挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

短編箱はお気楽に~

ボトルネック


 君たち。

 もう暗くなってきたよ、おうちに帰らなくていいのかい?

 おじさん? 失礼だなあ、まだ独身だって、まだ三十代……顔がよく見えないから分かんない?
 まあ、いいやおじさんで。めんどくさいから、ははは。
 今どき、怪しい人と口きいちゃいけないんだって? まあね、時代だよね。
 でも子どもらが暗くなってもまだ遊んでいたら、注意するのが地域の大人の義務だって、思ってるんだけどねえ。
 ま、どっちにしてもおじさんは、別にあやしい者なんかじゃないよ、家は近所だし、君らここの小学校に通ってんだろ? じゃあ、大先輩だな……

 おじさんはちょっと電話をして、人を待っているところだから。
 もうじき来ると思うけど。

 とにかくもう、帰ったほうがいいよ。
 え? この後塾に? 時間つぶしてるんだ? たいへんだなあ、イマドキのコドモも。

 ところでさ、あのグラウンドのすみに生えている木、すごいよね。ケヤキだったっけ? そうなんだ、へえ、樹齢三百年って? 本当? おじさんが小学生だった頃も三百年、って言われてたような気がするなあ。それからもう二十年過ぎてるしね。
 何笑ってんだよ? はは、二十年てハンパだよね~って? でも三百年から比べても、十五分の一だぜ、それなりに長くないか? え? そうでもないかなあ。
 まあでもさ、枝もすごいよね。昔から比べてもさらにすごくなってる気がするよ。
 根の部分がネットの向こうの道路にまで少し張り出しているから、かなりのもんだよね。

 でもさ。
 あの道路にはみ出しているのが、ちょいと問題なんだ。ビミョウに困るんだよね。

 いつもおじさんは、会社に行く時あの道を通るんだけどさ、木の所で、ひやりとすることが多いんだ。
 そう、あのせいで道はばが、かなりせまく感じられるよね、
 だろ? 君らもそう思うだろう? そうそう、歩道がぐにゅっと曲がっちゃってて、通りにくいだろ?
 木の根が出っ張っている分、歩道も車道の方にはみ出しているから、車道もその分せまくなっているしね。
 道の反対側は川のせいでがけになっているし、しかもカーブだから前が見えにくいときている。

 ああいうの、何というか知っているかい?

 え、カーブのことじゃなくて、道が少しせばまっていて通りにくいことだよ。
 ボトルネック、という言葉、聞いたことある? ないか、そうか。

 ビン? そうそう! ビンの首の所、せまくなっているだろう、それを想像してみてよ。
 おじさんら大人は、よく耳にする言葉なんだよ。
 何かがひっかかって、全体の流れがよくない所、問題になる所、という意味でね。

 なぜ急にそんな話をしたかって? 聞きたい? 
 まあ、もう少し時間ありそうだから教えてあげようかな。君ら、塾に遅れて叱られても、知らないからな。

 おじさんがその言葉を思い出したのはね、どんな時間に車で通ってもなぜか必ず、あの場所で対向車とすれちがうからなんだよ。

 え? 全然不思議じゃあないって?
 まあ、それほどさびしい道通りでもないからね。車がいつも少しは走っているって感じだよね。

 でもね、いくら交通量の少ない時、例えば夜中、残業ですっかりおそくなった時でも、あそこにさしかかると、対向車が来るんだよ。

 オレはその度に、ひやりとする。

 朝はたいがい車が多いから、当たり前のことみたいだけど、真夜中さえもだよ?
 夜は、少しスピードを上げてみたり、前に灯りが見えたらブレーキをふんだり、せまい場所で行き合わないように、スピードを調整していたつもりなんだ。だけど、オレがどんなに努力しても、なぜかちょうど対向車が来て、あのせまい場所でぴたりと、出くわしてしまう。
 あんまりにも毎回毎回、あの木の横ですれちがうだろう?

 オレはその度にひやりとする、本当にね。
 それに嫌だったんだ、いつも狭い場所に限って、必ず対向車がある、ってのが。
 だってそうだろう? なぜわざわざ、狭い箇所を譲り合わなきゃならないんだ?
 たまにはせいせい、何も障害なくスイスイ通り抜けたって、構わないよな?
 だろ?

 ところで今日のことなんだけどね。

 久々に、残業なしで、夕方早く帰って来たんだよ、うかれながら。
 あの道で他の車を全然見かけなかったのもうれしくて、気分は上々だった。
 だがね。
 そんな矢先、ちょうど対向車の気配がした。
 たった一台。だが、このままでは確実にあのせまい場所で並んでしまうだろう。
 またかよ、と舌うちしながらも、オレは試しに、五十メートル程手前で待ってみた。その車が通り過ぎるのを、ね。

 車は来なかった。カーブ手前で路地に入ったようだ。後は何の物音もしてこない。
 で、オレは一気に加速した。

 初めてだった、ボトルネックで何ともすれ違わずに、すんなり通りぬけようとしたのは。

 だから、油断していた……スピードを出し過ぎて、カーブを曲がり切れない、なんて。

 あのケヤキのある場所はね、だれかと出くわすからこそ、通りぬけられるのだ、って気づいたんだ。おそまきながら。

 絶対に、ひとりきりで楽々と通ってしまってはいけない場所が、世の中にはあるらしい。
 無事にそこを通り抜けるためには、多少やっかいでも、何らかの引っかかりが必要らしいんだ。
 ビンの首は、だてにせまいだけじゃない、ってことさ。
 狭いのには、必ず意味があるんだって。

 君らも、いつかは分かる時が来るのかな。どうだろうね……

 それより、どうして君らはだんだんと後ずさりしているんだ?

 ああ、オレの姿、はっきり見えてきたの?
 片腕と、顔が? 
 うん、車ごと崖から落ちた時、途中の木や岩にぶち当たったりひっかかったりしてね、何度も。
 それで、左腕と顔も半分、ひき千切られて、失くしちまったようだ。

 ようやく来た。がけ下から最後に呼んだ救急車が。
 サイレン、聞こえてきただろ? 

 ほうら。


(了)
実際にこんな場所があったのですが、こんなおじさんはいなかった。と、信じたいものです。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ