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サクッと読める様な作品です。
スナック感覚で軽く読んでいただければ幸いです。
世界が変わって見える切っ掛けは、世界的に流行した熱病に掛かってからだろうか。
酷い熱にうなされて、ようやく熱が引いた時には元の生活に戻る事は出来なくなった。
『アア、アァア……』
夕方の帰り道、足を踏み入れた公園。
前と後ろから腐った動く人間、いわゆるゾンビが俺に向けて手を伸ばしながら向かってくる。
いつも通りの世界の光景。
俺はスマホに繋いだイヤホンから流れる音楽に耳を傾けながら公園の一角に向けて歩いて行く。
『アアァ、アァァ……』
ゾンビの群れは眼前に迫ってきている。
俺はただ足を進める。
もうそろそろ接触する。ゾンビの伸ばされた手が俺の体を掴む様に動き、そしてすり抜けた。
「残念、干渉できるのは俺だけだ」
触れる事を意識して目の前のゾンビの肩を前に押すと、バランスを崩し仰向けに倒れていく。
そのまま歩みを続ける。ちょうど足が仰向けに倒れたゾンビの体を踏みつけようとするが、意識しないため体をすり抜けていく。
「すいません、チョコバナナを一つください」
「はーい、チョコバナナ一つですね」
目的の場所、クレープの移動販売車に辿り着く。
店員の女性は周囲にゾンビが居るにも関わらず笑顔でクレープを作り始める。
当然か。店員の女性にはゾンビが見えて無いし、ゾンビも店員の女性を認知していない。ゾンビは俺しか認知していない。
クレープが出来るのを待つ間、俺の周囲にはゾンビが集まってくる。
呻き声がうるさい。ついでにゾンビ達は俺をすり抜けるから奴ら同士でぶつかり合って倒れていく。
「チョコバナナ一つ、お待ち同様です」
完成したようだ。
俺は財布から小銭を出しながら店員の差し出したクレープを受けとる。
女性店員の隣では、女性店員と同じ顔をしたゾンビがこちらに手を伸ばしていた。
熱病にうなされてから俺、柄牧大日の生活は一変した。
視界には常に俺にだけゾンビ物の終末世界が映り込むようになった。
意識すれば現実と見分けがつくようにゾンビの体を半透明にする事も出来る。
集中すれば崩壊した世界の光景を鮮明に見る事も出来る。
念じれば手に掴んだ物を向こう側に送り込んだり、逆に向こう側の物を触れる事も出来る。
どうやら俺は並行世界と中途半端に繋がってしまったようだった。