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最上先輩主催の合コンは楽しかったです。
とりあえず新人ナースの姫野さん、可愛かったなぁ。連絡先の交換できて良かったよ。
ついでに言えばゾンビを見えないようにするために全力で意識していたからメッチャ疲れた。
意識すればゾンビの姿を半透明に出来たり、完全に視界に映さないようにする事が出来る。
その結果、頭がグラグラして辛い。これが無ければ日常生活でもゾンビを見えないようにするんだけどなぁ。
「ふんふんふーん、今日は楽しいお買い物ー」
リビングのソファでぐでーっと横になっている俺の視線の先では、楽しそうに口遊みながら洗濯物をたたむ灯香の姿。
今日は七月十四日の日曜日。前回の妹を押し倒してしまった事故の埋め合わせに一緒に買い物をしに行く約束の日だ。
例え朝帰りで寝不足だったり、ゾンビを見えないようにした事による後遺症があったり、夕食を与えるのを忘れていて不機嫌そうだった妹ゾンビを宥めるのに疲れてたりしても、灯香の笑顔のために約束は守らなければならない。
ついでに、今日は灯香の誕生日だ。今日一日は灯香の言う事は何でも聞こう。
◇
灯香の趣味は料理だ。
休日はよく台所に立っては和洋中様々な料理を作っている。
ゆえに、朝昼晩の食事は全て灯香が作っていて俺は配膳の手伝いをするぐらいだ。
だから現状は妹にがっしりと胃袋を掴まれている。
ゆえに二人して街に出て、妹と一緒にデパートの料理に関する家電コーナーに来ている。
「むー、これはちょっと高いかな」
「灯香、高くても気に入ったの買えば良いぞ。
これは誕生日プレゼントになるんだからな」
「気に入ったのって言っても、お金はおにーちゃんが出すんでしょ。
そんな高いの買えないよ」
「一応、十五万までなら問題ないぞ」
「問題あるの、私が気にしちゃうんだから」
「そっか、まあゆっくり見れば良いからな。俺も付き合うから」
俺がそう言うと、灯香は「ありがと」と言って家電の方にまた向き直る。
俺はプレゼントというのが苦手だ。プレゼントは気持ちが大事と言うが、それが相手にとって不要な物だったり既に持っている物だったりしたら邪魔なものとなってしまう。
だから妹に欲しい物を選んでもらい、俺がそれを購入すれば良いという結論に達した。
軍資金はきちんとある。毎月親から生活費と一緒に送られてくる小遣い四万円。
月に一万円はへそくり貯金として貯めているため、頑張ろうと思えば二十万までなら出す事が出来る。
「うん、これにするね、おにーちゃん」
どうやら決まったらしい。手に持った箱を見せてくる。
買う物は小型の食品乾燥機、税込み3780円。予想以上に安い値段の物を選んでいる。
「良いのか、それで。もっと高いのを買っても良いんだけど」
「良いの、これで。あんまり大きいと置く所に困るし、この位で丁度良いからね。
じゃ、会計に行こー」
そう言って灯香は機嫌良さそうに食品乾燥機の入った箱を持ってレジの方へ歩いて行った。
その後ろを歩きながら、俺は周囲を見る。
予想通りと言うべきか、デパートの中にもゾンビは徘徊していた。
◇
意識して向こう側の世界を見てみれば、一階から二階へ上がる階段にはバリケードが見える。
バリケードは向こう側の世界にあるため、そのまますり抜けていく事が出来る。
上がった二階でもバリケードが破かれた形跡が無いのにデパート内部にゾンビが徘徊しているのは、きっと内部に逃げ込んだ人の中に感染者が居たのだろう。
よくある物語のパターンだ。
噛まれたりして感染しているのにそれを隠して、そうしてゾンビ化して他の生存者を襲って感染者を増やしていく。
きっとそんな感じなんだろう。
腐ったゾンビ共に、死体などが転がる目も当てられない程に酷い惨状の二階フロア。
此方側の世界へと視界を切り替えれば、多くの客で賑わう日常の風景が広がっている。
「ねえ、どっちが似合う?」
灯香はそれぞれの手に淡いピンクと水色の半そでのビックパーカーを持って聞いてくる。
現在、食品乾燥機の箱を持った俺は若者向けの服屋さんで妹と一緒に回っている。
にしてもどっちが似合うって言われてもなぁ。
「どっちも似合うから返答に困る。
両方買うのじゃダメか? 気分に合わせて着る感じで。お金なら俺が出すからさ」
「えー、そんないいよお金出さなくても。
それにどっちが似合うか聞いただけで今日は服を買うつもりも無かったし」
「いやいや、せっかくだから服も買うぞ。
プレゼント代が予想以上に安く済んだから、お金には余裕があるからな」
「そう? じゃあほんとに良いの?」
「良いよ。言っただろ、気に入ったのを買えば良いって。
今日の主役は灯香なんだから、妹のお願いぐらい今日は何でも叶えてやるって」
「そっか。ありがとう、おにーちゃん。
じゃあこの二着の他にも選んでみるね」
そう言って、二着のパーカーを持った妹は気に入る服がないかと歩き出し、その後ろを俺はついて行く。
そんな俺を追いかけるように、後ろから腐ったゾンビが付いてくる。
こんな光景を見ても俺は動じなくなってしまった。慣れって怖いなぁ。




