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時刻は深夜、俺は家からこっそり抜け出して住宅街を歩いて行く。
両親が海外に居るため、俺と妹の生活費と御小遣いは毎月口座に振り込まれる分で賄っている。
今日は小遣いの入った財布を持ってコンビニに向かう。何て言うか、買い出しである。
これも妹ゾンビが悪い。
ゾンビ化した方の灯香に関しては目に見える場所に置いていないと何をするか分かったもんじゃないし何処かに消えて行ってしまうかもしれない。
だから、やむおえず俺の部屋の中に監禁みたいなことをしているいるのだが。
今日はベッドで眠ろうとすると傍でお腹を空かせた子供みたいに俺を見つめてくるんだよ。
仕方なく、本当に仕方なく俺は妹の夜食を買いに行こうとすると心なしか喜んでいるように見えたし。
俺ってシスコンの気があるなぁってしみじみと思う。ついでに意識しながら道を歩けばチラホラと視界に嫌なものが映る。
夏場の茹だる様な温度を感じながら、げんなりとした気持ちになる。
それは向こうの世界の光景。普段のゾンビだけが見える視界、意識をして向こうの世界を見れば目を覆いたくなるような惨状が広がっている。
貪りつくされた死体が転がり、事故を起こした車が道端に放置され、そして落し物とかの色んな物が散乱している道。
ただ、そんな状況は此方には何の影響も及ぼさない。
まっすぐ歩いて行く。道中の道を塞ぐように横転した車は簡単にすり抜ける事が出来るし、足の踏み場もないような地面は意識して触れようと思わない限り障害にはなりえない。
そんな感じの悪路を歩くから、周囲のゾンビ共は障害に足を取られて俺に追いつくことは無い。
歩き続けていると目的の場所が見えた。
それは入り口が破られ窓が割れ放題となり、略奪されつくした店の姿。
(って違う違う、こっち側に戻れ)
意識を切り替えると全国どこにでもある二十四時間営業のコンビニの姿へと変わる。
向こうの世界の光景は消え失せ、今見えているのは此方の世界の光景だけだ。
「らっしゃーせー」
自動ドアをくぐり中に入ると、男性店員の気の抜けた声が掛けられる。
店内にはゾンビはいない。それだけで気が楽になる。
俺は声の主に向かって両手の人差し指を向けた。
「うぇーい」
「うぇーい、夜食か大日」
「そっすよ最上パイセン、灯香には内緒なー」
「おっけー」
そんな感じで挨拶しつつ適当に総菜やらスナックやらを買い込んでいく。
戸求馬最上、金髪耳ピアスで大学一年生の俺の高校のOB。
遊ぶためにここでバイトをしていて、そのせいで単位ギリギリやべーいってボヤいている。
そんな人だが人望は厚く、今でも合コンとかで人を招集すればすぐに集まるほど。
かく言う俺も最上パイセンの合コンに高校生の身ながら参加した口である。大学生のお姉さんって、良いよね。
「夜食にしてはすっげー量だな、どっかでパーピーでもするんか?」
ドンと置かれたカゴの中身について訊かれるが、俺は曖昧な顔を浮かべるしかできない。
大量の食料品は、パーティー用ではなく本当に夜食用である。それも一人のゾンビの胃の中に全部収まってしまう系の。
何だろうなぁ、ここしばらくの俺の御小遣いの使い道が食い物を買う事にしか使われたないような気がする。
毎月、財布が寂しい……。
「まあ色々とあるんすよ、色々と」
「そっかー。じゃあ深くは訊かんがっと、とりあえず代金はこんくらいな。
それと今度の土曜に合コンすっけど来るか? とりあえず男一人空いてんのよ」
「行くっす」
「おっけー、これで数が揃った。ちなみに今回はナースとキャビンアテンダントさんが来るぞ」
「マジで!?」
めっちゃ行くー!!
◇
「たくさん食ったなー」
あれから家に帰って、今回買った食料の三割が妹ゾンビの腹の中に消えていった。
満腹になったおかげか妹ゾンビは仰向けまま床で眠っている。
よく食って、よく寝る。そんな食っちゃ寝の生活をしているのに妹ゾンビの体型が変わる事はない。
不思議な物だと思いながら、妹ゾンビが食い尽くした食料の包装袋とかを片付けていると、後ろから肩を掴まれた。
ゆっくりと振り返れば、そこにはお子様パジャマ姿の灯香が笑顔で俺を見つめていた。
………。
「おにーちゃん、今何時?」
「……深夜一時でございます」
「おにーちゃん、その手に持ってたりそこに纏められてる大量のごみは何?」
「……お菓子です」
「いつ食べたの?」
「……今しがた」
「おにーちゃん、ちょっとお話しよっか」
「……oh」
この後滅茶苦茶説教された。うん、普通に不摂生だよね、はたから見たら。
でも違うんだ、妹よ。夜食でこれらを食ったのは俺じゃないんだ。
そう言いたかったけど、灯香には妹ゾンビを見る事が出来ないから言い訳をする事も出来ず。
俺は幸せそうに眠る妹ゾンビの隣で正座しながら妹の説教にただただ頭を下げるしかできなかった。
どうでも良いけど、ゾンビでも眠るもんなんだなぁ。




