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イライライライラ

「ちょっと、何その顔」


バスティアンは帽子を握り締めながら私に近づき、突っかかってきた。緑色の吊り上がった目が私を映している。


「顔?」


わかるわけないだろ。自分の顔は見えないんだから。


「気づいてないの?ものすっごく嫌そうな顔してる」


仕方ないだろ。会いたくなかったんだから。


「失礼じゃない?せっかく会いにきてあげたのに」


バスティアンはむっとした表情で私を見上げる。


会いにきてあげただぁ?

なんだその恩着せがましい上から目線発言。私よりも背が低いくせに。


「なんで来たの?」


私は不機嫌な視線と声音を向ける。


「忘れたの?近いうちに行くって言ったと思うけど」


「………覚えてないな」


私はおそらく、ジトッとした死んだ魚みたいな目でバスティアンを見ているだろう。


「嘘だ。その間は絶対覚えてたでしょ?」


バスティアンは距離を詰め、そのたびに私は顔を背けた。


店の中に入って来るなりなんだよ。ほら、横にいるエヴァンスとシオンを見てみなよ。奇妙な客が入ってきたと思っているのか、二人とも呆気にとられてる。


「とりあえず、座れば?」


私は近づかれた距離分、離れる。


「待って、話は終わってない」


バスティアンは私の腕を掴んできた。

うっざ。


私はそれを軽く振り払い、自分よりも身長の低いバスティアンを見下ろす。


「オマエが何の話があってここに来たのかは知らないけど、ここは食事処なんだよ。飲み食いする気がないなら、帰れ。まじうざい」


「………っ」


私の睨みが効いたのかバスティアンは少したじろぐ。自分の顔は見えないが、私の今の顔はおそらく不良がよくやるガン飛ばし顔だろう。

それもそのはず。腕を掴まれたせいか結局予想通りの面倒事のフラグが立ったせいか私の機嫌はすこぶる悪くなっていたからだ。


むしろ、舌打ちされないだけありがたく思ってほしい。


バスティアンは負けずと睨み返すが結局は私の言葉のほうが正論と感じたのか、しぶしぶといった感じで空いている席に座る。


(あ~、めんどくさい)


私は早々に厨房に引っ込み、壁にゴンと額とつける。


淡々としたいのに淡々とできない。

無になりたいのに無になれない。


「レイ、あいつって………」


ゴンゴンと何度も壁に打ち付け、音を鳴らす私にアルフォードが店内のほうを窺いながら近づいてくる。


私も店内を覗こうとくるりと体を反転し壁に背中を預けた。

リーゼロッテとバスティアンが何やら話をしている。何の話をしているのか聞き取れないがリーゼロッテが笑ったり相槌を打ったりと楽しそうにしているのが見える。


アルフォードはそんな二人を見て、面白くなさそうだった。


あいかわらず、わかりやすい男だ。


「ほら、この前劇見に行った時ウィルが迷子になっただろ?そんときの………」


「そうなのか?………あ~、なるほどな」


それを聞き、アルフォードのむっとしていた表情が和らいだ。


「あとで俺から礼とか言っておこうと思う。弟が迷惑かけたからな」


「あっそ」


ヤンチャっぽい見た目なのに礼儀はしっかりしてるんだよな、こいつ。


バスティアンと話をしていたリーゼロッテが厨房にひょいと顔を出してきた。


「パンダのラテアートの紅茶とショートケーキをお願い」


「………なんで、私のほうをじっと見るんだよ」


「彼、レイに話があるみたいなの。だからレイが持っていったほうがいいと思って」


「ああ?」


思わず、低く唸ってしまった。視線を店内に移してみるとバスティアンがこちらをじっと穴が開くほど睨んでいる。


なんでそんなじっと見るんだよ、気持ち悪いだろ。


この場合は………………無視だ。


私はわかりやすいくらいに顔を逸らす。


「リーゼロッテが行ってよ。私、行くたくない」


どうせ、私がムカつく内容に決まってる。


「でもさっき、レイがケーキを持っていきますって言ったから………」


「………」


「だめだった?」


その目は節穴か。私がこう全身全霊で嫌だって態度で示しているのに何、勝手なことしてるんだ。

ちょっとは私の意図を汲み取ってほしい。


「レイ、指名されてるなら行ってくれないか。あとで俺も行くから」


「………」


アルフォード、お前も何言ってんだ。

まさか、バスティアンの目的がリーゼロッテじゃなく私だとわかってラッキーとか思ったんじゃないだろうな。

何にしても行かないけどな。たとえ今なお、うざいくらいに私にバスティアンの視線が注がれても。


まったくイライラするな、次から次へと。イライラしないようにしようと思ってもイライラする。なんで、私ってこんなにイライラしやすいんだろう。イライラする私にもイライラする。イライライライラ。イライラしすぎて疲れてきた。



いや、待てよ。少し練習してみるのもいいかもしれない。「無」になる練習を。

これから先、私が主人公である限り嫌がおうも面倒事は避けられない。でも、そのたびにイライラしていたら私の身が持たないには目に見えている。


だからこその無心だ。頭の中を「イライラ」というどす黒いイメージを「無」という真っ白いイメージに無理やりにでも塗り替えよう。マイナスなことばっかり考えているからイライラするんだ。


それにこの機会に自分の心と向き合ってみよう。どの瞬間で私のイライラのパーセンテージが揺れるのか。それと向き合ったらイライラの感情もコントロールできるかもしれない。


今から試してみよう。

バスティアンと話して無心の練習とイライラのスイッチを見極めよう。


「はぁ」


私は了承の代わりに深いため息をつく。


「リロから聞いたけどあいつって名の知れた役者なんだろ?もし、これがきっかけでこの店に足を運んでくれるようになったら集客力が上がるチャンスにもなる」


ふっふっふとアルフォードは声を潜ませながら笑う。


それか、それが狙いか。バスティアンの席に向かうように勧めたのはそれが一番の理由か。

この野郎。人がせっかく無心になろうとした矢先にイラっとするような笑いをするんじゃない。


私は声を潜ませてくるアルフォードの足を踏みつけた。


「痛って!」


「行ってあげるんだから、紅茶とケーキはそっちで用意してよ」


「行ってくれるの?ありがとう」


リーゼロッテ、そのなんだかんだ言いつつレイは頼みを聞いてくれるなんだ、みたいな顔やめろ。

お願いだから、私をイラつかせないでくれ。


さっきまで私のイライラ度だいたい61パーセント。今ので69パーセント。

とにかく、ケーキと紅茶が用意されるまで20パーセント下げないと。


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