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あ~あ、閉じ込められた

「いなかったわ」


私は一階の通路を仏頂面で歩いている。公演が始まる前、ざわざわしていた雑踏はすでに消えており、劇場を素通りする通行人の何人かが目に入ったが肝心のウィルの姿はなかった。外にはいないとわかり、再び劇場内に戻ったところだった。


「私の中で一番いる可能性が高かったのに」


歩きながらがっくりと項垂れる。


「よく考えれば、あの子って探知能力のノアがあるんだよな?だったらこんなに歩き回る必要ってある?」


いっそ、歩き回らず向こうからやってくるのを待っていたほうが早いのではないか。


「必ずしも完璧にノアを発動はできないと思う」


「は?」


うさぎはいつのまにか説明書を広げている。


「ウィルみたいな幼年期はまだノアは未熟すぎるから上手く発動できないときもあるらしいよ……一週間に一回しか使えない子もいるって書いてある」


「それさきに言えよ」


確かに生まれたときからノアを完璧に使いこなせていたらノアのアカデミー学校なんていらない。ウィルがもし一週間に数回しかまだノアを発動できなかったら私たちを見つけることは出来ないということだ。やっぱり、こちら側が探し回るしかないということか。一階で探していないところとなるとさきほど思いついた関係者以外立ち入り禁止の控え室か物置部屋だ。たしか物置部屋は1階のオフィスを出たすぐ左通路にあったはず。まずは通路の奥にあるという物置部屋から調べるか。


通路の一番端は光が遮断され、足を進むにつれ影が濃くなっていった。一人もすれ違うこともなく、あたりはしんと静まり返っており、薄暗さと相まってよりうす気味悪く感じる。


「ここか」


物置部屋の扉は大きく両開きになっていた。扉にぐっと力を入れるが扉は見た目どおり少し重い。こんな重い扉開けてまで中に入ろうとするか?私でも簡単に開け閉めできないのにウィルみたいな子どもが扉を開けること自体できないのではないか。

そう思いつつ、確認のため物置部屋に足を踏み入れた。

物置部屋には小さな窓が一つ付いており、そこから光が入り部屋を照らしている。その光のおかげで周囲を目視することができるので窓から差す光はありがたい。物置部屋なだけに部屋中ほこりが充満しており、手でパタパタほこりを払いながら周囲を確認した。


すぐに目に付いたのは箱だ。ダンボールのような四角い箱がそこらじゅういくつも積み重なっており、天上まで届きそうなほど高い。少しの振動で崩れそうだ。


「ウィルいる?」


私は箱が崩れないように慎重に避けながらゆっくり歩いた。私が歩くたびほこりが舞い上がり、軽く咳き込んでしまう。


「ここにはいないみたいだね」


うさぎが部屋の隅まで確認し、戻ってきた。


「次に移動だ」


私は身体の向きを変え、部屋を出ようとした。


「怜、あれ」


うさぎに肩を軽く叩かれ、振り返った。

床に扉がついており、しかも上がっている。上がっている扉の下に目を向けると階段があった。物置部屋に入ってすぐの位置からだと箱が邪魔になり見えなかった。

床下倉庫か。初めて見た。


「って、あんなところにいるわけないだろ。かくれんぼしているわけじゃないんだから」


「確認だよ確認」


「絶対いない」


「すぐ行って見るだけじゃんか。別に手間がかかるわけじゃないんだから」


「ちっ」


「いちいち舌打ちしないでくれるかな」


したくもなる。こんなほこりまみれの部屋一刻もはやく出たいのに。余計なもの見つけやがって。

いるわけないだろ。なんであんなところにいるんだよ。


「………でもここはそんなありえないころがありえてしまう世界なんだよな」


99%居る可能性はないが1%のわずかな可能性がある以上、確認はしたほうがいいだろう。私は盛大なため息をはき、階段を下りていった。


「ウィルいる?いないよね?私行くからね?」


地下倉庫は光が入っている地上とは違い、かなり暗い。それに天井との幅の距離も近く、全体的に狭い。周囲には舞台で使われるための小道具や衣装が置かれていた。イスとテーブルが隅に重なり合って置かれているのが見える。


予想通りだ。やっぱりいない。3秒で確認できたわ。

無駄なことさせたなうさぎ。


私はうさぎの額を強く小突いた。


「いっ!?小突くことないじゃん」


「ちっ」


「あ、また舌打ち」


ここもほこり臭い。今の舌打ちは八つ当たりも含まれている。


「誰かいるの?」


後ろから声がした。階段を下りる音が聞こえ、振り返る。


「あ、さっきの」


さきほど泣いていた少年だ。


おいおい、ここでばったり遭遇するのかよ。


「なんでここにいるの?」


少年の声は堅い。張り詰めた緊張がピリピリと伝わってくる。

そりゃそうか。


「ここは関係者以外立ち入り禁止なんだけど?」


ゆっくりと階段を下り、近づいてきた。手に何か持っているが、光を背にしているため何を持っているか判断がつかない。少年は階段を下りたときそれを隅にゆっくり置いた。

とりあえず説明するか。さきほど言いそびれたウィルのことも聞くチャンスだ。


「ここにきたのは―」


「やっぱり性質の悪い客だったんだ」


「は?」


少年は私の言葉を遮り、棘々しい口調で吐き捨てた。しかも最低な思い違いをしている。


「ただの客が普通こんなところに入り込まないでしょ?たまにいるんだよね、舞台の小道具を勝手に盗み出そうとする客」


「いや、違うし」


「さっきのことは僕を油断させるための嘘だったんでしょ?危うく騙されるところだったよ」


「だから」


「とりあえず、人呼ぶからそこに―」


「話聞けよ。違うって言ってんだろうが。この泣き虫のチビ」


「………っ!!」


むかつく。普通にイラっとした。たしかに勝手に入り込んだ私のほうに非はあるが、捲くし立てるようにここに居る理由を決め付けられて気分が悪い。説明する気も失せた。


「オマエ、さっきは座ってたからわからなかったけどけっこうチビだったんだな」


「なっ!」


近寄るとわかる。少年は私よりも背が小さい。やっと160cmに届くくらいだ。

座面ではわからなかった。


「オマエに構っている暇はないわ。こっちは忙しいんだよ」


呆然としている少年を通り過ぎようとした。


「待って!」


我に返った少年は私の腕を掴んできた。


「逃げる気?そうはさせないよ」


「あ?違うってこっちは忙しいって言ってるだろ?」


いまだに私を不審者と思い込んでる少年は私を逃がさないように強く握り締めてくる。振り解こうともがくが見た目に反して力が強くなかなか振り解けない。

こいつ、チビのくせに。


「離せって!」


「れ、怜、あぶないよ!」


うさぎがハラハラとしながら地上を見上げている。だが、振り解くのに必死でうさぎの声は私の耳には届いていなかった。


「この、大人しくっ」


少年はもう片方の腕も掴もうと手を伸ばしてくる。


「いい加減にしろ!」


私は渾身の力を振り絞り、掴まれた腕を払った。


ガン!!


勢い余って拳が壁に当たった。


「痛って!」


堅い壁に当たり、じんじんと痺れるような痛みが走る。


最悪だ。こいつのせいで。私はこの男の横っ面を張っ倒す勢いで身を乗り出した。


その瞬間。


ガタン。


鈍い大きな音がしたと同時に辺り一面真っ暗になった。


「は!?」


突然の真っ暗闇に驚き、怒りが戸惑いに変わった。何で扉がいきなりしまったんだ。


「もしかしてさっき壁を殴った衝撃で荷物が崩れたのか?」


扉周辺には積み上げられた箱が点在し、積み上げられていた。少しの衝撃で崩れてもおかしくないほど。

でも、だからってその衝撃が私のあの一発?普通、女の拳一つの衝撃で荷物が崩れるか?


「早くでないとっ」


少年は手探りでなんとか階段を駆け上がり、閉まった扉を持ち上げようとする。


「上がらない」


少年は何度も両手で力一杯持ち上げているようだが、扉はピクリとも動かなかった。


「私も持ち上げるから身体端に寄せて」


私も手探りで階段を駆け上がった。この階段の幅は狭く身体を密着してやっと並べるぐらいだ。無理矢理横向きで身体を入れたためきつく、すぐ横にいる少年の髪が私の頬にかかる。


「………っ」


「何、身体堅くしてんだよ、こんなときに。このむっつりが」


「なっ、むっ?」


「いいから持ち上げるぞ」


反論する暇も与えず、扉に手をかけた。


「「せーの」」


二人同時に扉を持ち上げる。


「おっもっ」


まったく持ち上がらない。何回も掛け声とともに持ち上げても扉は動かなかった。せいぜい動いたとしても1センチくらいだ。


「おーい、だれかいる!?」


私は持ち上げるのを諦め、助けを呼ぶことに切り替えた。


「地下倉庫に閉じ込められているんだ!だれか!」


「だれもいないの!?」


少年と一緒に声を張り上げたが、何の音も声も返ってこない。

そりゃそうか。物置部屋は通路の一番奥にある。控え室もホールもここから離れているしエントランスからも遠い。声を張ったところで聞こえはしないだろう。


しかも私たちがいるのは地下倉庫だ。たとえ、向こうがこの物置部屋の扉を少し開けたところで私たちがここにいることに気づかないだろう。ぐっともう一度扉を持ち上げようとしてもやっぱり開かない。

一体どれほどの荷物が崩れたんだ。箱一個一体何キロぐらいなんだ。


「だめだこりゃ」


持ち上げるのも叫ぶのも諦めよう。声張ったせいでつかれたわ。


「あ~あ、閉じ込められた」


ため息を吐きながら階段を下りる。

まさかこんな漫画でよくありそうな災難に遭うなんて思っても見なかった。


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