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婚約破棄されて追放されたけど幸せです

作者: 相野仁
掲載日:2019/05/11

「リディア、君との婚約を破棄させてもらう」

 と侯爵の長男カールは言った。

 リディアは淡々とそれを受ける。

「理由をうかがっても?」

 彼女の言葉にカールはかっとなった。

「子爵令嬢をいじめたり、男爵令嬢にいやがらせをしたり。ひどい仕打ちをしてきたそうじゃないか?」

 なるほど、とリディアは思う。

 すべて濡れ衣なのだが、カールは信じているのだろう。

「違うと言っても信じてくれないのでしょうね」

「うそだ! ジュリーたちはそう言っている」

 とカールはわめく。

 ジュリーとはリディアの競争相手だ。

 一生懸命彼女の悪口を吹き込み続け、とうとう実ったというわけだ。

「もう顔も見たくない。出ていけ!」

 と言われて、リディアは頭をさげて退出する。

 そのまま馬車に乗って侯爵の屋敷を出て、実家に戻ると両親が出迎えた。

「ただいま戻りました」

 あいさつしたリディアを、父はいきなり平手打ちする。

「侯爵家に婚約破棄されたようだな、この出来損ないめが!」

「伯爵家の恥ですね」

 母は白いハンカチを取り出して目をぬぐって見せた。

 もう広まっているのか。

 リディアはジュリーの手回しのよさに感心してしまう。

「お前のような恥さらしを置いとけるか。追放する」

「もうあなたは私たちの子じゃないのよ」

 両親の言っていることの意味がすぐには理解できなかった。

「除籍処分ということですか?」

 リディアはさすがに顔色を悪くする。

 除籍とは貴族にとって最も不名誉な処分だ。

 貴族だった事実を抹消され、平民に落とされるのだから。

「当然だろう? 今すぐ出ていけ、この無能め!」

 父親だった男は真っ赤な顔でわめく。

「……かしこまりました。お世話になりました」

 リディアは心を殺して返事をする。

 最低限の礼儀を守ったのは、彼女の自尊心を守るためだった。



「ということがあったのよ」

 リディアは夫にそう話す。

「なるほどなあ。あの国の貴族らしいな」

 夫は端正な顔立ちを皮肉にゆがめる。

 彼女が国境で行き倒れになっているところを助けたものの、恩を着せようとしなかった。

 リディアは自分をどう思うかと率直にたずね、無事に(?)結婚したのである。

 夫は辺境伯の跡取り息子で、リディアの祖国から見れば積年の敵手と言えるだろう。

「君を追い出してくれた点には感謝かな。おかげで君に会えた。毎日が幸せだよ」

「ありがとう。私も幸せよ」

 リディアはにこりと微笑む。

 夫は毎日のように「君がいて幸せだ」と言ってくれる。

 至らない点はあっても、許せてしまう。

「まああの国ではいま政変が起こっているそうだがね」

「そうなの」

 リディアは興味を持たなかった。

 何の罪もない民が巻き込まれるのは貴族の娘として心が痛むが、貴族については違う。

 せいぜい滅びるがいいと思っている。

「あなた、出兵しないの? 領土獲得のチャンスじゃない?」

 と口に出して言う。

「ふふ。だいぶ私の妻らしくなったね。素敵だよ」

 夫はそうほめた後、答えてくれる。

「まだ早いだろうね。勝手に混乱し、勝手に力を落としているんだ。もう少し争ってもらおうじゃないか」

 毒がたっぷりとこもった発言は、リディアにとっては実に頼もしい。

「そうよね。早期に介入すると、共通の外敵が現れたと団結してしまうかもしれないわね」

 リディアはけっして無能ではないところを見せる。

「その通り。君は実に聡明だね。本当に君にひどい仕打ちをした奴らには礼をしたいところだよ」

 夫は笑う。

「あら、その時は槍と弓矢でお願いね」

 とリディアは言った。

 彼女は夫の言う「礼」の意味を理解していたのである。

「もちろんだ。炎もプレゼントしよう」

 夫はニコリと笑う。

 祖国を焼き払われると言われたのに、リディアの胸は痛まない。

「領民から略奪するのはできるだけやめてもらえたら」

 彼女は遠慮がちに指摘する。

 軍隊が敵地に攻め入った時、そこで略奪と暴行があるのは常だった。

 貴族がひどいめにあうなら、リディアは「ざまあ」としか思わないのだが、軍隊にひどいめにあわせられるのはほぼ民である。

 リディアは彼らに特に恨みはない。

「了解した。わが軍勢の規律の厳しさは大陸一と自負している。君の心が痛む展開が起こらないよう尽力しよう」

 夫が誠実に約束してくれたので、彼女はひとまず安心する。

「まあまだ先の話だけどね」

「そうよね」

 二人は微笑をかわし、優雅に食事を楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のザマ~まで読みたかった。
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