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This side and the other side 世界が変わって見えてから  作者: あこべうき
意思持つゾンビ 【柄牧灯香】
10/10

3

「すごい、ごちそう!!」


 妹たち二人が風呂から上がってきて少し経ち。

 向こう側の世界の妹は目を輝かせてテーブルの上に並べられていく料理を見渡す。

 此方側の世界の妹はその様子を微笑ましく見ながらローストターキーを運んできた。

 毎度の事ながらすげーな、これ。味も美味いし。胃袋をガッチリと掴まれてる俺は灯香には逆らえませんわ。


「今日は私の誕生日だからね、だから豪勢に作ったんだ。

 いっぱいあるから遠慮しないで食べてね」


「誕生日? 誕生日……私も今日が誕生日!!」


「えっ、ほんとに?

 すごい偶然だね。ね、おにーちゃん」


 おっ、そうだな。すごい偶然だな。

 だから此方側の世界の妹よ、意味ありげに俺に話を振るのはやめや。何て答えたら良いか分からんから。


「すごい、すごーい!! 今日の夕ご飯すごい!!

 いつもは電気の付かない部屋でポテチとかチョコとかだから、今日の夕ご飯すごい!!」


 その言葉を聞いて、此方側の世界の妹は返す言葉に困ったのか強張った笑みになって俺を見つめる。

 俺もどう言葉を返せば良いか分からんよ。(はた)から訊くとネグレクト受けているようにしか聞こえんよな。

 固まっている此方側の世界の妹を不思議に思ったのか向こう側の世界の妹が表情にハテナを浮かべながら口を開いた。


「どうしたの、おねーちゃん?」


「ううん、何でもない何でもない。

 ……電気の付かない部屋にはずっといたの?」


「うん、ずっといたよ。

 でも大丈夫。いつからか分かんないけど真っ暗でもちゃんと見えるようになったから」


「そっか」


 そう呟いて、此方側の世界の妹は向こう側の世界の妹を抱きしめる。

 頭に回した手は優しく向こう側の世界の妹の頭を撫でていく。


「大変だったね、あかり。

 大丈夫、ここには明るい電気も美味しいご飯もあるから、それに私達は味方だから安心して良いからね」


「うん、分かった。おねーちゃん大好き!!」


 向こう側の世界の妹は抱きしめ返して、本当に嬉しそうに笑った。

 それにしてもあかり、か。どうやら妹二人は風呂の中でどう呼び合うか決めたらしい。

 此方側の世界の妹は今まで通りに『灯香(ともか)』と、そして向こう側の世界の妹は『あかり』と。

 そう呼び合う様に決めた様だ。

 もちろん、俺も今後は二人に対してその様に呼ぼうと思っている。


「それと」


 あかりは灯香から離れると、俺に抱き付いて来た。

 あっ、女の子特有の柔らかさ。それに風呂上りだからか良い香りがする。

 そんな妹が満面の笑みで俺を見上げてくる。


「おにーちゃんも、大好き!!」


 ……天使かな?


 ゾンビなのに天使とはこれ如何に。

 なあ、灯香よ。お前もそうは思わんか?


「うん、とりあえず手を出したら出頭ねおにーちゃん」


 そう、ニッコリとした笑みで灯香はそう言った。

 ……悪魔かな?



      ◇



 夕食を終えて時間が経ち、遅い時間になったのであかりは客間に敷いた布団の中で寝ている。

 いやー、大変だった。寝る時にあかりは俺と一緒に寝ると言い出したのだから。

 何とか俺と灯香の説得によりあかりは一人で眠ってくれたのだが。

 上目遣いで「いっしょ、だめ?」と訊かれた時は、俺の心はグラっとなってしまった物だ。

 うん、灯香がニッコリと笑みを浮かべて「おにーちゃん」と呼び掛けてくれなければ俺は確実にあかりと一緒に寝ていたと思う……灯香、目が笑ってなかったな。


「じゃあ、二人っきりになった事だし」


 夕食を食べていたテーブルを挟んだ向こう側で灯香は口を開く。

 

「あかりについて話そっか、おにーちゃん」


 そう言って、灯香は真面目な表情で俺を見つめる。

 家族会議、なんだろうな。

 まあ、そうなるよな。色々と、ありすぎたし。


「ああ……ただまあ、すまんな。今日は灯香の誕生日なのに」


「良いよ、別にそれは。人数が増えて楽しかったし。まあ、同じ顔に同じ名前で同じ誕生日なのは驚いたけどね。偶然って凄いねー。

 それで、あかりの事なんだけど……やっぱり、虐待されてたの?」


 ちらりと今は客間で寝ているだろうあかりの方へ視線を向けて、心配そうに灯香は口を開く。

 虐待って……なんか勘違いしてる?

 ……それで良いかもしれない。並行世界の存在うんぬんより、虐待されていた女の子を連れて来たって感じの方が現実味があるしそれで良いかも―――


「ちゃんとしたご飯も食べて無いようだったし、お風呂にも入れてもらえてない。

 それに見た目よりも幼いって言うのかな、まるで小さな子供を相手にするかのように感じたし。

 極めつけはあの子、電気の付かない真っ暗な部屋にずっと居たって言ってたんだよ。

 どう考えたって監禁されて虐待を受けてたとしか思えない境遇なんだけど。

 もしそうなら許せないんだけど、なんでそういう事が出来るのかなぁ……」


「そ、そうだな……」


 ―――しれないけど、罪悪感がぁ……。


 悲し気にやるせなく声を漏らす灯香に、俺は両手で顔を隠しながら相槌を打つ。

 ごめん、灯香。そういうことやったの、俺です。

 コンビニで適当に買ったのを与えてたり、存在する世界が違う故に風呂に入れる事を失念していたり、彷徨って行方不明になる事を防ぐために電気が付かない向こうの世界の俺の部屋に閉じ込めたりして、本当に申し訳なく思います。


「だから、おにーちゃん。あの子を家に匿うのは良いよ。

 あの子がこの家を出て独り立ち出来るようになるまで私は協力するからね」


 なんだろう、灯香はあかりを受け入れてくれて嬉しいはずなのに素直に喜べない。

 というより、さらに罪悪感が……。


「そういえば前にも同じ事があったねー。あの時のおにーちゃん、カッコよかったなぁ。

 やっぱりおにーちゃん、あの時からカッコいいまま変わらないね」


 そう言って笑みを浮かべる妹の表情を直視できない。

 そうだな、前にも同じ事あったなぁ。唯一の肉親に壮絶な虐待を受けていた女の子を助けるために家に連れ帰っての一騒動がね。

 いやぁ、あのクソ野郎。ほんと、土に埋めてやろうかって思ったなぁ。

 ……ハハハ、俺が向こう側の世界の妹に対して行ってきた事を思い返すと、状況的にあのクソ野郎と大した差が無いじゃねえかチクショウめ、土に埋まりてえ!!


 ……あっ、既に向こうの俺は土葬されてたわ。



短いですがこれで二章は終わりです。

次回から新キャラ追加の三章となります。

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