第七話 騎帝との対峙
ソラは夢を見ていた、
目の前には暗闇が広がり、その中から声が聞こえてくる、
神々しいような禍々しい声が。
神は嫌いか?
「嫌い」
ならば嫌え、いくら嫌おうが神はお前から離れない。
「もう慣れたもの、嫌いという感情を通り越して呆れてる」
神が憎いか?
「憎い」
ならば憎め、いくら憎もうが神には関係ないことだ。
「もう慣れたもの、憎しみを通り越して運命だと納得している」
神を消すか?
「無理」
何故だ? そなたが望めば我は消える。
「貴方が消えたら私は朽ち果てるもの」
神を認めるか?
「認める」
ならば力を授けよう、すべてを消し去る力を。
「力は欲しい、私が生き延びるために」
我はオメテオトル、すべての存在の根源、
生と死、光と闇、善と悪、このすべてを生み出す力をお前に授けよう。
そこで声は途切れ、視界には光が戻ってきた。
「どうした」
一番最初に聞こえた声はジェレイドのものだった、
「別に・・・・・・」
対話は実に短いものだった、なぜなら眼前には鉄で出来た要塞があったからだ、
これはイーターたちが食料調達――
――喰うために近くの町の人間を運び込むための要塞である。
何故このようなものが在るのか、ジェレイドはいつも疑問に思う。
当たり前だが要塞内にはかなりの数のイーターがいる、
それらをすべて相手にする馬鹿はいないだろう、
しかし残してしまえばすぐに情報が伝わり援軍が来る、
結果、イーターはすべて殲滅させなければいけない、
そのためディスアクト全員が習得している技能として、
気配や音を消して、敵に気づかれないようにすることは、
第一に習得しなければならない。
だが、今回はソラがいるため気配を消しても無駄、
イーターには色々な種がいるため、耳が無いものや目が無いものなどがいる、
そのため気配で敵を探す奴が多い。
「久々にやっちまうか?」
ガウスが笑顔で聞いてくると、ジェレイドは薄笑いを浮かべ、頷いた、
「そうだな、久々にやるか・・・・・・」
言うと、ソラを背負っていたためガウスに持たせておいた重剣を手に取り、
持っていた縄で落ちないようにソラを背負う。
ガウスはグローブを着けると、しっかりと拳を作る、
そして、地面を強く蹴りあげた。
扉近くにいたワーム型のイーターを扉ごと真っ二つに切り裂く、
分厚い鋼の扉は鍵が掛けられていたため倒れなかったが、
第二撃、ガウスが鉄拳で殴ると扉は十メートル程飛んだ。
扉が落ちた後、滑っていった跡には大量の血が付着していた、
恐らく扉にぶつかってイーターだろう、潰れて肉片と化してる。
「ぅうッ・・・・・・」
ジェレイドの背中からその光景を見ていたソラは嗚咽を吐いていた。
「見たくないのなら目を瞑っていろ」
ジェレイドはそれだけ言うと周りにいるイーターを重剣で切り裂いていく。
ガウスは裏拳や手刀などでイーターを潰していく、
返り血を浴びているが、毎回のことなので気にはならない。
走りながら横切る通路に向かい白銀の炎を飛ばして、
ガウスは炎に風を送り、さらに炎を大きくする。
炎の中では何体かのイーターが悶えていたが、すぐに地面に崩れ落ちた。
(戦うたびに自らの手で地獄を生み出すのは辛いな・・・・・・)
ジェレイドは心の中で呟きながら、通路を走る。
要塞の中枢部、薄暗い部屋の中には西洋の鎧――
デュラハンが胡座していた、
鎧は中から聞こえていたいびきが聞こえなくなると、
金属がぶつかる音を立ててデュラハンは立ち上がった、
「来たか、正面突破とは・・・・・・、ド派手じゃのう」
脇に置いてあった刀身が黒い剣を掴み立ち上がった。
そして、扉を切り裂き部屋の外へ出る、
計画に支障をだすものを消すために。
ジェレイドたちが突入してたったの数分で、
要塞内のイーターはほぼ全滅していた、
「もういいだろう、一度外に出るぞ」
「あいよ〜」
二人が振り向くとそこには、鎧が片手で剣を持ち立っていた、
「ッ!?」
二人は驚いた、鎧が動くには金属がぶつかり合うため音が出るはずだ、
しかしこれは音どころか気配さえ出ていない、
元からそこに在ったとしか思えない現れ方だった。
「なんだ貴様は?」
ジェレイドが聞くと、鎧は、
「騎帝、デュラハン、イーターの帝じゃ」
デュラハンは静かに告げる、
「貴様の目的は?」
「お主たちの始末じゃ」
そう言うと、いきなり剣で切りかかってきた、
(クッ・・・・・・、速い)
堅盾で防いだが足った一発で砕けた、
今まで戦ったことのない強敵だとジェレイドは悟った、
ガウスが背後に回り攻撃を加えるが、剣の側面で防がれる、
ガキン、金属がはじけるような音とともにガウスは壁に叩きつけられた、
「グッ・・・・・・!」
ジェレイドは力一杯剣で斬撃を加えるが、すべて防がれてしまう、
ソラを背負っているが、そんなものは気にならない、
「ぬぅ、やはり手強いのぅ、
まあいいじゃろう今回は傷一つだけでもいいんじゃからな」
刀身をジェレイドに向けるとデュラハンは、
神速とも言える速度でジェレイドに接近する、
そして、剣先を突き出す、
ジェレイドは避けたが、剣の軌跡は腕を掠めていた、
「ふむ、帰るか」
そう言ってデュラハンはその場から忽然と消えていた。
残ったのは、警戒態勢の白銀の灯火、不可視の烈風、
そして、すべてを生み出すものだけだった。