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&DEAD  作者: メアリー=ドゥ
第3話:ポーカー
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第2節:危険な賭け


 黒服に連れて行かれたのは、クラブに併設されたスイートホテルの二階。


「実質、私邸って感じや。ワンフロアまるまる使ったロイヤルスイート、一人の人間が長期滞在で使っとるからな」


 ―――相手が誰か、知っているんですか?


「ま、使ってる奴は後ろ暗いだけちゃうくて、フロント企業もも上場するくらいデカく出来るようなやり手やからな。有名やねんで?」


 そうして、案内された室内の応接間。


 抑えられた色調に観葉植物が配置され、部屋の中央にゆったりと幅を取っているのは一人がけのソファが二脚と二人掛けが一脚。

 そして、光沢を放つガラスで出来たテーブル。

 壁面には、よく分からないが部屋の雰囲気に似合った絵画。


 品が良い、という印象の部屋だ。

 その一人掛けソファの一つに、誰かが腰掛けていた。


「ようこそ、客人」


 短く整えた黒髪の、中年男性だった。


 肉体は引き締まり顔立ちも整っている。

 やや額が広いが、ごく自然に刻まれた顔のシワと相まって、逆に渋い印象が見える。


「ようやっと会えたなぁ」


 春樹が発した第一声に、ぴく、と男の眉が動いた。

 彼はまっすぐ二人がけのソファに向かうと、腰掛けて深く背もたれに体を沈める。


 冬子は、黒服に横に座るよう促されて従った。

 座った三人の周りを、部屋の隅に控えていた黒服の男たちが、やや離れて囲うように立つ。


「結構長いことかかってしもたけど、会えて嬉しいわ」


 部屋に満ちる空気は。

 中年男性と春樹の放つ雰囲気に、本来部屋が持つ居心地の良さがかき消され。


 安らぎの対極にある、緊張感に満ちていた。


「随分余裕がありそうだが」


 男性は、落ち着いた口調で言う。


「自分の立場を理解しているか?」

「俺はあんたのカジノの、勝ち客や。ちゃうか?」


 おどける春樹を意に介した様子もなく、男性は言い返す。


「その前に、系列店でのイカサマがあったと思ったが?」

「金は返した。それに、サマはやってへんよ」

「イカサマなしで、同じ台で常に勝ち続けることは出来ないよ。ましてや、こちらで内容操作しているというのに、関係なく勝っていた」

「俺はそういう人間やねん。悪いけどな」


 春樹は、全く悪びれもせずに、受け答えする。

 しかし部屋の空気は、少しも緩まない。


「どういう意味だ?」


 春樹は中年男性の問いに、ニヤ、と笑った。


「オレは〝特別製〟やねん。賭け事では一切負けへん」

「戯れ言だな」

「事実や。確かめるか?」


 一言で切り捨てる男性に対し、春樹は身を起こして取り出したトランプをテーブルに置いた。


「あんたんトコからパクって来た、サラピンや」

「何を賭ける気だ?」

「108億」

「負けたら支払え、と?」

「いいや。あんたが負けたら、108億をチャラにする代わりに、言うこと一つ聞いてもらう」

「ほう」


 少し興味が湧いたように、中年男性は春樹を見た。


「大金はいらないか。おかしな奴だ」

「金には困ってへん。オレにとっては紙クズや。でも、あんたにとってはちゃうやろ?」


 春樹の顔をまじまじと眺めてから、中年男性は目を閉じて、鼻息を吐いた。


「内容は?」

「108億よりは軽いで」

「違う」


 男性は、春樹の目をまっすぐに見る。


「ゲームの、内容だ」


 中年男性の言葉に、ニヤ、と春樹は笑う。


「好きやな、あんたも。ポーカーでどうや?」

「好きさ。当然だろう」


 中年男性は、初めて笑った。

 上品だが凄みのある笑み、というものを、冬子は初めて見た。


「人生や商売は、全て博打だ。コツコツやるか、大きく賭けるかは人によって違うがね」

「同感や」

「私は大きく賭けるが、負ける気もない」


 男性は春樹の持って来たトランプを脇に立つ男性に渡し、新しいものを受け取った。


「君の持って来たカードは使わず、さらに1ゲームごとに交換する」

「慎重やな」

「当然だ。108億という金額の大きさを分かっているか?」

「さぁな。オレが言えるんは、別に言うこと一つ聞いてくれるんやったら108億は勝負せんでも、チャラでええってことやけどな」


 春樹は言うが、中年男性は首を横に振る。


「甘い話は信用しない。願いは聞かず、108億も払わないに越したことはない」

「楽しいおっさんやなぁ。食えんけど」

「生意気な子どもには丁度いい〝不味さ〟だと思うが、どうだね?」

「なるほど。つまりおっさんは毒やねんな」

「いいや、薬だよ。バカを治す薬は一つしかない。……人を生まれ変わらせる薬、だ」

「ヤバそうなお薬や」

「そう、劇薬だ」


 震え上がるふりをする春樹に、中年男性は目を細めた。

 彼は箱からカードを取り出し、それがシャッフルされる。


「カットを」


 春樹が、山札からカードを束で取り横に置く。


「何番勝負にする?」

「3番勝負や。2勝したほうの勝ちで」


 二人は、5枚のカードを手に取った。


「こちらにさせたいことの内容はなんだ?」

「それは言われへんな」

「あまりに無茶な願いならば、君を行方不明にしてなかったことにさせてもらう」


 手札のいらない札を交換しながら、男性は言った。


「出来ひんよ。あんたには」


 春樹も、カードを交換する。


「それに、ムチャでもなんでもない願いや。あんたにとっちゃどーでもええくらいのな」


 春樹のその言葉に。

 冬子は、以前に彼と交わした会話を思い出していた。

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