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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第94話 晴天バトル①

 太陽が頂点を通り過ぎた頃。

 練武場の入り口を入ってくる人影が2つあった。

 1人は重厚な大剣を背に負ったシューヤ、もう1人はその隣を歩く光王だ。

 妻の数歩後ろを歩くシューヤは、眼前に騎士団員である部下たちと、その中に混じって会話をしているナギアとソルアを認める。

 2人とも背か腰にそれぞれの得物をぶら下げている。

 

 やる気は十分なようだな、とシューヤは思う。

 まだ誰もこちらに気付いてはいないみたいだが、場に残る空気は温まっている。

 自分たちが来るまで、それぞれお有意義な時間を過ごすことができたという事だろう。

 ……こうして放置されると拗ねるやつがいるんだけどな!


「私が、来たわよ!」


 案の定、妻が大声で自身の存在をアピールしながら集団の中に突っ込んでいく。

 その声を聴いた集団の中の何人かは後ろにいる己にも気づいたようだ。


「あ、陛下、ちーっす」

「陛下、騎士団の保管庫にある遺物の魔力がいくつか切れちゃったんで充填おなしゃーす」

「団長、お疲れ様です!」

「皆、団長に敬礼!」

「「「団長、お疲れ様です!」」」


 ……こいつら絶対分かっててやってるよな?

 何人か口の端が上がってるし、分かりやすいやつはルーの反応見ようとチラチラ視線送ってるし。


「すっごい不敬!!」


 ほらキレた。

 ルーは「怒ってます」を全身で表現するがそれに対する騎士団の対応はめっちゃドライ。

 よく見たら副団長まで混ざってるし。何やってんだあの人。


「あー……。おちょくるのもその辺にしような、皆。

 そろそろマジで泣くから」


 いまだ怒り収まらぬルーを抱きかかえながら皆を嗜める。

 そろそろ、と言ったが実はすでに涙目になってたりする。

 まあこういう所も可愛いので皆もやめないんだろうけど。


「皆は自主訓練か?

 それなら悪いんだけど、ちょっと今からこの場所を……」

「模擬戦ですね。

 先に来ていた2人からお話は伺っております」

「お、流石話が早いな。助かるー」

「ついでに待機中の他の団員にも声かけて、見に来るように伝達しておきました!」

「ほぼ全員来るそうです! では我々は観覧席の方へ行っておりますので!」


 ……そこまでしろとは言ってねえ。

 優秀だけど、こういうノリというかフットワークというか、異様に軽いよな……。

 根が明るすぎてたまについていけなくなる。……年か?


「……いやいや、まっさかー」

「ん? どうしたの、シューヤ?」

「なんでもないよ」


 ちょっと現実から目をそらしつつルーを観覧席の方へ運んでいく。

 その間にも続々と人が入ってくる。


 そして練武場に残ったのはナギアとソルア、そして俺の3人。

 観覧席はほとんどが埋まっている。

 騎士団員だけでなく、どこからか情報を仕入れた学院の研究員や学生も座っている。

 ……いや、マジでこの国の情報伝達の速度やべえよ。


 その中でも観覧席の最前列に陣取ったルーは宣言する。


「なんか想定してたより人増えてるけど、盛り上がりそうだからいいわよね!

 じゃあこれからシューヤVSナギアVSソルアの模擬戦を始めるわ!」


 ルーの開始宣言に会場が湧く。

 こんな状況になるとは想定していなかったけど。

 もっとひっそりとやるもんだとばかり。


「……っと、そんなこと考えてる場合じゃねえな」


 ナギアとソルアがそれぞれが持つ武器は当たっても斬れたりしない。

 自分が持つ大剣型遺物もしっかりと非殺傷状態(セーフティモード)が働いている。


 とはいえ当たったら痛い。

 だからもう一つ準備が必要だ。

 右腕に装着している銀色の腕輪型遺物を胸元で構え、起動コードを唱える。


「『早着替えくんVer.3』、起動!」


 瞬間、右腕の腕輪が細かな糸になるようにほどけ、全身に纏わりつくように絡んでいく。

 そして僅か数瞬の後、己の変わった姿をナギアが一言で形容する。


「……全身鎧?」


 頭部から足先まで体に沿うように装着されたメタリックな装備。

 鎧口部からその声に答える自分の声が音声拡張装置を通じて流れる。


『おうよ。複合遺物対人・獣決戦外装『メタトロン』。

 その名の通り、いろんな遺物をくっつけたり改良したりして作った俺専用の遺物だ』


 その声に応えるように鎧の魔力導線に黄色の魔力が通り始める。

 筋力増強、反応強化、高速演算……。

 様々な機能を備えた鎧が駆動を開始する。


 本来であればコイツは実戦限定の代物で模擬戦で使うことはない。

 だがこれはただの模擬戦じゃない。

 2人に対し、俺が圧倒的な実力を持っていることを証明するための模擬戦だ。

 だったら、全力を出さなきゃ悪いというやつだ。


『一瞬で片がついたりしないように気を付けろよ?』


 かけるのは挑発の言葉。

 勝手に委縮されて「十分な実力が発揮できませんでした」なんてことがあってもらっちゃ困る。

 とはいえこの鎧には威圧機能も搭載されている。

 その辺は心配だが……


「ふおおおお! 何今の! もっかいやって! もっかい!」

「今の早着替え、どういう原理で……?

 あの鎧を腕輪サイズまで超圧縮して……、いや実体を魔力に変換して……。

 服以外も似たことができるなら、遠征時の補給の問題が大幅に改善されるのでは……?」


 どうやらその心配はないらしい。

 キラッキラした目でもう1度の換装を催促するソルア。

 ギラッギラした目であやしいことを呟き始めたナギア。

 2人ともじりじりとこちらに近づいてくる。

 こいつら、たまーにだけど緊張感とかどっか行くよな……。


 あとソルア、そんな目で見つめてももうやらないから。

 俺も初めて見た時某特撮ヒーローが思い浮かんだけどさ。

 これ、一回やるだけで充填魔力の半分持ってくんだよ。

 だから元の服に着替えたら次の変身できなくなるんだって。

 ……すごい残念そうな顔をされた。いたたまれない。


「ちょっとアンタ達! 何で始まる前にそんなにくっついちゃうの!

 ほら離れて! はーなーれーなーさーいー!」

「むー!」

「……チッ」


 改めてお互いに等距離をとった俺たちに向けられるのは好奇の視線。

 外から来た希少属性の2人はどう戦うのか。

 それに対し俺がどう対応するのか。


 同時に俺に対してのみ向けられる思いがある。

 2人を相手にして、絶対に勝つであろうという信頼。

 ここにいる誰もが、俺の勝利を信じて疑わない。

 ……なら、その信頼には応えなくっちゃな!

 大剣を握る手に力が入る。


「――では、始め!」


 ルーの声が響く。

 そして、模擬戦が始まった。



● ● ● ● ●



 光王の開始の合図の声の残響が消える。

 しかし誰も動かない。

 場を静寂が支配する。


 ……ナギアは動けないよな。

 そうシューヤは冷静に判断する。

 今いるこのメンツで、ナギアが単独でどうにかできる相手はいない。

 だからナギアが勝つためには漁夫の利を狙うしかない。

 その証拠に、ナギアはこちらとソルアの様子をそれぞれ注意深く見ていた。


 ……シューヤさんは動かない。これは予想通りだ。

 全く同じ時間。ナギアも状況を分析していた。

 彼が光王に求められているのは、自分たち2人を制圧できるという証明。

 相手が何をしてこようと対応できることを示すために、待ちの姿勢を選択するはずという予想は的中していた。


 だから2人は考える。

 初めに動くとすればそれはソルアだ。

 それはこの国に来てからの彼女の行動力っぷりからも予想できる。

 だからこそ動きがないこの現状は異常だ。

 2人はお互いを目の端に捉えながらも、ソルアに意識を向ける。


 2人の視線の先。

 ソルアは目を閉じ、集中していた。

 右手に得物の槍を持ち、左の手の平を地面にかざすようにしてまっすぐ伸ばす。


 思い出すのはさっき教えてもらったこと。

 根幹象徴(シンボルシステム)。調整下手な自分が上手くやるための手段。

 深く息を吸い、浅く長く吐く。

 それに応えるように、ソルアの全身から立ち上るように金色の魔力が湧き上がる。



● ● ● ● ●



「アンタ達ね? あの子に象徴(シンボル)のことを教えたのは」


 観客席。

 光王は若い騎士団員の首根っこを掴むようにして問いただしていた。

 服の襟の後ろを掴まれた女性団員は口を尖らせながらも肯定する。


「そうですけど……。

 別にいーじゃないですかー」

「悪いとは言ってないわよ。

 あれ見る限り、変な教え方もしてなさそうだし」


 どうやら本当に怒ってはいないらしい、と女性団員は判断する。

 その後ろから一緒に象徴(シンボル)のことを教えた男性団員が呆れの混じった声をあげる。


「しかしいきなりぶっつけ本番でやるかねフツー。

 案の定、イメージも固まらずにぼやけちゃってるし」


 象徴(シンボル)と一言に言っても覚えてすぐできるようなものではない。

 それがこれまで象徴(シンボル)なしに使ってきた魔術と結び付けるというなら尚更だ。

 今まで無調整とはいえ無意識にできたことに意識的な部分を付け加えようとすればどうしてもぎこちなくなる。

 普段何気なくやっている歩くという行動を意識的にやろうとするのと同じだ。


 それを示すように観客の視線の先。

 ソルアから立ち上る魔力は煙のようにユラユラとしたものになるばかりで、象徴(シンボル)といえるようなものに結びついてはいない。

 それを見守る者の視線は、次第に幼子を見るような温かなものになる。


「残念だけど」


 しかし、ただ一人。

 光王だけが真剣な目でそれを見つめていた。


「あの子は天才よ。

 普段の言動がアレだからそう思わないのも仕方ないけど」

「……まさか、いきなりできる、なんて言わないですよね?」

「改めて言う必要なんてないわ。

 だって、ほら」


 光王は手の平をソルアの方へ向ける。


「もう出来てるもの」


 ソルアから立ち上る煙。

 それは次第に集まり、纏まり、絡みつき、1本の細い紐になる。

 編まれた金色の紐はソルアの右手から渦巻くように絡みつき、胸、頭、足先に至るまでその体に金色の線を残していく。

 残るは伸ばされた左腕。

 その左腕の肩から指先に向かうように金色の線は走る。


「……根幹象徴(シンボルシステム)ができているとして、あれは一体何の象徴(シンボル)なんだ……?」

「『時』のイメージに結びつく紐……?」


 観客席の団員たちは首を傾げる。

 象徴(シンボル)はその魔術にあった形をとるからこそ意味がある。

 時と紐。そのつながりの意味が分からない。

 その問いに答えたのも、光王だった。


「よく見なさい。あれはただの紐じゃないわ」


 遂に金色の光は左手の指先に至る。

 そこで金色の光は紐から形を変える。

 それは手の平に収まるほどの小さな円を縁取る。

 それは円の中に12の文字と2本の長さの違う針を持つ。

 結ばれたイメージは、ソルアの左手中指に引っかかるように保たれる。


 そこまで来て、団員たちは紐だと思っていたものが細かく編まれていた鎖であることを知る。

 つまり、ソルアがイメージした象徴(シンボル)とは、


「懐中時計……!」

「まさに『時』にぴったりなイメージね。

 それにこれは予想だけど、あの子、今まで自分が使ってきた魔術を全部あのイメージに統合したわよ?」

「……それって……!」


 女性団員は自分の息を吞む音を聞いた。

 複数の魔術を1つのイメージに統合する。 

 それは今まで別々の魔法陣で起動していた魔術を今後はあの懐中時計の象徴(シンボル)だけで使えるようになるということを意味する。


「……そこまで教えてないのに!」

「だから言ったじゃない。天才だって。

 さあ、あの子が動くわよ……?」


 ソルアは目を開ける。

 左手にはイメージ通りのものがある。

 ぶっつけ本番でもうまくいったことを確信する。


 これは今までできていたことを1つにまとめたものに過ぎない。

 それでもこれのおかげで、私はもっと強くなれる。

 心からこれを教えてくれた人たちに感謝を。

 ゆっくりと微笑み、左手の自身の魔力で編まれた時計をしっかりと握りしめ、ソルアは新たな力を存分に奮う。


『万華時計』(カレイドクロック)

 


● ● ● ● ●



 シューヤはソルアがこちらに向かって1歩目を踏み出すのを見た。

 間もなく来るであろう攻撃に備え、一瞬だけ右手に持つ大剣に意識を向ける。

 そして再び前を向いた時、


「っ!?」


 槍の穂先が眼前に迫っていた。

 く、と喉の奥から漏れる声と共に反射的に上体を逸らす。

 それでも槍の穂先は鎧のヘルメット上部を掠めていく。


 ……いきなり速くなりすぎだろ!?

 ソルアの加速魔術は時間が経過し、ノリが良くなっていくのに比例して速くなるというもの。

 初速自体はそれほどでもない、はずだった。

 だが今回避と同時に振り上げた大剣は相手に掠ることもなく空を切る。

 それどころか突きが躱されたと判断したソルアは一度大きく下がり、


「シイッ!」

「……っ!」


 今度は右に回り、逸らされた背中を下から打つように振り上げる一撃を繰り出している。

 判断は一瞬。

 逸らした上体を起こすのではなく、振り上げた大剣の重さに吊られるようにして地面から足を離す。

 そうすることで背面飛びのように迫り来る槍を飛び越える。


「あ、ぶ、ね、え!」

「……むう」


 それ以上の追撃を避けるためにも何度もバク転をして距離をとって、ようやく一息つく。

 2度の攻撃を避けられたソルアは不満気だ。

 ……不満を感じるってことはまだ諦めてねえってことだ。

 つまり、ここからまだまだ速くなる。

 余裕綽々とはいかないかもしれない。

 兜型遺物の情報処理システムが載せる様々なデータを目の端に映しながら、シューヤは大剣のグリップを堅く握った。

 


● ● ● ● ●



 正方形の練武場に連続した打撃音が響く。

 音は動くことなく、ただ1か所から響き続ける。

 その正体はソルア。

 残像すら見え始めた速度から繰り出される嵐のような攻撃。


「……おい、大丈夫なのか?」


 学院に勤める研究員は騎士団に入団した同期に思わず聞いていた。

 その嵐の中心でシューヤは幅広の大剣を盾のようにして耐えている。

 残像の向こうに見えるその表情はよく見えない。


「もう剣を槍に合わせることもできてないぞ……」

「鎧の防御自体が突破されていないとしても時間の問題か……?」


 観覧席のあちこちからも展開を不安視する声が聞こえ始める。

 この国は遺物の研究を通した技術発展が支えだ。

 その研究の集大成を振るう者が一方的に攻撃に晒されているというのはこの国に住人の精神的支柱をも揺るがしかねない。


「大丈夫なのか……!?」


 同じ言葉が漏れる。

 観覧席の最前列。

 落下防止用の柵を握る手に力が入る。


「大丈夫に決まってんだろ」


 騎士団たちが固まって座る席から声がする。

 涼しく通ったその声の方を見ると、騎士団たちが座っている。

 周囲の同様など存在しないように、泰然と座っていた。


「俺たちの団長だぞ?」

「もっと信じろよ。

 俺たちを。そして今までお前たちが積み上げてきたものを」

「――『速い』だけなんて、今まで何度も向き合ってきたっつーの」

 


● ● ● ● ●



 ……行ける!

 加速した時間の中。

 全てがスローに見える世界の中、槍を全身で振るいながらソルアは確信した。


 既にシューヤはこちらの動きを捉え切れておらず、防御に徹するのみ。

 あと数度の攻撃の後に、今度こそ渾身の一撃を入れてみせる。

 背中。右腰。左肩。

 立て続けに3発の打撃を叩きこみ、その全てに後れるようにシューヤの大剣が動く。


 その隙に真正面に回り込む。

 狙うは鎧の中でもシューヤの顔をすっぽりと覆うフルフェイスマスク。

 中心にある単眼のレンズを粉砕せんと右手に持つ槍を引き絞り、一気に突き放つ。

 間違いなく今日最速の一撃。

 

 しかし、その一撃は、


「ほいっと」

「……!?」


 下から掬われるように振り上げられた大剣に払われた。

 実に、あっさりと。

  


● ● ● ● ●



 ……硬くて速いってのはそれだけで一つの武器だよな。

 嵐のような猛攻の中、シューヤは考えていた。

 例えば拳銃から放たれた弾丸。

 僅か十数グラムの重さのそれは、音速を超えることで人体を容易く貫通する凶器となる。


 ソルアの攻撃も同じだ。

 小柄な体躯に硬さとしての槍、速度としての魔術が加わることで本来あり得ざる打撃を生み出している。

 目に映る情報の中には『メタトロン』の損耗率があるが、その数値はみるみると上がっていく。


 しかし。

 シューヤはそれを脅威と感じなかった。

 この国を襲う魔獣の中に、硬くて速いものなどいくらでもいる。

 己は、騎士団は、それらを退けてきたのだ。


 それを可能にしたのは、経験であり、知識であり、運であり。

 ……この国が積み上げてきた成果だ!


 『メタトロン』の高速演算機能。

 研究の成果によって解明、修復、改善されてきた機能の一つ。

 その役割はデータの収集及び解析。

 幾度も攻撃に晒されながらもその癖・軌道・威力の演算を繰り返す。

 そして、その結果として得られるものが、

 ……攻撃軌道の予測!


 本来であれば大量のデータがなければできないことだ。

 しかし、ソルアお得意の高速戦闘がここでは裏目に出た。

 わずか1秒の間に何十発も繰り出された攻撃は着実にデータとして収集され、あっという間に予測に必要なサンプル数に達した。


 そして、


「ほいっと」

「……!?」


 後はその予測軌道に沿うように剣を振るうだけ。

 シューヤの前には驚き固まった表情のソルア。

 猛威を振るった武器は彼女の手を離れ、空中でおもちゃのようにクルクルと回転している。


 後は振り上げたこの剣を振り下ろせばいい。

 シューヤは大剣の自重に任せるように、剣を振り下ろした。

 まっすぐと、ソルアの頭に向かって。

  


● ● ● ● ●



 唐突な逆転劇。

 観覧席で見ていた者たちは湧きあがり、騎士団に所属する者は大きくうなずく。

 騎士団は当然『メタトロン』の演算機能を知っていた。

 だからこその余裕だった。


 しかしこれにも弱点はある。

 例えば。

 データの元になるサンプルが1つもない攻撃とか。


「……っ! 団長!」


 観覧席最前列。

 光王の横に座る騎士団副団長が注意を鋭い声をあげる。


「思い出してくだされ! 敵は、一人ではないのですぞ!」 



● ● ● ● ●



 声は剣を振り下ろすシューヤの耳にも届いていた。

 そして気付く。

 嵐のような猛攻の中でも目の端に捉え続けていたもう一人の相手の姿。

 それがいつの間にか消えていて、


「――『瞬身』」


 すぐ後ろでその声がしている。

 いつの間に、と考える前にその敵の声が続く。


「纏魔之闘法。華炎流奥義、剛拳改造『曼殊沙華』」

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