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やっぱり今日は外に出なきゃよかった

その視線の先にいたのは果物が入っている紙袋を抱えたリーゼロッテがいた。


「レイ」


リーゼロッテのほうも私に気づいたらしく人ごみを避けながら私の元に駆けてきた。


「今から帰るところ?」


「まぁね。ほんとに来たんだ。あいつから聞いたんだけど、別に今日は来なくても良かったんじゃないの?」


おかげで私はすんなり帰ることが出来たけど。


「私も最初はどうしようか迷ってたんだけど、園長が「後はいいから行ってきなさい」って言ってくてたの、ちょうど雨が上がったしね」


「あ~、あの園長」


「園長は知ってるから。私があの店を守りたいって気持ち。本当だったら孤児院で小さい子の面倒を見なきゃいけないんだけど私、どうしてもアルを手伝いたくて園長に頼み込んだんだ。園長はそんな私の気持ちを汲んで応援してくれているの」


「へぇ」


なんて素敵な話だ。でも、心に響かないのはありがちな話だと思うからだろう。


「でも、本当に雨が昼時に上がってよかった。傘を差しながら荷物を持つなんて難しいから」


そう言ってリーゼロッテは嬉しそうに晴れ渡った空を見上げた。


今日の私は天気に振り回されている。行く手を阻むように雨が振ったり苛立ちを煽るようなタイミングで雨が上がったりしている。そのため、リーゼロッテのように気分良く空を見上げることができない。


「………もう、いいや」


「どうしたの?」


「別に」


さきほどまでは誰かに八つ当たりしたくて仕方がなかった。でもリーゼロッテにばったり出会い、話をしていたらいつのまにか毒気が抜かれ、どうでもよくなった。


命拾いしたな、うさぎ。私はうさぎを横目で見上げようとした。


「!!??」


再び、あの嫌な感覚が襲ってきた。背中から電流が放ったかのような嫌な感覚。

この動機は決して歩いてきたものではない。この悪寒は決して冷風のせいではない。


やっぱり誰かに見られている。


嫌悪感が体中を這いずり鳥肌が立つ。より視界を広くするため今度は帽子を脱ぎ、周りを見回した。誰が見ているか分からない状況だと皆が敵に見えてくる。


「どうしたの?レイ」


私の挙動を不審に思い、リーゼロッテが声をかけた。


「なんかさ、私。誰かに見られてるみたい」


周囲を警戒しながら答えた。


「ええ!?」


リーゼロッテは声を上げ、紙袋を落としそうになる。


もし、いきなり襲われたりしたらどうしよう。

頭を殴る?腹パンを決める?首の後ろを手刀で打つ?そうやって気絶させる?

無理だろ、そんなの。

そんなに上手いこと人を気絶なんてさせられないし、簡単に気絶だってできない。それに下手に力加減を誤れば最悪牢屋行きになってしまう。サスペンス劇場みたいにビンで頭を一発殴っただけであっけなく亡くなる可能性だって十分ある。

一応、ここはフィクションの世界なので簡単に気絶させることなど物語の都合上容易になることもあるが、乙女ゲームのヒロインが攻略キャラクターの関係ないところで暴漢を気絶させる場面なんてなかなかない。そういう役割は男性陣がやるものと相場が決まっている。腕っ節が強い肝が据わった戦うヒロイン系だったら話は別だが、リーゼロッテもこの身体の持ち主である『レイ・ミラー』もそんなタイプではない。

大体武器になるようなものだって持ち合わせていない。精々ジャケットに入れている財布とチェーンがついた懐中時計くらいなものだ。


私は右ポケットに入れた金色の懐中時計を取り出した。表面がつるつるとした金属製の掌サイズの懐中時計。とても武器になるとは思えない。せいぜい使えるものと言ったら首を絞めるためのチェーンくらいだが、首を絞めて気絶させるなんて手刀よりももっと難しい。プロの暗殺者じゃあるまいし。


「やっぱりノアか」


どうにか念動力のノアで上手く切り抜けるしかないようだ。

私はチャーンを持ちながらくるくる懐中時計を回しながら考え込む。


「レイっ」


「ん?」


そういえば、リーゼロッテがまだいたんだ。居るのを忘れ思考を飛ばしていたため、リーゼロッテの呼びかけが現実に引き戻してくれた。


「レイ、店に戻ろう。一人で帰るのは危険だよ」


「戻るの?」


「レイの家ってここから30分ほどかかるじゃない」


リーゼロッテは必死で私を引き止めようとする。確かにこのまま一人で帰るよりはしばらく店の中にいたほうが安全だ。襲われる心配もない。でも、店に帰ったら必然的に仕事を再開することになるだろう。もう、私のやる気スイッチはどうやってももうオンにはならない。


でも、やっぱりモブキャラには襲われたくない。そのまま死亡エンドなんてもってのほかだ。


「じゃあ、アルに連絡するよ」


「え~」


リーゼロッテは私の返答を聞かないまま事を進めていった。


「いいよね?」


リーゼロッテはじっと私を見据える。その目は真剣そのものだった。琥珀色の射抜かれるような瞳に見つめられ思わず息を呑む。


「また戻らなきゃいけないのか」


回していた懐中時計を止め、手の中に収める。

やっぱりこのまま一人で帰るのは危ないよな。


やっぱり今日は外に出なきゃよかった。一度、イベントに時間帯が関係しているか試してみたけど、結局は午前も午後も関係なく、面倒事に関わらざるを得ないという結果になった。


むしろ、今日は昨日よりも面倒事が特大になっている気がする。

いや、それは当たり前か。日を追う事に事件に遭遇しなければ話が進まないから。


何をしてもどこにいてもやっかい事の遭遇イベントは免れることはない。某原作の推理漫画の小学生の主人公のように否応なく、色んなものを引き寄せてしまうということか。


もう、開き直ったほうが楽かもしれない。もういっそのこと楽しもうかな、この状況を。

(って、楽しめるわけねーだろうが!!!)


開き直ったら楽なんてとんでもない。むしろ、気苦労が重なってぶっ倒れるわ。


なんだかまたあの青空が憎らしくなってきたな。

私がこんなに悩んでいるのに、雲に隠れていた太陽がいつのまにか顔を出し高く昇っている。


私はその光を顔から反らすように帽子を左手で深く被り直した。



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