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十九 明かされる真実

2話目です。


 

「さてと……」


 あやめたちの姿が通りの角で見えなくなると、清太郎は背伸びをした。まるで次の仕事のために気持ちを切り替えるように。


 事実、清太郎には本業の仕事が待っている。

 それは、今回の事件の首謀者、あやめの兄・良吉の首を取ることであった。

 先ほどその件を口にしなかったのも当然のこと、執拗なまでにあやめを江戸から追い出したかったのは、それが原因なのだ。


「おつた、熊公呼んでくれ。来てんだろ」


「あいよ……それにしても清さん、お人好しになっちまったねえ。源さんが来てから変わっちまったんじゃないかい?」


「へっ。そうかい? 俺は俺だよ」


「ふ……ん。まあ、いいさ。仕事はきっちりこなしてくれりゃね」


 そう意味ありげに笑って、おつたは店に戻る。


「何の話だ?」


「すぐ話す。こいつは源さんの腕も借りてえことだ」


「……わかった。今回の件、清さんには大きな借りがある。何でも言ってくれ」


「お、俺も忘れんなよ!」


「わかった、わかった。とにかく戻ろう……」


 男三人も離れへと戻った。

 三人が互いに向き合うように座るが、清太郎はまだ口を開かない。他の二人も何か催促がましいことも言わなかったが、それほど長いことではなかった。


 庭の方から一人の男が現れる。


「あれ? この前の薬屋じゃねえか?」


 金四郎が覚えていたその男は、四十くらいの小男で大きな行李を背負っている。商い人にふさわしく、清太郎とは違う印象だが、愛想の良い笑顔であった。

 薬屋の男は縁台に行李を降ろしながら清太郎に声をかける。


「旦那。何かまたご入用の薬でも?」


「熊さん、俺と組頭と、どっちに付くつもりなんだ?」


「えっ!」


 源八郎と金四郎には何のことかわからなかったが、熊と呼ばれる薬屋が大層驚いていたのだけはわかった。


「組頭が江戸で何か企んでたのは知ってたんだろ? 地獄耳の熊蔵が知らねえワケねえわな。まあ、頼んだ解毒薬は本物だったから敵になるつもりはねえみてえだがよ、何で組頭が江戸にいること黙ってたんだい」


「わ、若……」


「若?」


 気まずそうな表情で熊蔵が、清太郎を旦那ではなく『若』と呼んだ。

 何か金四郎にとっては気になる符合である。


「おっと、その呼び方は勘弁しちくれ。いや、違うんでえ。金四郎は間違いなく若様だろうが、俺はもうそうじゃねえ」


「もう、とは?」


 源八郎も、既にここまで清太郎が身の上を明かしたのだからと、さらに追求する。


「俺の家は潰れちまったんだ。しかも、俺は嫡子じゃねえ。妾の子さ。生まれてすぐに捨てられちまったようなもんだ。それを育ててくれたのが組頭や熊さんってわけだ」


「……聞いておいてなんだが……よいのか? そんなことを拙者らに話して……」


「なに、これから大仕事を手伝ってもらうんだ。身の上話の一つや二つ……」


「そ、そうか……では、もうひとつ。組頭とは? 話からすると、良吉の事件に関わっているかのようだが……」


「ああ。俺も最初は気付かなかったが、あやめや金四郎の調べを聞いてて思いついたんだよ。念のため解毒薬を用意させたんだが、源さんに飲ませて効果があったのを見て確信に変わった。間違いなく組頭の毒にやられたってな」


「組頭とは何者だ?」


「……とある小藩に仕えていた忍びの頭だ。本当の名は俺も知らんが、薬活に長けていてな、人を意のままに操ることができるらしい。俺は直接見たわけじゃねえから最初は気付かなかったんだがな」


「人を操る……ま、まさに……」


 記憶こそなかったものの実際に操られたと実感している源八郎は清太郎の話に合点がいった。


 清太郎はさらにこれまでの事件に関しての推測として話を続ける。

 おそらくだが、と前置きがついているが、良吉は武州の家を飛び出してから組頭に拾われたかして薬活を学んだのだろう。そして、自分の母親も薬草に詳しいことを思い出す。

 あやめたちの母、お雪は薬草を使っているうちに芥子の実か或いはそれに似た効能のある薬草を見つけたのだろう。それが神懸り的な祈祷の正体だ。


「阿芙蓉だと! ご禁制の品ではないか!」


「まあまあ、俺の推測だから……」


 清太郎は憤る源八郎をなだめる。そして話を続けた。


 薬活を知った良吉は母親の祈祷の正体に気付いたのだろう。そして組頭とある計画を思いついたのだ。

 それが祈祷所を隠れ蓑にした人攫いなのである。


 幕府に恨みのある旗本の青木を上手く引き入れ、或いはいざというときの偽の黒幕として煽てあげていたのかもしれない。


 普通の祈祷客はお雪の薬で間に合う。

 狙いをつけた若い娘たちには組頭の薬を使い、一度家に帰してから自ら失踪するように仕向けるのだ。こうすれば祈祷所は疑われることはあっても証拠が残らない。


 辻斬りは青木の発想だったのかもしれないが、組頭とて幕府に大きな恨みを持つ者。進んで協力したに違いない。


「組頭の恨みとは?」


「ん? 言ったろ。俺の家は潰れたんだ。いや、幕府に取り潰されたんだ。おかげで組頭たち忍びもお役御免。みんな散り散りになっちまった」


「それはどこの藩……いや、すまぬ。話す必要はないな。拙者も金四郎も聞かぬことにしよう。よいな、金四郎」


「お。おお……」


「はん。そんな気の使い方も必要ねえんだけどよ……ま、確かに過ぎちまったことだ。意味はねえ。それより今だ。おい、熊さん。組頭の居所は?」


 清太郎の話によれば、この熊蔵という男も忍びの一人ということになる。

 そして、こうして今も清太郎のところに出入りしているのであるから、組頭とも連絡があるに違いないと問い詰めているのだ。


「わ、若様……勘弁してくれ……」


「何がだ。おめえのこった、事件のあらましは知ってるんだろ? 昔の仲間が悪事に加担してるんだ。情けねえとは思わねえのか」


 既に笑顔の無くなった熊蔵に清太郎は容赦なく追い詰める。

 殺し屋が他人の悪事を非難する。これは自分で自分の口を叩くようなものだと源八郎は感じたが、山田家も殺し屋稼業と似たようなものであるし、さらに、信念ということを基準にすれば、良吉たちの行いは純粋に許せなかったので敢えて口を挟まなかった。


 その甲斐あってか、熊蔵はついに白状する。

 それも、意外な答えを。


「……加担じゃありやせん……すべてお頭の筋書きです……」


「なに? するってえと、長崎屋ってのは……」


「はい……お頭の江戸での顔でさ……」


「…………」


 熊蔵の告白に、夢屋の用心棒その他三人は言葉を失う。


 だが、これで標的がハッキリしたことは確かだ。前進したと言っていい。清太郎のもう一つの心配、長崎屋という商人も薬で操られていたとしたら、罪に問うのは心苦しいという点も気にせずにすむようになった。


 標的は良吉と元某藩忍び衆の組頭の二人。

 今度こそいつもどおりの始末屋の仕事としてこなせるのだ。


「よし! 早速悪党退治だ! 源さん、金四郎! 行くぜ!」


「おうよ!」


 清太郎が立ち上がり、二人に声をかける。

 だが、元気よく返事をしたのは金四郎一人であった。

 座ったままの源八郎はある指摘をする。


「清さん。敵がどこにいるのかわかっているのか?」


「おっと。コイツはいけねえ……熊蔵、もう隠し事は無しだ。教えてくれ」


「……若様にゃかなわねえな……」


 清太郎の飄々とした態度は昔から変わらぬようであり、それを今更のように目の当たりにした熊蔵が情に流されてしまったかに思える。

 忍びとしては如何なものと思われるが、やはり忍びも人の子ということか。


「お頭は長崎屋に成りすます前から使っていた武家屋敷があります」


「武家屋敷?」


「無役の貧乏旗本で、子がないことをいいことに養子として入り込んだんですよ。薬を使ってね」


「ハッ! 矢坂の旦那に掛け合って正解だ。町方にゃ手も足も出せねえ」


「何ということを……して、その屋敷は?」


 武家の矜持も何もあったものではないと憤慨する源八郎が清太郎に代わって敵の本拠地を尋ねる。


「ね、根岸の……」


「根岸か。良吉の故郷、武州に近いな」


「屋敷の名義は?」


「田中又兵衛」


「……どこにでもありそうな名めえだ。確かに組頭らしいや。よし、今度こそ行くぜ!」


「おお!」


 二度目の正直とでもいうのか、源八郎が立ち上がり、ついに行動に移ることになった。

 三人は火事場にでも赴くかのように夢屋から出て行く。


 見送ったのはおつたと熊蔵。


「……大丈夫かね……」


「ああ……なにしろ相手は、あのお頭だ……」


 先ほどあやめを見送ったばかりの路地を、二人はいつまでも見つめていた。


今年最後の投稿です。

よいお年を。

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