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信じたいのに、信じさせてくれない、か

ファンタジックな外観、行交う人々の髪の色や装い、あたりまえのように使われ生活の一部になっているノア。だいぶこの街並みの風景には慣れた。


だけど、見慣れない箇所一箇所ある。


「今日はよく見かけるな。あのコスプレ集団」


「あれはコスプレじゃなくて、たぶん」


「この国の軍服とかだろ。さっきの執事服よりもこっちのほうがコスプレ感感じるわ。あれ見てるとほんっとゲームの世界だって実感する」


私が見ていたのは毅然とした表情を保っている軍服を着用した男たちだった。軍服は水色と白を基調としており、所々に金の装飾が施され、襟元をホックで止められ足元は白いラインの入ったブーツで固められている。私はそれをまさに好奇心の塊のような視線を向けている。


「あれってやっぱりこの世界の軍人、とかだよな」


「ちょっと待ってね」


うさぎはお決まりの説明書を取り出した。


「えっと……あ、新しい用語が付け足されている。彼らはこの国の兵士だね。若いから新兵じゃないかな。ノアのアカデミーを卒業後、兵の適性判断がされた人間は訓練所で1年間鍛えられるらしいよ。そして訓練結果やノアの能力数値によって配列されるらしい」


「そりゃ、過酷だな。だぶん強制なんだろうね」


「みたいだね。でも、兵士になることはこの国では名誉なことらしいから辞退する人はあまりいないらしい」


「私だったら辞退するな、絶対」


「まぁ、兵士になるのは基本は身分の高い人間ってこの説明書にはあるけど」


「この流れだと稀に平民の中でも兵士に選ばれる人間も出て来るんだよな」


「そうだろうね」


「この前リーゼロッテと話したけど、アルフォードのノアって兵士の適正にマッチングしているんだよな」


アルフォードの左手のノアは無線機の役割をしている。連絡手段が少ないこの世界にとってはアルフォードのノアは特別視されるかもしれない。

もし、適正が出たとしてもアルフォードのことだ。なにがなんでも辞退したがるだろう。

それ以前にアルフォードはアカデミーに入学すること自体嫌がっている。ノアの適正が出たとしても国の国力に貢献する気がない人間は兵士には向かないと思う。


毅然とした雰囲気の兵士が素通りすると一般人は少し身を固くしている。その堅すぎる雰囲気に私もやましいことがなくても無意識にビクついてしまう。


でも、現代で生きていた私にとってあの軍服をコスプレに見えて、おかしく感じる部分もあった。

慣れるのに時間がかかりそうだな。


「レイ?」


唐突に誰かに呼び止められた。振り返ると茶色の紙袋を抱えたリーゼロッテがそこにいた。


「リーゼロッテ、もしかして買い出し?」


「ええ、茶葉と材料の在庫が切れそうだから。レイはカフェに来る途中?それなら一緒に行こう」

「いいけど」


少し、早めにカフェに着く。まあ、いいか。


私とリーゼロッテは並んで歩き、彼女は荷物が重いのかバランスが取れないのか何回も紙袋を持ち直している。


「それ何が入ってるの?」


「これ?茶葉とソーセージとチーズとハチミツとチョコレートとあとはその他諸々」


「重い?」


「大丈夫。あと少しだから」


そう言ってリーゼロッテはまた荷物を持ち直した。


「持ってあげないの?」


隣でうさぎが耳打ちしてくる。


(持つわけないだろ)

何も言わず視線でうさぎに訴えた。


「かなり見かけるね」


「なにが?」


「憲兵」


リーゼロッテの視線には軍服を着用し異変がないか街を見回しながら歩いている男たちの姿があった。


「兵の第一部隊が遠征先からハイヌに帰還した途端に多くなっている気がする。悪いことではないとは思うけど」


リーゼロッテは憲兵から視線ははずした。

確かに悪いことではない。私たちの平穏のために異変がないか昼夜問わず見回ってくれている兵士。

聞こえはいいが、ひっかかる。


「そんなにたくさんの兵士が見回ってくれているんなら、どうしてウィルを助けることができなかったんだろうね」


ウィルは裏路地で攫われかけた。裏路地とはいえ、街中を昼夜目を光らせながら徘徊していたのなら目についてたはずだ。それなのにあの時は憲兵の誰の目にも止まらなかった。


「そういえばさ。あの時のこと憲兵に言わなくていいの?」


あの時とはもちろんウィルの誘拐未遂の話だ。私の世界なら秒速で通報していただろう。


リーゼロッテはなぜか顔を曇らせた。


「あまり意味はないと思う」


「なんで?」


「実は一月ほど前、孤児院の子が男に腕をいきなり掴まれたことがあったの」


「マジ?」


「そのときはとっさに腕を振り払ったし周囲にも人が居たから大事には至らなかった。その後すぐに憲兵の人にそのことを話したんだけど、事件にはなっていないからってちゃんと調べてくれなかった」


「うわ」


呆れを通り越して何も言えなかった。現実の警官が市民にそんな対応してたらすぐに免職されるな。


「それでも私はちゃんと調べてくださいって食い下がった。憲兵の人はしぶしぶながら孤児院の見回りの強化や事件を調べてみるって言ってくれたけど」


「しぶしぶか」


「見回ってくれたのは最初だけだったし、それから何の音沙汰もないの」


「それってその憲兵が変だったんじゃない?」


「そうかもしれないけど。あの時憲兵の人は『またか』って顔をしてた」


「それって」


「最近多いらしいみたい。子供の誘拐。だからなのかな、最近なんか憲兵の人たちピリピリしてるみたいで。それに変な噂もあるし」


「噂?」


「これだけ兵の見回りを強化しても子供の誘拐や人身売買は減少せず、むしろ増える一方。だからもしかして軍の……国の上層部がもみ消している可能性があるという噂」


「……まじで?」


もしかして某長編刑事ドラマの上層部のような設定なのか?


「あくまで噂だから大声では言えないけどね」


リーゼロッテは人差し指に手を当て声を潜ませた。


なんでそんなやっかいな設定を織り込むんだよライター。そんなにたくさんの伏線やフラグを置くと話がかみ合わなかったり、変に特殊な要素を混ぜ込みすぎるとストーリーが安っぽくなってしまうことだってある。一体何がしたいんだよライター。


「兵士は私たちの国の秩序と平穏を守る存在だと思うから……だから本当は心の底から信頼したいの。でも、まるで私たちのその信頼を向こうのほうから絶とうとしているみたいで少し悲しい。事件の早期解決はもちろん大事だと思うけど、それよりも私は信じさせてほしい。安心して私たちの暮らしの安全をまかせられるって」


リーゼロッテはぐっと紙袋がくちゃくちゃになるほど荷物に力を入れた。

リーゼロッテはおそらく猜疑心なんて抱きたくないんだろう。抱きたくないのに向こうはそれを証明しようとしない。だからリーゼロッテは憲兵に対してモヤのかかったような疑心を払拭できずどうすればいいのかわからないのだろう。


信じたいのに、信じさせてくれない、か。


「レイ、今何時?」


「今?あ、そうだ」


懐中時計を取り出そうとしたが修理に出していたことを忘れていた。


「実は懐中時計動かなくなって、今日修理に出したんだ」


「そうなんだ」


「まぁ、だいたい12時40分くらいなんじゃない?あと5分くらいで着くと思うし」


周囲を見渡すと見慣れたカフェへの通り道だった。


「そうだね」


そう言ってリーゼロッテはまた紙袋を持ち直した。


(持たないって)


しつこいくらいのうさぎの視線に睨み返した。


「ん?」


歩いていると際立った男たちの声が聞こえる。耳障りでどこか不快に感じる。はっきりとは聞こえないがそれは人ごみのざわざわとした声ではないことは確かだ。


「何かな?」


「さぁ」


リーゼロッテの耳にも聞こえたらしい。


すぐ先の曲がり角のほうから聞こえる。何事かと足を止め、目をやった。


目をやった瞬間、私の中でこれは関わってはいけないやつだと危険信号が出された。


ケンカだ。一人の短髪の男が4人ほどの男に逃げられないように囲まれている。そして囲っている男の内の一人が突然その男の胸倉を掴み、壁に思いっきり叩きつけた。短髪の男は背中に強い衝撃を与えられ苦しそうに咳き込んでいるのに対し、その姿を4人の男はニタニタとした嫌な笑いで見下ろしている。


よく見ると5人とも同じ青い制服を着ている。前面をスナップボタンで留め、白いラインが入っていた。


「あれって士官の制服だよね?」


「士官?」


そういえば、うさぎがさきほど説明していた。アカデミーを卒業後、兵の適性判断がされた人間は訓練所で1年間鍛えられる。そしてその中のほとんどが身分の高い人間だと言っていた。


「その子言うとおりみたいだね。訓練所はアカデミー学校の隣接して建てられたみたいだからここからそう遠くないはずだよ。昼時だから今は自由時間なんじゃない?」


うさぎが隣で解説した。



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