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結局こうなるのか

ぱちりと目が覚めた。


「よく寝た」


気だるげな体を起こし、軽く背伸びをする。


「やっと起きた?」


ベッド脇で本を呼んでたうさぎが私に気づく。


「リーゼロッテは?」


「もうとっくに帰ったよ」


「どのくらい寝てた?」


「2時間くらいかな」


私は懐中時計を手に取った。2時15分だ。

小腹が空いたため台所に移動した。そこには使ったであろう皿とコップがきれいに洗われ、重ねられている。


何か食べたのか。


「目玉焼きでもつくるか」


私は卵を手に取り一枚の皿を出した。



「あれ?」


焼いた目玉焼きとソーセージを食べているとテーブルの上に一枚の紙があることに気が付く。寝起きで思考がぼやけていたためすぐには気づけなかった。



『パン一切れとチーズとハム1枚と紅茶をもらいました。ありがとう』


リーゼロッテの書き置きだった。


別にいいのにマメだなぁ。


昼食を食べ終えた後、皿を流し台に置こうと移動した時床に何かが落ちているのに気づいた。


「これって」


白い丸型ミラーだ。


おかしいな。鏡はサイドテーブルに置いたままで持ってきていないはずだ。


「落としていったな」


つまりこれはリーゼロッテのものということになる。うっかりポケットから落ちたんだろう。


「それってあの子のだよね」


「たぶん」


私は鏡を拾い上げた。


「じゃあ、さっそく届けないと」


「行かない」


私はきっぱりと答えた。


「予想はしてたけど。それは大事な連絡手段の道具だからあの子も困るんじゃない?」


「私、できるだけ外には出たくない。落としたことに気づけば取りに来るはずだ。それに」


「それに?」


「嫌な予感がする」


毎日持ち歩いている連絡手段の鏡だと言われた今日、このタイミングでこの家に落とすなんてまるで用意されたシナリオみたいだ。


「絶対届けた先に面倒事が待ってる。新キャラとか」


乙女ゲームはだいたい攻略キャラクターは小出し小出しではなく初章でほぼ全員を出す。

つまりこれはフラグ。しかも出会いフラグだ。


「絶対そうだ。確実に」


げんなりする。絶対いやだ。これ以上、関わり合いを増やしたくない。


「今日は行かない。明日店に行くときにでも渡す」


昨日、話し合って私があの店で働くシフトは週に3日で午後からということになった。


本当は週一の30分にしたかった。でも提案したときアルフォードがブチ切れてしまったため結局は週に3日で妥協した。今日は休みで明日がそのシフト日である。


だいたいここからあの店まで30分もかかる。


こんな小さい鏡届けるために往復1時間も歩くのか?そこまでする義理はない。


「でもさ、それって夜まで何もすることないんじゃない。ここにはテレビとかがないんだから、少しでも暇を潰せられるならさ……」


それでもうさぎは食い下がる。

それほど私にこれを届けさせたいのか?おせっかいうさぎめ。


「ベッドに戻って寝っ転がる」


「いやいや十分寝たでしょ?」


「寝るなんて言ってない。寝っ転がるって言ったんだ」


「食べてすぐ寝たら太るよっ」


「だから、寝っ転がるって言って――」


コンコンコン。


うさぎとの言い合いがヒートアップしそうになったとき誰か来た。

このタイミングだったらリーゼロッテ?忘れたことに気づいて取りに来たのか?


それなら色々と手間が省けるんだけど。


そう思ってドアを開けたら意外な人物がそこにいる。


「おねえちゃん」


そこにいたのはウィルだった。リーゼロッテだと思っていたので少々驚いた。


「何しに来たの?」


「あいにきたよ」


歩いてきたらしく頬が少し赤くなっている。


子供がここまで一人で来たのか。しかもこの子はあぶない目に遭ったばかりなのに一人で出歩いている。

言い聞かせるって言っていたのにぜんぜん言い聞かせていないじゃないか。ちゃんと言い聞かせろふたり。

あれ?そういえばなんでこの子が私の家を知ってるの?この子は私の家の場所は知らないはずだ。


もしかしてノアを使ったのか?


「ねぇ、どうして君が私の家を知っているの?」


「みぎてをつかった」


ウィルは右の掌を出した。

やっぱり。おそらく探知能力みたいなものだろう。それで私の家の場所を探知できたのか。兄に似て便利なノアを持っているんだな。



「リロちゃん、きたんだよね?」


「え?」


「そのかがみ、リロちゃんのだよね?」


ウィルは私が持っていた鏡を凝視している。


「あ~、忘れていったらしくて」


「リロちゃんが?」


ウィルはぱちぱちと何回も瞬きした。


「ていうか、早く家にかえ――」


「リロちゃんならおみせにいるよ」


ウィルは穢れのない真っ直ぐな瞳を向けてくる。これから私が寝っ転がろうとしていたのを知らずに。



「あきらめたら?」


話しかけてくるうさぎを睨みつける。結局フラグに従う羽目になるのか。

私は身支度するために部屋に戻った。




陽射しが暖かい。街路樹から漏れ出している木漏れ日が石畳を照りつけ、さわやかな風が流れている。

まさに散歩日和だ。今日はそれほど着込まなくても過ごしやすい。街を行き交う人々も動きやすい軽めの服装を着ている。


私もその一人で今日はキャラメル色のジャケットは着ていない。


「ふぁあ、ねむ……」


私は欠伸を何回もしながら歩いている。


結局こうなるのか。


うららかな日差しとは裏腹に私は心中は億劫だった。私は隣で並びながら歩いているウィルを見た。


私ってこんなに子供に弱かったっけ?私にとっては今日は最適な昼寝日和。現実世界だったら何があっても起きない自信はある。でも今日はその大好物な昼寝を我慢して一回り小さい子供に促されるように店に向かっている。


私みたいなひねくれ人間に懐くなんて子供の刷り込みというものはやっかいなものだ。今後は子供の適当なあしらい方を考えよう。


さっさと鏡を渡してさっさと帰るとするか。



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