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マジで何やってんだ。バカじゃないの?

私はうさぎから男たちに視線を移動した。


「いいかげん教えろよ。一体どうやって教官に取り入ったんだ?」


「庶民風情が総合テスト10番以内に入るなんてありえないだろ」


「金か?まぁ、貧乏人のはした金なんてたかが知れてるか。もしかして女でもあてがったのか?それともお前が相手をしたのか?」


「おいおい、それはいくらなんでもないんじゃねぇか?たしかにあの教官性欲強そーだけどよ」


男たちの吐き気がするような会話と不快な笑い声がここまで聞こえてくる。

壁際に座り込んでいた男がゆっくりと顔を上げた。


「なんだよその顔は。気にいらねぇ」


「だいたいこっちは我慢してるんだからな。卑しい庶民と同様に扱われることを」


「お前ら庶民はもっと俺たちに敬意を払うべきなんだよ」



「なんだあのクソ会話」


光景を見て開口一番に出たセリフだ。

つまりこういうことだ。見下していた平民が自分たちよりも優秀な結果を残したため嫉妬し、筋違いな八つ当たりをしているということか。会話から連想するとおそらくあの4人は貴族で短髪の男は平民。


平民の出の訓練生は少ないと聞いた。ただでさえ、周囲が身分の高いものばかりで肩身が狭いはずなのにその貴族があんな傲慢な性格の人間ばかりだとしたらあの男に同情してしまう。兵士になるのはこの国にとって名誉であるはずなのに少しも羨む気持ちが沸いてこない。


だいたい庶民庶民うるさいよ。庶民、貴族の前にお前ら4人下品だわ。曲がりなりにも兵を育成する訓練生の制服を着た人間がこんな往来で一人の人間を4人がかりで暴行しようとするなんて教養がないとしか言いようがない。


曲がり角の通りのほうはメインストリートと比べたら人通りは少なく閑静としている。それででもちらほら人が通りすがっている。でも、関わり合いになりたくないのか4人が身分の高い家柄の人間だからなのか皆ケンカを止めようとせず、気まずそうに視線をはずし早足で立ち去っている。


まぁ、普通はそうだろうな。


「リーゼロッテ、私らも行こう。そのうちあいつらも飽きるだろう」


そう言って隣にいるであろうリーゼロッテに声をかけた。

なぜか返事がない。


「ちょっとリーゼロッ――あれ?」


返事を返さないリーゼロッテを不審に思い隣に目をやったが姿がなく足元に袋一杯の紙袋があるだけだった。


「怜、あそこ」


「え?……ってなにやってんだあの子」


うさぎが促した方向を見たら、リーゼロッテはあのケンカ真っ最中の現場に向かっていた。

『あんなの許せない』といった険しい顔で4人を見据えている。


「マジで何やってんだ。バカじゃないの?……いや、違うか」


普通だったらありえないが、乙女ゲームのヒロインだったらありえる行動だ。ヒロインにも助けるか助けないかがあるがリーゼロッテの場合は前者らしい。


困っている人を放っておけないやっかいな性質。リーゼロッテはいかにもな自己投影型ヒロインらしい行動を取る。それにしても4人の男に向かっていくなんて向こう見ずにもほどがある。身を守るための腕力もノアもあるわけではないのに。


「あなたたち何やってるの!」


ぴしゃりと言い放つ声にへらへらと笑っている男たちは一斉にリーゼロッテに視線を向けた。


「は?いきなりなんだよ」


男たちは眉間に皺をよせ、不機嫌そうにリーゼロッテを睨みつける。


「こんな往来でそんな4人がかりで取り囲むなんて恥ずかしくないんですか?あなたたち借りにも士官学校の人たちでしょ?」


その睨みにリーゼロッテは怯まなかった。リーゼロッテのその立ち振る舞いに通行人たちも足を止めはじめている。


「は?なんだよ。庶民のしかも女が俺たちに意見するのかよ」


4人のうちの一人がリーゼロッテに詰め寄り、舐めまわすような視線を向ける。


「女とか庶民とか関係ありません。身分の高い高貴な人たちがこんな真似をするほうがよっぽど卑しいです」


「んだと!」


もうよしなって。いくら本当のことだからってこれ以上は何されるかわからないぞ。そう思ってしまうほど4人の顔から青筋が浮き立ってた。


「あなた方だって気づいているはずです。なぜ他者を低めるのではなく己を高めようとしないのですか?こんな恥ずかしい真似どうしてできるんですか?」


「この小娘、言わせておけばっ」


激昂した男がリーゼロッテの髪の毛を乱暴に掴んだ。


「きゃ!」


リーゼロッテは栗色の長い後ろ髪を引っ張られ涙目になりながら顔を歪ませている。


「い、痛い!放して!」


リーゼロッテの叫び声がここまで聞こえてくる。



「……そりゃ、髪の毛引っ張られたら痛いだろうな」


「ちょっと!そんなのん気なこと言ってる場合じゃないよ!」


うさぎが耳元でわめきだした。


「助けないとっ」


うさぎが小さい手で私の服を引っ張る。


「まさか私が助けるの?」


「そうだよ!」


「髪の毛引っ張られろって?」


丸腰で興奮気味に女に絡んでいる男4人に立ち向かうなんてできるわけがない。髪の毛引っ張られる女が一人増えるだけだ。私にはそんな無鉄砲な根性はない。


「じゃあ、見捨てるの?自分には関係ないって。本心ではどうにかしたいって思ってるんでしょ?だからこの場から動かないんでしょ?」


「………」


「君には念動力のノアがあるよ」


「私にはまだ一度に1つのものしか動かせないし、あまり重いものは動かせないって言ったと思うけど」


「それでもあの子一人だけでも助けることはできるはずだよ」


「助けるって」


うさぎに言われ、なにか手頃なものはないか周りを見渡す。


「これ、使えるか」


足元にあったあるものが目に留まった。

紙袋に入ったチーズだ。円形のチーズを四等分にしたうちの二切れだ。淡い黄色で手に取ると見た目よりも重く硬質だ。これくらいなら動かせるはず。


これを左手のノアで透明にしながら髪の毛を掴んでいる男の頭に思いっきり直撃させる。その瞬間掴まれている髪の毛は解放されるだろう。透明化は5秒しか持たないため、後の3人にも素早く当てる。このチーズはかなり硬いため当たったら相当痛いはずだ。4人が悶えている間にもう1つのチーズを透明化にして今度は4人の鼻辺りに当てる。その間、私はリーゼロッテの手を引いてその場から離れる。2回も硬いものを当てられ、しかも鼻先に当てられたらしばらく痛くてその場から動けないだろう。

これでいこう。


「怜、がんばって」


「うるさい」


緊張しているんだから話しかけるな。


私はチーズを右手でぎゅっと握った。そして身を隠していた壁から一歩前出て狙いを定めようとした。


「彼女の髪を放しなさい」


凛とした低い男の声が聞こえ思わず足を止めた。


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