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&DEAD  作者: メアリー=ドゥ
第二話:オセロ
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終章:白黒の外側

 目を覚ましたまといは、混乱していた。


「え、と……私、なんで……?」


 じっちゃんとフミは、すでに店から消えており、割れたグラスも片付け終わっていた。

 いつもと変わらない店内で。


 順次と差し向かいでオセロに興じながら。

 春樹は、平然と嘘をつく。


「いやぁ、ビックリしたで。店に来ていきなり倒れるんやもん」

「え? た、倒れ?」

「せやで。どないしたん?」

「でも、私化け物に襲われて、それから……」

「化け物? 夢でも見たんか?」


 春樹は、心の底から不思議に思っているような顔をした。

 全てを知っている冬子から見ても、嘘偽りを言っていないかのように、見える顔。


 これを、ポーカーフェイスと呼ぶのだろう。


「夢、だった、のかな……?」


 だんだんと自信をなくしていくまといに、春樹はさりげなく言った。


「きっと、疲れてたんやろ。今日はもう帰りぃ。彼氏のほうは、明日にはなんとかしとくメドが立ったから」

「はい……」


 ふらふらと、まだ夢見心地に歩き出したまといが、ドアをくぐる直前に春樹は言う。


「もう、クスリなんかに手ぇ出したらあかんで」


 びくん、と背筋を強ばらせ、まといが振り向く。

 彼女は青い顔でくちびるを震わせると、頭を下げて逃げるように出て行った。


「ま、もうルートもないし、大丈夫やろうけどな」


 ひとり言のようにつぶやいて、春樹は、ん〜、と伸びをした。

 そうして、ひなたの猫のように弛緩した様子でソファにもたれ、順次に言う。


「これで良かったんやろ?」

「ああ……」


 順次は、オセロ盤の石を返しながら、歯切れ悪く返事をした。


「どないしたん?」

「一つ、気になっていた」


 オセロを返す手を止め、順次は言う。


「俺は、薄絹に、お前のことを教えていない」


 春樹が、軽く眉を跳ねさせた。


「……フミちゃんが教えたとか?」


 少し考えて、春樹が繋がりのありそうな人物を上げる。

 だが、順次は首を横に振った。


「ありえない。こっちはそもそも、ノブの方を押さえていた。薄絹の居場所まで把握する必要はなかったんだ」


 知りたければ、ノブを自由にすれば勝手に見つけてくれるのだから、当然だ。


「そいやノブに引き込まれる直前に、マトイは妙なこと言うとったな。『桜散さんなら助けてくれるって言ってたのに』、とか。トーコ、マトイにそんなこと伝えたか?」


 冬子は、首を横に振った。

 声を掛け、連れて来はしたが、事前にそんな話をした覚えはない。


 彼女は、最初から春樹の存在を知っていたんだろうか?

 それとも、冬子が引き合わせた後に、誰かから春樹の事を聞かされた……?


「この形を仕組んだ誰かが、おるってことか?」


 ぽつりと言った春樹は、盤面を見て自分の思考に沈んだ。

 思考に沈みながらも指を上げ、石を打つ。

 パチ、パチ、と、しばらく石を打ち、裏返す音だけが響く。


「俺らがオセロのコマやとして、コマにした誰かがおるんか? コマにして、遊んだプレイヤーが」


 春樹は、目だけを鋭く細めて独白する。


「そいつは、この絵を描いてどんな得をしたんやろな?」


 見えない敵を見据えるかのように、一度目を閉じ。


「ま、ええやろ。……プレイヤー、そんな奴が仮のおるんやったら」


 春樹は目を開けると、肉食の猛獣のように牙を剥いて笑った。


「お前の周りの状況、全部ひっくり返して暴いたるわ」


 彼は最後の一石を盤上に打ち、返す。


「それこそ、オセロみたいに真っ白に、な」


 盤上から、黒石の姿が消えた。

 順次が、顔をしかめる。


「また負けた」

「順次、ゲーム弱過ぎやねんて」


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