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This side and the other side 世界が変わって見えてから  作者: あこべうき
綺麗なゾンビ 【柄牧灯香】
7/10

7

 昼時になったので、妹と一緒にフードコートで昼食をとっている。

 俺も灯香も同じ物を食べている。

 ハンバーガーとチキンクリスプ、ジュースはコーラでポテトはMサイズ。

 俺の両脇には妹の誕生日プレゼントである服が入った紙袋と食品乾燥機の入った箱がある。

 妹に荷物を持たせて歩くのは、兄の沽券に関わる問題だ。だから、荷物持ちに自ら進んでなるの兄としては当然だろう。


「うーん、やっぱり早いだけで味はびみょー。

 私が作った方がジューシーで美味しく作れるね」


「そりゃ、大量生産品だからな。味がイマイチなのは仕方ないと思うけどなぁ」


「たしかにそうかもねー。

 ところでおにーちゃん、この後どうしよっか?

 欲しいのは買って貰ったし、私は満足かなって。おにーちゃんは行きたいところある?」


「あー、俺もとくにはないかな」


「じゃあ、一回家に帰ってから食材を買いに商店街にいこ。

 今日はちょっと豪勢に料理作らないとね」


「作るっておいおい、誕生日の主役なんだから今日はオードブルとかで良いんじゃないか?」


 そう言うと灯香は真剣な顔で俺を見つめる。

 どことなく気炎が見える気がして気圧された。 


「おにーちゃん、料理は私にとっては呼吸と同じような物なんだよ。

 料理の道は毎日の積み重ねが大事なんだから、だから私が作るの」


 それに。


「普段はコスパ的に作る事の出来ない豪勢な料理を作るチャンスだからね。

 帰ってからがすっごく楽しみだよ」


 そう言って楽しそうに笑う灯香を見て、チラリと脳裏に向こう側の世界のゾンビ化した妹の姿が過ぎる。

 向こうの世界の灯香も、ゾンビになる前はこんな風に料理に熱心で明るく笑う少女だったんだろうな。

 ……ああ、そうか。失念していた。

 もしかしなくても向こう側の世界の灯香も、今日が誕生日なんだな。


「悪い灯香、商店街の方で寄りたいところあったわ」


 ケーキだけは妹の手作りじゃなく、俺が店で買わせてくれ。



      ◇



「ドライフルーツはこれで良しっと。

 じゃあ、今日の晩御飯作るからねー」


「うーい」


 デパートからいったん帰り、妹と馴染みの商店街の方に行き食材等を買って帰ってきての今現在。

 俺は片手を上げて台所に立つ妹に答える。

 台所は妹の聖域、灯香の調理中に俺が踏み入ってはいけないのが暗黙の了解となっている。

 特に今日は普段作れない料理を作れると妹は息巻いている。うん、そっとしておこう。


(さて)


 商店街のケーキ屋さんで買ってきた3ピースのショートケーキと二つのいちごのシャルロットケーキ。

 いちごのシャルロットケーキを一つ皿の上に乗せて持ち、自室へ向かう。

 妹はこのケーキが好きだった。ケーキ屋に行って、妹は真っ先にこれを選んでいるぐらいには。

 だから、俺も向こう側の世界の妹用に同じのを一つ買った。

 

(安く済ませちまったなぁ)


 こっちの世界の妹とは違い、向こうの世界の妹にはケーキ一個だけで済ませてしまうあたりは薄情なんだろうかな。

 そんな事を考えながら部屋のドアを開けると、ゾンビ化した向こう側の世界の妹は窓の外を見ていた。

 窓の外は崩壊した世界が広がっているだけのはずだが、何か見えるんだろうか。

 そんな事を考えてると、妹は音に気付いて振り返る。いつみても、腐ったゾンビ共と違って綺麗なままだ。


「ただいま」


『アァ……』


 いつものように、言葉にならない声が聞こえる。

 その瞳はジッと俺を見ていて。

 俺はベッドに座りながら声を掛ける。


「今日は灯香の誕生日だな」


 灯香は近づいてくる。

 生気を感じさせない肌は、やっぱり妹がゾンビになった証で。


「ハッピーバースデー、灯香。

 これ、好きだったろ。プレゼントにしては安いけど、まあ食べなされ」


 その言葉に、灯香の瞳からは涙が流……れ?


『あぁ……ありが、とう』


 声が聞こえた。

 何が起こったのか分からなくなる。そんな俺に向けて妹は手を伸ばしてくる。

 伸ばされた手は俺の体をすり抜け空を切り、そのまま妹はベッドの上に倒れ込む。

 ちょっと待って、何が起きてる?

 妹の、意識が戻った? えっマジで?


『さわ、れない。

 おにー、ちゃん。ゆうれ、い、なの?』


「いや、生きとるから」


 そんな言葉を返しながら何とはなしに手に持ったケーキを見下ろす。

 何て言うか、マジか。いつか意識戻ってくれたら良いなとは思っていたが、本当に戻るとは。

 体を横にズラして空いた片手で妹の頭を撫でる。灯香は倒れ込んでから動かず、ただその瞳からは涙が流れ続けている。

 

「なあ、ケーキは後で食べるか」


 その言葉に灯香は無言のまま俺を見つめて。


『いま、たべる……』


 そう答えて、灯香はケーキに向けて手を伸ばす。

 伸ばされた手にケーキを載せた皿を渡すと、妹は空いた手でケーキを掴んで横になったまま口に運ぶ。

 もきゅもきゅと涙を流しながら食べている。泣いてはいるが、美味しそうに食べてるって分かるぐらいには笑みが浮かんでいた。



これにて今回の章は終わりです。

次回から新章へと入ります。

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