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無能召喚士の無双契約  作者: 天乃幽
第一章
2/7

異世界転移

テンプレかな?

両手で顔を庇いながら、一樹は奇妙な浮遊感を感じた。その浮遊感が消えると、無数の気配を感じて一樹は、ゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。


とにかく暗かった。一樹は、先程の光で目が眩んでいるのだと思っていたが、ほんのり見えたのは石壁だった。背後には、2~3メートルほどの女性像があった。どこか艶かしいそれは、こちらをじっと見ているようで、一樹は薄ら寒さを感じて無意識に目を逸した。


徐々にざわめきが大きくなり、その音の反響から、一樹は何となく地下にいるようだと思った。一樹はもう一度、辺りをよく見ると、目が慣れてきたのであろう。先程まで見えていなかった、いくつもの巨大な石柱が見えた。ここは、いくつもの石柱に支えられた地下空間らしい。


一樹たちはその最奥、台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周囲には、一樹と同じように、呆然とするもの、辺りを見渡すもの、騒ぎ立てるもの。様々な反応を示すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。


 一樹は、チラリと隣を見る。そこには、やはり呆然としている大榎とその場に座り込む春奈、春奈を支える冬華の姿があった。三人とも怪我はないようで、一樹は、一先ず胸を撫で下ろす。


 そして、恐らくこの状況を説明できるであろう、自分達を、否、正確には台座に描かれた魔方陣を取り囲む者たちへの観察に移った。


 今現在、この空間に居るのは一樹達だけではない。少なくとも、二十人近い人々が、一樹達の乗っている魔方陣を取り囲むようにいたのだ。まるで、祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。


 彼らは、一様に白地に金の刺繡がなされた法衣のようなものを身に纏い、傍らに錫杖のようなものを置いている。その錫杖は、先端の輪に円板がいくつも通してあった。


 コツ……コツ……と、この空間の奥--おそらく入口がある方向--から音が聞こえてくる。少しして、周りの人達とは比べ物にならないほど豪奢で煌びやかな衣装を纏い、これまた細かい意匠を施された烏帽子のような物を被っている、ゆうに七十は超えた老人が進み出てきた。もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強す過ぎるが……。顔に刻まれた皺や老熟した目を見なければ、誰も老人とは思うまい。


 そんな彼は手に持った錫杖を鳴らしながら、外見によく似合う深みのある落ち着いた声音で一樹達に話しかけた。


 「ようこそ、いらっしゃいました。勇者様、ご同輩の皆様方。ここは、アヴェン。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて枢機卿の地位についておりますクヴェラ・ランバータと申します。以後、宜しくお願いしますぞ。」


 そう言って、クヴェラと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を浮かべた。





 現在、一樹達は地下空間の上、大聖堂と呼ばれる場所から離れ、とある屋敷の大広間に移動していた。十メートル以上あるテーブルがいくつも並んでいる。


 この部屋は、とても煌びやかな作りだ。素人目から見ても調度品や飾られた絵、壁紙に至るまで職人芸の粋を集めたものだろうとわかる。おそらく、晩餐会などをする場所ではないだろうか。上座に近い方に、尾野玲子先生と正輝達三人組が座り、あとは取り巻き順。一樹と大榎は最後の方だ。


 ここに案内されるまで、騒ぐ人が少なかったのは未だ現実に認識が追い付いていないからだろう。クヴェラが事情を説明すると告げたことや、正輝達人気度の高い三人が落ち着いていたことも理由だろうが。


 教師より教師らしく生徒たちをまとめている様子を見て、玲子先生は一人落胆していたが。


 全員が着席すると同時に、一人の少女が入ってきた。金髪碧眼の美少女だ。身長はさほど高くなく、百六十前後といったところだ。髪は複雑に編みこまれ、この場では良く目立つ桃色のドレスを着ている。


 こんな状況でも、美少女の登場にクラス男子の大半が彼女を凝視している。もっとも、それを見た女子の視線は永久凍土もかくやという冷たさを宿していたのだが……。


 一樹も、思わず凝視……しそうになったところを、謎の悪寒を背筋に感じ、咄嗟に視線を外した。チラリと悪寒を感じる方向へ視線を向けると、満面の笑みを浮かべながらも、その眼だけは笑っていない春奈がジッと一樹を見ていた。一樹は再び、視線を外した。


 いきなり現れた少女がクヴェラ側の席に着くと、クヴェラが話し始めた。


 「さて、皆様方においてはさぞ、混乱していることでしょう。心配なさらずとも、一から説明いたしますのでご安心くだされ。」


 そういって始まったクヴェラの説明は実に、ファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい身勝手なものだった。


 要約するとこうなる。


 まず、この世界はアヴェンと呼ばれ、四柱の神々によって作られた世界らしい。そして、大きく分けて四つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族、精霊種である。人間族は、北の一帯、魔人族は南の一帯を支配しているらしい、亜人族は特定の地域と東の大樹海でひっそりと暮らしており、精霊種は世界中にいるそうだ。


 このうち、人間族と魔人族は何百年と戦争を続けている。これに巻き込まれる形で、亜人族のいくつかの種が滅んでいる。魔人族は、数こそ人間に及ばないものの、その力は生まれつき人間の数十倍に及ぶらしいく、その力の差を人間族は数に物を言わせて対抗していたそうだ。ここ数十年は、戦力が拮抗し大規模な戦闘は起こっていないらしいが、最近、異常事態が発生しているという。それは、魔人族の増加だ。


 ここ数年で、魔人族の数が異常なまでに増加しており、元々人間族より強いため、均衡が崩れ始めたらしい。魔人族は、人間族より少ないという常識が覆され始めたのである。これの意味するところは、人間族の持つ”数”というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機に瀕しているのだ。


 「あなた方を召喚したのは、”セアド様”です。我々、人間族が崇める守護神にして、この世界の創造神。おそらく、セアド様は聡られたのでしょう。このままでは人間族は滅びると。それを回避するためにあなた方は喚ばれた。あなた方は、神に選ばれたのです!」


 クヴェラはどこか恍惚とした表情を浮かべていた。その顔をみて、一樹達は全員引いていた。


 「あなた方の世界はこの世界の上位にあり、例外なく強力な力を持っています。実は、セアド様より信託があったのです。あなた方という”救い”を与えると。異世界より現れし勇者の手によって、人間族は救われる、と。あなた方には是非その力を発揮し、”セアド様”の御意思の下、魔人族を打倒していただきたい。」


 クヴェラがそう言い切った瞬間、一樹は恐怖を感じていた。”神の意志”を疑うことなく、それどころか嬉々として従い、他者に強要すしているのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。玲子先生だ。


 「ふ、ふざけないでください!あなた方は、子供たちに戦争をさせようというのですか!それも最も危険な最前線で⁉そんなこと許せません!この子たちの先生として許すわけにはいきません!早く私たちを返してください。あなた方がやっていることは、ただの誘拐です!」


 声を上げ怒る玲子先生。彼女は、今年で二十八になる社会科教師なのだが、百五十センチほどの低身長で眼鏡をかけ必死にごまかしている童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のため必死に走り回る姿から人気は高い。そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回りしている残念さのギャップから庇護欲に駆られた生徒も少なくない。そのたびに、「私、教師なのに」と落ち込むのだが。


 あだ名は、”玲ちゃん先生”で、そう呼ばれるとプリプリ怒る。本人は威厳ある教師を目指しているのだとか。到底、そうは見えないのが現状である。


 今回も、理不尽な召喚理由と、自分の生徒が戦争に利用されそうになっている状況に怒り、立ち上がったのだ。とは言ったものの、迫力なんてものは皆無で「ああ、また玲ちゃん先生が頑張ってる……」と、ほんわかしながら眺めていた生徒たちだったが、今まだ黙っていた金髪碧眼の少女の言葉に凍りついた。


 「お気持ちはお察しいたします。しかし……こちらも皆様に協力していただかなければ、滅びを待つしかないのです。それに……大変言いづらいのですが」

 「なんですか!?まだ、子供たちに何かさせようと考えているんですか!?」

 「……皆様を元の世界へお返しすることは、現状、不可能なのです」


 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に乗りかかり、誰もが言われたことを理解できないという表情を浮かべている。


 「ふ、不可能って……返せないってどういうことですか!?喚べたのなら返せるでしょう!?」


 玲子先生が叫ぶ。今度は、少女の代わりにクヴェラが口を開けた。


 「先ほど申し上げた通り、あなた方をこちらの世界へ喚ばれたのはセアド様なのです。我々人間は勿論、たとえ魔人族であろうとも異世界へ干渉する術を持ち合わせておりませんでな。あなた方が、帰還できるかどうかはセアド様の御気分次第ということです。」


 玲子先生は脱力したようにストンと椅子に腰を下ろす。周りの生徒も口々に騒ぎ始めた。


 「嘘だろ?帰れないってどういうことだよ。なあ!」

 「いや!いやよ!なんでもいいから帰してよぉ」

 「戦争なんて冗談じゃねぇ。なんで……なんで……」


 一気にパニックに陥る生徒達。一樹も平静ではいられなかった。オタクであるが故に、こういう展開の創作物は何度も読んでいるが、あくまで創作物の中の話だ。最悪のパターンからは外れていたものの、いざ、自分自身が体験するとなると気が気でなかった。因みに、最悪なのは奴隷扱いされるパターンだったりする。


 未だパニックが収まらない中、正輝がフッと立ち上がり、パンッパンッと手を二度たたいた。その音にビクッとなり視線を向ける生徒達。正輝は全員が注目したことを確認すると、おもむろに話し始めた。


 「……ここでクヴェラさんたちに文句を言っても意味はないと思う。彼らにだってどうしようもないんだ。ただ、この世界が滅亡の危機に瀕しているのは事実なんだと思う。だから俺は、俺は戦おうと思う。こんなこと、俺には見て見ぬフリをすることなんてできない。それに、世界を救えば、神様が帰してくれるかもしれないだろ?……どうですか、クヴェラさん?」

 「そうですな。セアド様も救世主の言葉なら無碍にもせぬでしょう」

 「俺たちには、大きな力があるといっていましたよね?ここにきてからなんとなく力が漲っている感じがします。」

 「ええ。ざっと、この世界のものと比べると数倍から数十倍の力を持っているでしょうな。それに、今回は神に召喚されたのです。あなた方には、神の加護もあると考えた方がいいでしょうな。」

 「それなら、大丈夫そうだ。俺は戦うぞ。この世界の人々を救い、全員で家に帰れるように!!」


 ギュッと拳を握り、そう宣言する正輝。無駄にきれいな歯がきらりと光る。


 同時に、彼のカリスマが遺憾なく発揮され、絶望の表情だった生徒達に活気と冷静さを取り戻し始める。正輝を見る目はキラキラと輝いており、まさしく希望を見つけたといった表情だ。女子の大半は熱っぽい視線を送っている。


 「……あなたなら、そう言うと思ってたわよ。気に食わないけど、付き合ってあげるわ」

 「え、えっと、冬華ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 「冬華……春奈……」


 いつもの三人組が正輝に賛同し、その結果、当然のようにクラス全員が賛同していく。玲子先生は、オロオロと「だ、ダメですってば~」と涙目になりながら訴えていたが、流れには逆らえなかった。


 結局、クラス全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、正輝を含めこのクラスのほとんどが戦争に参加するという本当の意味を理解していないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避だったのかもしれない。


 そんなことを考えながら、それとなくクヴェラと少女を観察した。彼らは、実に満足そうな笑みを浮かべている。


 しかし、その笑みの意味が少し違うことに一樹は気が付いていた。少女の方は、心底満足そうな笑みであるが、クヴェラのそれは違う。打算的で、演技のような笑みだと感じたのだ。おそらく、正輝がこの集団で最も影響力を持つと見抜いていたのだろう。クヴェラが正輝を観察し続け、正輝が正義感の強いことを見抜き、魔人族がより残酷に、その冷酷非情さを強調するように話していたことに気づいていた。


 「……なんや、面倒くさくなってきたなぁ」

 「……そうだね」


 大榎とそんな会話をしながら、一樹はクヴェラのことを危険人物のリストに追加するのだった。


 


転移先にいたのは爺さんだった……。自分だったら嫌ですねぇ。

謎の少女、全然喋ってないし、名前すら出せなかったのが悔しいですね。そこはまた次回ということで

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