さすがに言わないほうがいいよね
「何、話終わらせようとしてんだよ。それになんだその、自分に酔ってる言動は。逆にむかつくわ。こっちは殺されかけたんだぞ、しかも意味不明な理由でな。どんだけ怖かったかわかんないだろ?まさか頭一つ下げただけで済むと思ってんじゃないだろうな。リーゼロッテが遠まわしにオマエをフォローしたから私も同じように考えていると思ったら大きな勘違いだ。私にとってオマエは初めて会ったときから変わらず、最低なクズ野郎だ」
すべてを聞き取れるのが難しいほど早口且つ怒気を含ませて吐き捨てた。
「はっ、さすがに土下座は無理か」
今の私の顔はあくどい嫌らしい顔をしているんだろう。乙女ゲームのヒロインが攻略キャラクターに土下座を要求するなんてありえない。
でも、そんなこと知るか。私がヒロインだろうが、こいつが攻略キャラクターだろうが関係ない。私の命令という名の要求にシオンが従うかは別としてこれぐらい言ってやらないと腹の虫はおさまらない。
「わかった」
「え?」
私の変わりにリーゼロッテが声を上げた。
私の勢いで言い放った命令にシオンはゆっくり頷き、地面に膝をつけたのだ。まだ、湿った土に膝や手をついたらどうなるかくらいわかっているはずだ。しかし、シオンは私の言葉に頷いたあと、動きはゆっくりだが迷いのない動きで土下座を敢行した。
バロンの女性の常連客がみたら幻滅するだろう見事な土下座だ。
「本当にすみませんでした」
いつ、誰が通るかもしれないのにシオンは顔を上げなかった。
私はそれをただ黙って見つめた。そして深く息を吸い込み、ため息と共に吐いた。
私は動揺しているリーゼロッテの肩に手をのせ、ある言葉を呟いた。
☆★☆★☆★☆
私たちだけだった広場に徐々に人が入り、何事かとちらちらこちらを窺っている。
「あの、顔を上げてください。シオンさん」
私は途方に暮れ、おずおずどシオンさんに声をかけた。さすがにこのままではシオンさんが恥を掻くだけになってしまう。
「……」
しかし、それでもシオンさんは顔を上げなかった。シオンさんは待っているんだ。私ではなくレイが声をかけるのを。
でも、レイは。
「人も通ってきてます。一度でいいから顔を上げてください」
私はシオンさんに顔を上げさせようと切迫した声で肩をゆさぶった。
「……わかった。レイ、本当に……あれ、レイはどこ?」
シオンさんは私に目も向けず、レイの姿を探した。
「あの、実はシオンさんが土下座をしたすぐ後に帰っちゃいました」
「帰った?」
呆然としているシオンさんから顔を背けた。
「すみません。レイに広場から出るまで絶対に教えるなって言われてしまって」
「……ふ、ふふふ」
シオンさんは顔を下に向け、肩を震わせているさすがに土下座させておいて何も言わずに広場から出て行ったことに対して怒りを感じているのだろうか。
「あ、あの……」
「はっははは、ははは」
「シオンさん?」
シオンさんは怒るどころか口に手を当てて笑い出した。てっきり怒ると思っていた私は戸惑い気味にシオンさんを見つめる。
「いや、ごめんごめん」
そう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「俺、おかしいのかな。普通、土下座を要求させておいて帰るなんてありえないだろ。しかも、音もなく。それなのに、これがあの子らしいって、あの子らしくタチが悪くて逆に笑えるって思うよ」
そういいながらシオンさんは手や膝についた土を何回もはらっている
こんなことさせられて怒るどころか可笑しそうに笑うなんて。
改めてレイってすごい子だと思う。不快な印象を抱かれがちなのに関わりを絶ちたいと思わせないなんて。
でも、さすがにあれは言わないほうがいいだろう。レイが私の肩に手を置きながら呟いた言葉は他にもある。
『本当に土下座するなんてありえない。気持ち悪いしヒクわ』




