便』。

 それが送られるようになったのが風王の即位後なら何か関連性があるかもしれない。

 

「『風便局』の職員は気味悪がっているようですね」


 もしかしたらシルヴィア様の呪いなのでは、と。

 そうエトゥスさんは付け加えるが、それは記録に書かれた内容と少し異なる。


「姉弟仲は良かったとありましたが?」

「その通りではありますが、当時はかなり張り詰めた雰囲気でしたので……。

 御姉弟が直接会うことは貴族によって止められていたとも聞いております。

 そんな中、貴族の発言を聞いたシルヴィア様がシルヴァリオ様に敵意を抱いたとしても……」


 即位後、国を出ていかれて行方不明となっておられることもうわさに拍車をかけているようです。

 

 王位継承の際にどういうやり取りがあったのか俺は知らない。

 だが姉弟の仲を引き裂く出来事もあったのかもしれない。


「その白紙の『風便』は今どう扱われているんですか?」

「規則に則り、一定期間保管後、送り主が現れなければ破棄されています」

「それなら王妃殿下に影響はないのでは?」


 外部からの攻撃は不可能とさっき話があったばかりだ。


「そうとも言い切れないのです。

 『風便』は風王陛下が行使される魔術にして、この国の情報通信を引き受ける公共事業。

 故に『風便局』の本部は、王城内にあるのです」

「では、集荷された白紙の『風便』に何か細工がしてあれば……」

「間接的に王妃殿下やその御子を害することも可能、かもしれません」


 ……。

 魔術とは魔法陣に魔力を通すことで起こす現象だ。

 だが、時間差で魔術を発動させることは使用する魔法陣を工夫すれば可能である。

 そして王城内部からの攻撃であれば城の防御魔術に阻まれることもない。


 だが……。

 考えをつぶやくと同時にメモに書き起こしていく。


「貴重なお話をありがとうございます。

 もし良ければまだお話を聞きたいのですが……」

「もちろん構いません」

「では……」


 さらにエトゥスさんに話を聞こうとしたその時。


「んー……」


 シロがもぞもぞと動き出す。

 話すうちについつい声が大きくなっていたようだ。


「あ、やばい」

「え?」


 俺はこの後何が起きるか知っている。

 この街に着くまでの野宿で思い知った。


「うるさい……」

「エトゥスさん、先に言っておきます。

 本当にすみません」

「え?」


 シロは使っていた枕を掴みこちらに投げつける。

 これだけなら別に当たっても痛くもなんともない。


 だが『時』属性の魔力を持ち、魔力制御を覚えたこいつは一味違う。


「『アクセル』」


 こちらに飛んでくる枕の速度が急激に上がる。


「ぶっ!!」


 エトゥスさんの顔面に枕がヒットする。

 仮眠室に置かれた枕はそれほど質が良いものでもなく、固い。

 それが勢いよく顔面に当たれば、当然痛い。


 シロは寝ぼけまなこのまま投げられるものがないか手探りを始めている。


「とりあえず逃げましょう。

 ちなみにいうと、この街に来るまで投げられるのは石でした」

「……枕でよかったです」


 加えて言うと魔力制御もできていなかったため、飛んでくる途中で急激に加速・減速を繰り返す魔球と化していた。

 さらに投げた石が時間の逆転によってシロの手元に戻ることもあった。最悪である。






~風王国 王城 宰相執務室~


 夜も更け、もうすぐ朝日が昇るという時間帯。

 男は、ついさっき届いた書類を読み終え、机の上に雑に放っていた。

 男の名はアーガルム。一見すればよぼよぼの老人である。


 肉体は全盛期に至った時点で成長が止まるのがこの世界の住人である。

 だが時に魔力制御がうまくない者は肉体の全盛期を超えてもなお成長が止まらないことがある。

 そのため老けて見える者は魔力の扱いが下手な者として馬鹿にされることもある。


 だがこの男はあえて自分の姿を変える魔術を使うことで老翁の姿をとっていた。

 こうすることで相手の油断を誘い、致命的なミスを待つのである。


 その証拠に眼光は鋭く、ギラギラとした光を放っていた。


「御子の死の原因を探る者が現れた、か……。

 全くもって余計なことをしおって……」


 全くもって面白くなさそうにつぶやく老翁。


「まあ良い。

 万が一にも解明されることがあったとしても、その時はその時。

 いくらでも対処できるわい……」


 昇り始めたの太陽の光が窓から差し込む。

 老翁は眩しそうに目を細め、次の書類に取り掛かり始めた。

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