第一話 始まりの刻
轟音と爆炎の渦巻く戦場を駆け抜ける一つの影があった。
背には自らの身長よりも大きい大剣を背負って、腕には体全体を覆い隠すような大盾を持っている。
その影は戦場の中央にある崩れかけている塔へ向かっていた。
周辺には化け物の屍や人間の屍が山のようになっている。
地獄、この風景を一言で表すなら地獄、誰もがそう思う状態だった。
家は燃え、人は死に、大地が血で真紅に染まる、そうこれは地獄。
影は塔に着くと、軽く五〇kgはあるだろうという大剣を軽々と片手で振り上げた。
その刹那、大剣を振り下ろしたかと思うと塔は轟音とともに崩れ去っていった。
「ふぅ〜、任務完了・・・・・・、帰るか」
そう言い残し影はその場から消えた。
静かな廃墟、その中に1つだけ灯りの灯っている建物があった。
中からは賑やかな声が聞こえてくる。
するとドアを開けて建物に入っていく影が見えた。
建物の中に入ってやっと顔が見える、二〇代ぐらいの男だ。
「【カロンド塔の破壊】終わったぞ」
男はカウンターにいた老婆にそう言うと金を受け取りテーブルに座った。
しばらくすると酒が運ばれてきた。
隣に座っていた女が酒を飲みながら問い掛けてくる、
「もう終わったの?」
男は素っ気なく答えると酒を飲み干した。
「さすが『疾風』って呼ばれるだけのことはあるわね、
我等の『アイシクルウィンド』のマスター、ジェレイドさん」
女はからかいながら酒を次々と飲み干していく。
男は横目でそれを見ながら、頬杖をついている。
ここにいるやつは全員ディスアクトだ、自分からなりたいと思ったやつは誰一人いない。
ジェレイドもそのうちの一人だった。
わざわざ自分から苦しみを味わう必要もない、それ故に神々は選択の余地を与えない。
同意を求めていたら全ての生命が喰われ、そして消えていく。
「おい、マスター宛に依頼書が届いておるぞ」
カウンターにいた老婆が杖を突きながらヨタヨタと歩いてくる。
手には数枚の紙が握られていた。
ジェレイドはそれを受け取るとテーブルに置き、内容を読む、
「なんだ? 【アクスの『イーター』殲滅】、【カルナルドの住民救出】か」
【アクスの『イーター』殲滅】の詳細部分には、住民は非難完了済み、そう書いてあった。
カルナルドが先だな、ジェレイドは依頼書にサインすると剣と盾を持ち再び外に出て行った。
その後ろをつけるように先ほどの女が歩いていく。
「なんだ、これはオレ宛の依頼だ、着いて来るんじゃないエリサ」
ジェレイドが冷たく言ってもエリサと呼ばれた女は笑いながらついてくる。
防具は軽装で手には弓を握っていた。
ディスアクトにも職業というものは在る。
剣と盾を持ち敵陣に切り込んでいくナイト、後方から弓で仲間を援護するスナイパーなどだ。
ジェレイドはナイトの中でも特殊な、グラビティナイト、と呼ばれる職業に就いていた。
グラビティナイトは重剣と呼ばれる剣と、堅盾と呼ばれる盾を装備している。
ジェレイドはそれを軽く操ることができる最高の腕の持ち主だった。
「急ぐか・・・・・・」
呟くとジェレイドは走り始めた。
一歩遅れてエリサも着いてくる、彼らは知らなかった。
目的地で強大な力を持っている者が待っていると知らずに・・・・・・。