二十 辿る先で
あけまして おめでとうどざいます。
新年一回目の投稿ですが、本日で最終回となります。
3話ありあます。
本来、暗殺などというものは人知れず、暗闇の中で行うのが一般的だ。
だが、今回は相手に時間を与えてはいられない。またぞろ忍びの妙薬で余計な被害者が出てきても面倒だ。
しかも、熊蔵の情報どおり根岸の屋敷に潜伏しているかは不明である。
それを確かめるためにも、三人はできるだけ急いだ。
まだ日が高いうちに根岸に着くように。
「あったぜ、田中又兵衛の屋敷……」
根岸に着いてから手分けして目的の武家屋敷を探すと、やはり情報収集に長けた金四郎が探り当ててきた。
根岸といっても広く、北側は田畑が多い。
そんな中、田中又兵衛、あるときは長崎屋徳兵衛、実の正体は本名不詳の元忍びの組頭の屋敷はポツンと一軒だけ建っている。
なるほど、軍勢に囲まれれば別だが、人目を忍ぶにはもってこいの立地条件である。
無用に近づくものはすぐに察知できるというわけだ。
「どうする?」
闇に紛れて忍び入ることができない現状、正面から乗り込むしかないのだが、もし情報に間違いがあった場合とんでもないことになると常識的には躊躇われる。
だが、清太郎はそんな常識に囚われる人間ではない。
「違ったら謝ればいいさ……さ、行こうぜ」
「……確かにかなわぬな……」
結局、清太郎を先頭に正門へと歩みを進める。
無論、飛び道具に寄る攻撃を想定しながら。
「たのもう!」
危惧された妨害も無く、三人は門前に辿り着いた。
早速に清太郎が門を叩く。
「……返事もねえな……」
「小者も雇えないほど困窮しておるのだろうか……」
源八郎の意見は常識的にもありえないことではないものだったが、清太郎と金四郎はまず疑ってかかるのが基本のようだ。
「開けちまえ。金四郎、飛べるか?」
「おう。おっさん、肩貸してくれ」
「いいとも。さあ、来い」
「よっと……」
流れるような連携技で、金四郎は清太郎の構えた両腕と肩を足がかりにして正門横の塀に登ると、すぐさま中に飛び降りる。
源八郎は口を出す暇もなかった。
待つ間もなく、大門脇の横戸が開く。
「誰もいねえぜ」
「そうか……ま、何か手掛かりがあるかも知れねえ。探すとするか」
「お、おい……」
清太郎は金四郎が開けた横戸に躊躇うことなく入っていく。
源八郎は引き止めることも、この場にいつまでも立ち尽くしていることもできぬと判断し、仕方なく後に続いた。
その屋敷は確かに無人である。
だが、廃墟というわけではなく、手入れはきちんとされているようで、今にも玄関に誰か現れそうであった。
「誰か! いねえのか!」
「泥棒だあっ! 火事だぞーっ!」
金四郎が悪乗りしたが、やはり何の反応も無かった。
仕方なく手分けして屋敷の中を調べることに。
「ギャーッ!」
中に踏み込んでしばらくすると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
バラバラになった三人は、互いに仲間の心配をしながら声のしたほうに集まってくる。
「金四郎、大丈夫か!」
「俺じゃねえ」
「では清さんが?」
「いや、俺でもねえ」
「では、誰かいるのか」
「ここか!」
三人が集合したのは屋敷の一番奥の部屋。
金四郎が襖を勢いよく開ける。
「良吉!」
源八郎が三日もの間祈祷所で顔を合わせていた人物がそこにいた。
いや、倒れている。
畳の上は血の海であった。
「まだ息がある。早く医者に……」
「よし、金四郎、足を持て。雨戸を外して乗せよう」
「おお……」
誰にやられたか。
それは口にしないでもわかっている。これまで一切表に出てこなかった忍びの組頭であることは明白だ。
青木のときもそうだが、邪魔になったものは切り捨てるやり方に三人は憤りを隠せなかった。
黙々と良吉の命を救うため作業を進める。
「よし、急ごう!」
「おう――オワーッ!」
「何だ!」
屋敷の中を戻るのは面倒と、庭に下りたとき凄まじい音が鳴り響いた。
いや、音だけではない。
激しい衝撃と共に、三人は、戸板に乗せた良吉もろとも吹き飛ばされる。
「な、何が……」
幸い、三人は命に別状は無かった。
見ると、先ほどまでいた建物が火に包まれている。
火薬による爆発だ。
初めから清太郎たちを狙っての仕掛けかどうかはわからないが、良吉を運び出すため慌てて庭に出ていなかったら、おそらく無事ではすまなかっただろう。
「これが組頭のやりかたかよ……」
立ち上がった清太郎は拳を握り締める。
いつものニヤけた表情ではない。
「良吉! おい、良吉!」
清太郎の様子も気になった源八郎だが、今は重傷の良吉を優先する。
しかし、元々酷い傷の上、爆発の衝撃に巻き込まれた良吉は既に事切れていた。
「くそっ!」
金四郎が座り込んだまま地面を叩く。気持ちは充分伝わった。
「……後手に回りっぱなしだが、呆けていても仕方ねえ。良吉もここに置いておけねえ。とりあえず運び出そうや……」
「うむ……後は役人に任せるか……」
頭の切り替えはさすがに早く、清太郎は次の指示を出す。
再び戸板に良吉の亡骸を乗せた。
「お、何だこれ……」
戸板を持ち上げようとしたとき、良吉の硬く握られた手から何か落下したのを金四郎は見逃さなかった。
おそらく、死に際まで握り締めていたものなのだろうが、先ほどの爆発の衝撃で手の握りが緩んだのだろう。
清太郎が拾い上げると、それは南蛮錠の鍵であった。
「……こいつは……」
何かひらめくものがあったらしい。
良吉の運搬を二人に任せ、清太郎は鍵を眺めながら歩き出す。
「ここにしようぜ。ここならしばらくは大丈夫だ」
火事は、幸い隣家のない田畑の中の一軒家のこと。風も無いので勝手に鎮火するだろうと思われる。
だが、一応は武家屋敷なので町方は入れない。
そういうわけで良吉の亡骸は屋敷裏外の塀際に寝かせ、戸板を立てかけておく。そうと知らなければ誰も気付かないだろう。
後で奉行所に知らせればよい。
それより、清太郎は急がなければならなかった。
「源さん、もう一つ心当たりができた」
「それはどこだ?」
「そいつはな――」
清太郎の答えは、意外にしてさもありなんという感想を源八郎に持たせるのであった。




