月下の小さな茶会
遅れて申し訳ありませんでした!!
スマホが壊れたり、筆が全く進まなくなったりといろいろあり遅れました。大変申し訳ありません。
【アイラスの虚塔】
それは、七大迷宮の中で唯一発見されている世界有数の危険地帯。その構造は、全百階層にもなる多段型の地下迷宮だ。十階層ごとに階層主と呼ぶボスクラスの魔物が湧き、それ以外の魔物も極めてレベルが高い。そして、地下へ進むほど魔物が強く多くなる傾向がある。そのため、現在の最高到達点は六十三階層であり、ここ数十年更新されていない。
にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすく、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の"魔核"を体内に抱えているからだ。そして、強力な魔物ほど大きく良質な魔核を有している。
魔核とは、魔物の力そのものであり、名前の通りその存在を維持するための核だ。この魔核は、手頃な魔力供給源としてや、魔方陣の魔力伝導体として用いられる。良質なものであればその効果は、通常の魔方陣と魔核を用いた魔方陣では三倍以上も魔力効率が違うほどだ。そのため、良質な魔核は高額で取引される。
因みに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有技能を使う。固有技能とは、魔物のみが使える特殊な技能であり、上記を逸した効果を持つものが多い。また、固有の魔法を持つものもいる。これらは、詠唱・魔方陣を必要としない。魔物が油断ならない最大の理由だ。
一樹たちは、【アイラスの虚塔】のある冒険者たちのための宿場町【アイラス】へと来ている。と言っても、クラス全員がバテたり酔ったりで、王国直属の宿で倒れているが。
一樹たちは、最後の訓練――武器を選ぶくらいだったが――を終え、慣れない馬車で三日ほど移動していた。そして、外は暗くなっている時間帯にようやくたどり着いたのだ。そのため、彼らは疲労が溜まっていた。
久しぶりに普通の部屋を見た一樹は硬いベッドに倒れ込み、「ふぅ~~」と息を吐いた。同室の大榎が思わず「だらしないなぁ~、気持ちわからんことないけど」とぼやいているが一樹の知ったことではない。……もっとも、その大榎もベッドにダイブしてあまりの硬さに悶絶していたりするが。
明日から、早速【アイラスの虚塔】に挑戦する。まずは、十階層まで行き、余裕を見て階層主へ挑戦するらしい。それくらいなら、一樹のような最弱キャラがいても十分カバーできると団長から直々に教えられた。一樹は、本当にすみませんっと謝罪を重ねるような気持ちになったが。
因みに、大榎は留守番である。玲子先生を筆頭に、非戦闘職の者が数名いたからだ。流石の、団長でも非戦闘職の子供を複数人はカバー仕切れないらしくまとめて留守番の流れとなった。一樹が留守番でないのは、単に耕平達三人組のイジメと正輝の真面目な性格からだ。勿論、春菜と冬華、大榎は反論したが聞き入れられることはなかった。
むしろ、王都に置いて行ってくれてもよかったのに……とは自分から言えなかったヘタレなハジメである。
暫く、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいた一樹だが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮される。
少しウトウトと眠りに入ろうとした時に、その睡眠を邪魔するかのように、コンコンっとドアをノックする音が響いた。
少し早いとはいうが、それは日本で徹夜が日常の一樹が特殊なだけであって、アヴェンにおいては十分深夜に当たる時間。怪しげな深夜の訪問者に、すわっ、また大倉達か⁉と、一樹は緊張を表情に浮かべる。また、と言うのは過去に一度こういうことが実際にあったからだ。
しかし、その心配は続く声で杞憂に終わったのだが……。
「八雲君、まだ起きてる?神代です。ちょっとだけ、いいかな?」
はっ?と、一瞬硬直するが、一樹は慌てて扉へ向かう。そして、鍵を外し扉を開けると、そこには白と赤のネグリジェにカーディガンを羽織っただけという春奈が立っていた。
「…………」
「?八雲君、どうしたの?」
ある意味、非常に衝撃的な光景のあまり、一樹は声すら出せず硬直してしまった。そんな一樹を不思議そうに春奈は首を傾げている。
一樹は、慌てて気を取り直すと、なるべく春奈を見ないように用件を聞く。いくらリアルに興味が薄いとはいえ、一樹も立派な思春期男子である。今の春奈の格好は少々刺激が強すぎた。
「はっ!あ~いや、何でもないよ、うん。えっと、どうかしたのかな。連絡事項でも?」
「ううん。えっと、その、少し八雲君と話がしたくて……やっぱり駄目、かな」
「…………どうぞ」
もっともあり得そうな用件を予想して尋ねてみたが、春奈はそんな一樹の予想を軽く上回る用件を持ち込んでくる。しかも弱気な声音に上目遣いという爆弾付きで。効果は抜群だった!気が付けば扉を開け部屋の中に招き入れていた。
「うん!」
何の警戒心も持たず、嬉しそうに部屋に入り、春奈は窓際に置かれているテーブルセットに座った。
「………僕は、少し夜風に当たってくるでな」
「……すまん」
空気を読んで、大榎が退室してくれた。一樹は、大変申し訳なく思いながらもその好意を素直に受け取る。
若干混乱が続きながらも、一樹は無意識にお茶の準備を始めていた。といっても、元から用意されていたティーパックのようなものをお湯と共に陶器のポットに入れただけのものだが。春奈と自身の分を用意し、春奈に差し出す。そして、春奈と向かい合う形で席へ座った。
「ありがとう」
やっぱり幸せそうな笑顔と共にその紅茶もどきを受け取り、口をつける春奈。窓から差し込む月明かりが彼女を照らす。明るい茶色の髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで天使のようだった。と同時に、”紅い眼”がどこか妖艶さを醸し出していた。
一樹は、欲情することはなくともそんな春奈に見蕩れた。春奈がカップを置く「カチャ」というを音に我を取り戻し、激しく鼓動する心臓を落ち着かせるために紅茶もどきを一気に飲み干そうとして、その熱さに「熱ッ!」と思わず声を上げる。恥ずかしい。
春奈がその様子を見てくすくすと笑う。一樹は恥ずかしさを誤魔化すために、早口で話を促した。……顔は真っ赤のままだったが。
「えっと、それで話したいことって何かな。明日のこと?」
一樹の質問に「うん」と頷き、春奈は先ほどまでの笑顔が嘘のように思いつめたような暗い表情になった。
「……明日、八雲君には町で待っていてほしいの。生産組と同じように迷宮に行かないで。お願い!教官達や皆は私が説得するから!お願い!」
話しているうちに興奮してきたのだろうか、身を乗り出して一樹の手を握りしめながら懇願する春奈。一樹は困惑するしかない。ただ一樹が足手まといだからというには少々必至すぎやしないか、と。
「えっとね……確かに僕は足手まといだと思うけど、流石に転職が生産職ってわけじゃないのに待っているってのは認められないんじゃないかな……」
「えっ、あ⁉違うの!足手まといとかそういうんじゃないの!」
春奈は、一樹の誤解に慌てて弁明する。自分でも性急すぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いてきたようで「いきなりでゴメンね」と謝り静かに話し出した。
「あのね、なんだかすごく嫌な予感がするの。さっきまで少し眠ってたんだけど……嫌な夢を見ちゃって。……八雲君が居たんだけど………声を掛けても全然気づいてくれなくて、走っても走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」
その先を口に出すことを恐れるように押し黙ってしまう春奈。一樹は、落ち着いて話の続きを聞く。
「最後は?」
春奈はグッと唇を嚙み泣きそうな表情で顔を上げた。
「……消えて……しまったの……」
「…………そう、か」
しばらく静寂が包む。
再び俯く春奈を見つめる一樹。確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢は夢だ。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから非難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失うことになる。ゆえに、一樹に行かないという選択肢はない。
一樹は、春奈を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。
「夢の中の話でしょう、神代さん?今回はグラン団長率いるベテラン騎士たちが付いてきてくれるし、桜井君みたいな強い奴も沢山いる。というか、僕以外のうちのクラス全員チートだし。敵の方が可哀そうなくらいだよね。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」
語り掛ける開ける一樹の言葉に耳を傾けながらも、春奈は一層不安そうな表情で一樹を見つめる。
「それでも……それでもなお、不安になるなら……」
「……なら?」
一樹は若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに春奈と目を合わせた。
「……近くに、居てくれないかな?」
「……え?」
自分の言っていることが、告白紛いのものであるという自覚はあるので、すでに一樹の顔は羞恥で真っ赤になっている。月明りで室内は明るく、春奈にもその様子はよくわかった。といっても、春奈は信じられないというように目を丸くし口を手で覆っているが。
「神代さんは”治癒士”だよね。治癒系に適性を持つ天職。それに、かなりステ…能力値が上がってたよね。それなら、たとえ、僕が大怪我しそうでも、神代さんなら絶対守れるでしょ?怪我しても治せるし。だからさ、傍にいて僕を守ってほしいんだ。……それなら、絶対僕は大丈夫だよ」
しばらく、春奈は一樹を見つめる。ジーと。ここは目を背けたらいけない場面だと、一樹は羞恥に必死に耐える。
一樹は、人が不安を感じる最大の原因は未知であると何処かで聞いたことがあった。春奈は今、一樹が襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかったのだ。
しばらく見つめ合っていた春奈と一樹だが、沈黙は一樹の微笑と共に破られた。
「変わらないんだね、八雲君は」
「?どういう――」
春奈の言葉に訝しそうな表情になる一樹。その様子に春奈はくすくすと笑う。
「八雲君は、覚えてないかもしれないけど、私、中学の時に一度だけ助けてもらったんだよ?」
その意外な告白に、一樹は目を丸くする。確かに、中学の時から春奈達三人とは知り合いだが、春奈を助けた覚えはなかった。う~んとうなる一樹に、春奈は再びくすりと笑みを浮かべた。
「やっぱり覚えてなかったんだね。……私が男子に長い間話しかけられてた時に、助けてくれたんだよ。先生にノートを運ぶのを手伝って、って。そのあと、一樹君その男子たちに襲われてたらしいけど」
「そ、それはまたご迷惑を……」
一樹は軽く死にたい気分だ。何故、春奈にそんな雑用を手伝わせたのかよくわからない。多分、寝ぼけてて近くにいた春奈に適当に声を掛けたのだろうとは思ったが、本当にそれが何故春奈だったのか思い出せない。 一人、思い詰め顔が真っ青になった一樹に春奈が話を続ける。
「ううん、そんなことないよ。あの時、私は男子の視線が嫌だったから、結果として助かったんだよ。むしろ謝るのは私の方だと思う」
「そ、そうかな」
一樹は、そんな話を聞いてもやはり思い出せなかった。本当に、そんなことを平気でしてあまつさえ忘れていた自分に冷や汗を流しながら、かろうじて相槌を打つ。
「うん、前から言いたかったんだ。あの時はありがとう」
今まで見たことのない花が咲くような満面の笑みに思わず、一樹も見蕩れた。
「強い人なら確かに簡単に解決できるよね。正輝君とかよくトラブルに飛び込んで行って相手の人倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、断った後のことが怖くて……自分は冬華ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、全く動けなかった」
「神代さん……」
「だから、私の中で一番強いのは八雲君なんだ。高校は行っても近くに居られると知ったときはうれしかった。……八雲君みたいになりたくて、君のことをもっと知りたくて声を掛けたりしてたんだよ。八雲君、直ぐに寝ちゃってたけど……」
「あはは……」
春奈が自分を構う理由が分かった一樹は、春奈の予想外の高評価に誇らしいのやら照れくさいのやらで苦笑いする。
「だからかな、不安になっちゃって。迷宮でも一樹君が何か無茶して戻ってこなくなるんじゃないかって。私を助けてくれた時みたいに、ね」
春奈はどこか覚悟を決めたような眼差しで一樹を見つめた。
「私が、八雲君を守るよ。ずっと近くにいて、ね」
一樹はその覚悟を受け取る。真っ直ぐ見返し、告げた。
「ありがとう」
それからすぐに二人して苦笑した。これでは役者の男女があべこべである。今夜の主人公は間違いなく春奈だ。だとするなら、自分はヒロインとでもいうべきだろうか。そんななんとも納得し難い気持ちに笑うしかなかったのだ。
それからしばらく雑談をした後、春奈は部屋に帰って行った。一樹はベットに倒れ込みながら、思いを馳せる。何としても自分にできることをやり遂げなくてはならない。何時までもヒロインポジなど、納得できない。一樹は決意を新たに眠りについた。
……大榎が部屋に戻ってきたのは一樹が熟睡し始めた後のことだった。
深夜、春奈が一樹と大榎の部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめ続けていたものがいたことは誰も知らない。その者の表情が醜く歪んでいたことなど、誰も知ることはなかった。
遅れてすみませんでした。次回から一樹達は迷宮へもぐります。……早くメインヒロイン出したいっす。
えー、前書きでもふれたようにスマホが壊れまして、FGOのデータが飛びかけているということで心が折れかけておりまして……。無課金でそこそこ星5鯖集めていたので。
今まで、スマホで書いていましたので、執筆ペースがさらに遅くなると思います。ご了承下さい。……直りましたら執筆ペースを今まで以上にあげるので。




