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絶対いやだね

バスティアンは私から少し距離を取り、そのまま黙り込んでしまった。

このまま嫌われえたままだったらこの先、楽なんだろうけど。頼むから無駄に攻略キャラクターと絡んでしまう主人公補正発動しないでほしい。一人くらいはこのままさよならしたい。

もう、無駄に疲れるような展開はこれ以上欲しくない。


今、一体何時くらいだろう。もう4時過ぎたのだろうか。懐中時計で時間を確認したのに暗闇のせいで針がどこを指しているのかわからない。


「寒い」


思わず口に出してしまった。寒さで震えが止まらない。時間が経つにつれ、冷気が体の芯まで浸み込んでくる。なにか膝の上に掛けられるものはなかったか。

ここは地下倉庫。身体を覆うことができる布はないだろうか。たとえ布がなくても舞台の衣装を何枚も体の上に重ねれば多少の寒さは凌げるはずだ。この際、多少のほこりは気にしまい。


私はさきほどのバスティアンと同じ動きをしながら地面をペタペタと探るように手を伸ばした。


地面を探っていると何かが手に当たった。それは四角い箱のような形をしており、箱の細長い側面がザラザラとした感触になっている。振るとかさかさと音が聞こえる。


この感触、形、音、間違いない。マッチ箱だ。

私は舌打ちしたい気持ちをぐっと我慢した。


なんでこのタイミングで隣の人間が探していたものが見つかるんだよ。

しかも、私のすぐ傍に。


いっそ、マッチ売りの少女の如く一人で全部使おうか。

探していたものを勝手に使われ、しかも一人で暖を取る女なんて絶対嫌うだろう。


「あの子に渡さないの、そのマッチ箱?」


そうしようかと考えているとうさぎがさも当然のように話しかけてきた。

私が何を持っているのかわかるのか?目が慣れてきたとはいえ、こんな掌サイズのものはっきりとは見えないだろう。


そういえば、動物特番で誰かが言っていた。うさぎは人間よりも夜目が利くと。うさぎの習性がこのうさぎにも同じようにすべて備わっているのかわからないが、夜目が利くという点は間違いないだろう。


(しかし、同じ習性を持っているとしたらこいつも自分のうんこを)


いや、今はそんなことを考えている場合ではない。


「なんで?」


私はできるだけ声を潜ませた。


「あの子、きっと、それを探していたんだよ」


だろうな。渡さないけど。

私はうさぎからぷいっと顔を背けた。


「え?渡さないの?あの子ランタンを持ってるんだから、何も見えないこの状態が少しはマシになるはずだよ。君だって真っ暗闇よりはそっちのようがいいでしょ?」


絶対いやだね。今さっき嫌われたままでいようと決心したばかりなんだ。マッチ箱を渡したりなんかしたら、好感度が上がってしまう恐れがある。まさかマッチ箱一つで好感度が上がるとは思えないが用心に越したことはない。


「もしかして今後絡まれないためにこのまま嫌われたままでいいって思ってる?だからマッチ箱渡さないの?そしてこれ見よがしに一人で暖を取ろうとしてる」


私、言ってないよな。このうさぎ心を読んだのか。


「怜、渡してあげなよ」

(いやだって言ってるだろ)


「君が攻略キャラクターたちと関わりたくない気持ちはよく知ってるけどさ、このままじゃ嫌われるっていうより恨まれるよ」

(それが狙いだ)


「変に反感買ったら、もしかしてバッドエンドになる可能性だってあるよ。君だって嫌でしょ?そんなの」

(アホか。いくらなんでもマッチ箱ひとつでバッドエンドになるものか)


「僕としてはこのままさよならなんてして欲しくないんだよ」

(そりゃそうだろうな。私のことサポートするって言ったって結局は神の下僕だからな。このまま一人攻略キャラクターが減ったら困るよな)


「僕はあんまり君が人に嫌われるところは見たくないんだよね」

(あっそ。悪いけどまったく心に響かないわ)


「たかだかマッチ箱って思っているなら別に渡してもいいんじゃない?」

(さっきからうるさいな)


「マッチで暖を取るよりランタンで取ったほうが暖かいって」

(しつこいな)


さきほどから私の頭上でうさぎが飛びながら訴えている。

マジ鬱陶しい。


「ほらほら………」

(うるさい)


私はマッチ箱を握ったまま、ハエを払うように腕を振った。

ほんと、鬱陶しい。


「ほらほらほら………」

(うざい)


暗闇で輪郭しかはっきり見えないため、余計に苛立つ。最初は軽く手で払おうとしていたが、徐々に本気で張っ倒してしまおうかと考えはじめていた。


「ほらほらほらほら………」

(このウザうさぎ)


私はうさぎを本気で張っ倒そうと腕を振り上げた。


「あ」


振り上げた瞬間、反動で握っていたマッチ箱を放り投げてしまった。放り投げた先は、なんとバスティアンが座っている場所だ。


「え、何?」


しかも、上手いことバスティアンが座っている膝元に乗っかってしまったらしい。


「………………」


「ぐげっ!?」


バスティアンにマッチ箱が渡ったと知った瞬間、目にも止まらぬ速さで浮かんでいたうさぎの体を握り締め、閉まってしまった扉のほうに思いっきり投げた。


ごん!


うさぎの叫びとともに大きな音が地下室に響いた。


「今の音って!」


「荷物が崩れたんじゃないの?」


これからはあのうさぎのことをウザブサギって呼んでやる。


「これって」


バスティアンはすぐ私が何を投げたか察したらしい。

くそ、しかたがない。


「近くにあったら」


「なんで」


「私が持ってても意味ないし」


しばらくしてかしゃりとした金属音が聞こえた。傍に置いたランタンを手前に移動させているのだろう。バスティアンは黙々と手を動かしてマッチに火を灯した。暗闇の中の淡い炎の光に思わず、視線を向ける。マッチに灯した火をランタンのろうそくに灯すと、一気に明るくなった。おぼろげにしか見えなかった視界が良好になり、少なからず安堵する。バスティアンはランタンを持ったまま立ち上がり、数歩私に近づき、ランタンを二人の間のちょうど真ん中に置いた。


「いいの?」


「別に」


バスティアンは淡々と答えた後、元の場所に座った。

膝を抱えながら炎のゆらめきをぼんやりと眺める。ただゆらゆらと炎が揺れているだけなのに、不思議と気持ちが落ち着いていく。


「早く帰りたい」


もうなんでもいい。

早くここから出して欲しい。


「ねぇ」


「………は?」


まさか話しかけられるとは思わなかった。


「そんなに、つまらなかった?今日の舞台」


「何?」


「眠ってしまうほどつまらないものだった?」


「!!??」


バスティアンに顔を向けたとき、驚愕した。ほろほろと涙を流していたのだ。ランタンの光で暗闇で見えなかったバスティアンの顔がはっきりと照らされている。涙は頬を伝るようにではなく、睫毛の先から零れ落ちるようにして流れている。


「あ~あ、泣かせちゃったね」


いつのまにか近寄ってきたうさぎをまったく見ることなく、再び同じ場所に向かって投げ飛ばした。


ごん!


再び、地下室が響く。


「何!?」


「また崩れたんじゃない?」


私は淡々と言った。


「………もしかしてさっきそれで泣いてたの?私が寝ていたのがそんなに悔しかった?」


子どもとはいえ、主演を任されている少年がたった一人の客が寝てたくらいで普通泣くか?

しかも泣いたのがこれで二回目。


ありえない。そう思いつつ、怪訝な顔を向けながら少年の次の言葉を待った。


「………………」


しかし、少年は何も返さない。


何も返さないということは図星かよ。

私は嫌がおうにも隣で泣いている少年の涙に見入ってしまっていた。




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