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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第10話 密会

 この世界の真実を1つ知った夜。

 俺は「小隊長執務室」と書かれたドアを叩いていた。


「誰だ?」

「ロックです。

 夜分遅くすみません。

 少しお話よろしいでしょうか」

「入れ」


 部屋の中に入る。

 ゼルオス小隊長は書類を作成していた。


「ちょうどいい。

 今お前に関する追加の書類が完成したところだ。

 これを送れば上も早く判断してくれる……かもしれない」

「ありがとうございます」


 そゼルオス小隊長はおもむろに立ち上がり窓を開けると、


 完成したての書類の束を投げ捨てた。


「一体何をしてるんですか!?」

「あ? ああ、お前は知らないんだったな。

 よく見てろ」


 投げ捨てられた書類の束は重力に反し真上に飛び上がったかと思うと、どこかの方向へと飛んで行った。

 いや、飛んで行ったというよりは、飛ばされていった……?


「あれは『風便』って言ってな。

 こうして送りたい物を風に乗せて送れるんだよ」

「どこからでも送れるんですか?」

「いや、送れるポイントは決まってる。

 ここは王城との連絡地点でもあるからな、ポイントに設定されてるんだよ」


 送られた『風便』は一度『風便局』に集められ、検分されたのち風に乗せられて送り先に届けられるらしい。

 他の国には見られない風王国独自の情報伝達手段。

 非常に興味深い。


「途中で誰かに盗られたりしないんですか?」

「それはねえよ。

 風の流れに乗った物には守りの魔術がつくからな」


 守りの魔術?

 ということはこの『風便』は誰かが使っている魔術なのか?

 俺の疑問を察知したのか、ゼルオス小隊長の顔が誇らしげなものに変わる。


「この『風便』は風王陛下が常時発動なさっている魔術だ。

 この魔術はこの風王国全土を覆っているから、いつでもだれでもポイントに行けば『風便』を利用できるってわけだな」

「……ものすごい規模ですね。

 風王陛下は偉大な魔術師でもあるんですね」


 必要となる魔力は莫大という言葉でも表せないものになるはずだ。

 元の世界の魔術師と体のつくりが違うにしても規格外すぎる。


「王っていうのはその地位を継承なされるとき、歴代の王の力も継承するんだよ。

 歴代王の力はその王が治める領土内でしか使えないっていう制限はあるが、少なくともこの国の中でなら王より優れた魔術師はいねえよ」

「なるほど……」


 王はその国の領土内において最強。

 ならば……。


「王の御子が亡くなられたというのは、現風王陛下に逆らう勢力がいて、その継承を妨害しようとしたということですか?」


 継承する者がいなければ王はいつまでも王の地位につかなければいけなくなる。

 寿命がないとしても、精神までも永遠に保てるというわけではないだろう。

 そうして風王の勢力を削ることを目的とした犯行か?


 俺の推測にゼルオス小隊長は驚いた表情を浮かべる。


「あ、いや、違う。

 すまん、言葉が足りんかったな。

 確かに御子はお亡くなりになられたんだが、そんな物騒な話じゃねえよ。

 ……死産だったんだよ」

「……そうでしたか。

 すみません。適当な推測で発言してしまって」


 今のは失言だった。

 この国のどこかに風王国を害そうとする者がいると言っているようなものじゃないか。


 気まずい沈黙が流れる。

 場の空気を入れ替えるためにゼルオス小隊長が大げさなくらいに明るい声音で尋ねる。


「ところで、こんな夜遅くにどうしたんだ?

 シロの進路相談か?」

「だから、俺は彼女の親じゃないんですってば……。

 少し、これからについて相談がありまして」

「おう、どうした?」

「小隊長は何か功績を上げないと王立図書館に入ることはできないと仰いましたよね。

 何か、手っ取り早く功績を上げる方法、知りませんか?」


 異世界間の移動に関する情報が眠っているかもしれない王立図書館。

 俺が現在最優先で目指すべき場所である。


「その事か……。

 訓練の時にも言ったが、現在風王陛下の御子の葬式のために王都全体があわただしくなっている。

 そんな中、この葬式を差し置いてでもお前の王立図書館への出入りを許可するような功績など……」


 何かを思いついたように途中で言葉を区切るゼルオス小隊長。

 俺の顔をじっと見つめる。


「何か心当たりがあるんですね?」

「……ああ。

 だが、これは……」


 話を聞かないことには何も始まらない。

 何とかしてゼルオス小隊長の重い口を開かせなければ。


「何でもいいんです。

 ……俺には時間がないんです」


 咄嗟に何も出てこないため情に訴えるような形になってしまった。

 ゼルオス小隊長は話しづらそうにぽつぽつと語り始める。


「さっき、風王陛下の御子は死産だった、っていう話はしたな?

 この原因を解き明かせば十分な功績として認められるはずだ」

「原因……。

 何か不審な点でもあるんですか?」


 何か人為的な力が働いているみたいな言い方じゃないか。


「実はな、御子が生きて御生まれにならなかったことは今回が初めてじゃねえんだ。

 王が即位して今年で10年。

 その間に4回、王妃殿下は御懐胎され、その全てで死産となってるんだ」


 今回の死産で5回目。

 だが……。


「失礼ですが王妃殿下の御身体に何か御病気があるとかは……?」

「いや、そんなものはねえ。

 王妃殿下は至って健康体だ」


 とりあえずその線はないということか。

 ならば原因があると考えるのも不思議ではない。


「今まで人為的な原因の有無について議論がされたことはなかったんですか?」

「お偉方は何か考えてるかもしれねえが、俺はさっきのお前の物騒な話を聞くまでは考えたこともなかった」


 だって、それはこの国の中に王族殺しがいるかもしれねえって疑うことになるからな。


 先ほど言い淀んでいた理由はそういうことか。 

 原因があるということはこの風王国内に犯人あるいはそれに類する存在がいることになる。

 ……俺のさっきの失言がゼルオス小隊長に不信感を植え付けてしまったのか。


 国への忠誠が強そうなゼルオス小隊長としてはあってほしくない事実なのだろう。


「こんなことが何度もあったせいで陛下も殿下も大分参られているご様子でな。

 執務も側近の手を借りながらなんとかやっておられるらしい」

「ならその原因を明らかにして、問題が解消できれば……」


 王立図書館への立ち入りを許可してくれるだけの功績と認められるかもしれない。


「ああ、だがこれは何か原因があるっていう前提があって初めて成立する話だ。

 ただ不幸が続いているだけかもしれねえ」


 図書館への立ち入りのためには何か原因があってほしい、というのが正直な俺の気持ちだ。

 だが原因なんてなくて、ただの不幸であってほしいというゼルオス小隊長の気持ちも理解できる。


 ……今は目的のために最短距離を考えなければならない。


「ですが、他に功績と認められるようなものはないんですよね?」

「ああ、現王陛下が即位されてから何か大きな問題が発生したなんてことはねえ。

 ってことは、解決することで功績と認められるような事件も何もねえ」

「なら、今の俺はそれに縋るしかない」


 俺に多くの選択肢は元から用意されていない。

 今は可能性という細い糸に過ぎないものでも、掴むしかないのだ。


「ゼルオス小隊長。

 改めてお願いがあります。

 風王陛下とその周辺に関する情報、あるだけ全部ください」

「分かった。

 風王陛下が即位なされる少し前からの記録を貸してやる」


 現王の周辺情報という貴重な情報。

 正直断られると思ったがあっさりと承諾された。


「……随分と重要そうな情報を簡単に貸してくれるんですね?」

「もちろん、犯人なんていなくてただの不幸だった、ていう結論になれば一番いいと思ってるさ。

 だが、今の話を聞いて考えちまった以上、放っておくこともできねえ」


 余計な不安を抱えたままじゃ、ちゃんと仕事に向き合えねえんだよ。


 そう言って記録をこちらに投げ渡す。

 

「慎重に扱えよ。

 一応お前が調査を始めたってことは上にも報告させてもらうからな」

「…了解しました。

 ありがとうございます」


 ゼルオス小隊長に不安を与えてしまったこと。

 それは俺の責任だ。

 ならば事態の解決に尽力することが俺に今できることだろう。


「今日はもう寝ろ」

「いえ、早速頂いた記録を読み込もうと思います」

「わかった。

 無理すんなよ」

「はい。

 失礼します」

 

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