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&DEAD  作者: メアリー=ドゥ
第一話:ダウト
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序章:黒い骨

 冬子の視線の先には黒い『骨』が座っていた。


 夕方、学校近くの駅前。

 人気のない場所に、一台の黒い車がぽつんと居て。

 その車が止まっているロータリーの脇に設置されたベンチに、その『骨』は座っていたのだ。


 何かの人形だろうか。

 疑問を覚えて冬子は足を止めた。


 漆のような艶を放つ見事な頭蓋骨。その右頬には朱いタトゥ。

 着ている服はあまりガラの良くなさそうな趣味のもの。

 ジャケットやシャツ、デニムに至るまで元からなのか肉がないからなのか、明らかにオーバーサイズだった。


 『骨』には髪があり、色は金。

 元からではなく、染めているのかも知れない。

 そんな色合いだった。

 じっと見つめていると『骨』がこちらに気付いて立ち上がる。

 我に返った冬子は、ある事に気付いて頭を下げた。

 初対面の相手を黙って見つめるなんて。

 自分は、失礼な事をしていたのではないだろうか。

 『骨』は冬子の前まで来ると足を止めた。

 オレンジ系の香水と煙草の匂いが、かすかに香る。


「なぁ。お前、ウメサキトーコやろ?」


 冬子は、心の中で返答した。


 ―――とーこではなく、ふゆこ、です。


 すると驚いた事に、黒い『骨』が心の声に答えた。

「あ、そうなん?」

 何故、彼は話しかけてきたのだろう、と冬子は思う。

 見つめていた事を怒ったのだろうか。

 怒られたところで冬子は頭を下げる事しか出来ないし、お金も持っていない。

「ま、どっちでもえーやん? 俺はハルキ。春の樹で春樹やで。よろしゅー」

 ―――春樹さん。はい、よろしくお願いします。

 自己紹介されたので、頭を下げた。

 そんな冬子に対して、自然な口調で春樹は続ける。


「で、俺、今からお前さらうわなー?」


 ―――? あ、はい。


 返事をしつつも、冬子が言葉の意味を理解する前に。

 彼女は、いきなり背後から口を塞がれた。


 驚いて目を見開くと、見知らぬ少年たちが冬子を押さえつけている。

 いつの間にか、周りを囲まれていたらしい。


 思わず暴れたが、無駄だった。

 体を持ち上げられ、無理矢理、先ほど止まっていたワゴンの中に押し込まれそうになる。


 闇雲に振り回した腕がワゴンのドアに当たり、咄嗟に掴む。

 しかしすぐに、冬子は春樹に指を剥がされてワゴンの中に引きずり込まれた。


「出してーや」


 ドアを締めた春樹の言葉を受けて、思いのほか静かにワゴンは発進した。

 手際よく手錠を掛けられて猿ぐつわをされ、シートに抑え付けられた。

 車内は暗く、蒸し暑い。

 疲れた冬子が抵抗をやめると、春樹が言った。


「もう離してええで」


 少年たちが、冬子を解放した。

 荒く息を吐きながら体を起こし、冬子はお腹をさする。


 ワゴンは八人乗りで、中は満員だった。

 冬子以外の七人は全員、あまり関わりたくない種類の人間だと分かる。



「大人しくしぃなー? 抵抗する子を押さえつけてヤるのも、それはそれで燃えるけどやー」


 その言葉に、冬子は少し待ってから首を傾げた。


 ーーーやる、とは、何をするんでしょう?


「ん? 男が女にヤる言うたら、アレしかないやろ」


 言われて、冬子は言葉の意味に気付いた。

 え? 骨なのに? と混乱する冬子だったが、シートをフラットにした後部座席で、誰かが笑い出して思考が中断される。


「何がおかしいねん」

「いえいえ、これってユーカイじゃなくて、DQNのナンパだったのかと思いまして」


 冬子が振り向くと、チューブトップにシャツとショーパンの少女がニコニコと手を振り返してきた。


「ちゃうやん。俺はトーコに、交際のお申し込みをしてんねん。一目惚れっちゅーヤツやな」

「へー初めて知ったー。ユーカイして付き合おうとするキチクがいまーす!」

「やかましいわ! ドつくぞ!」

「暴力反対ですよー!」


 茶髪の少女は笑いながら両手を挙げると、すぐに手を下ろしてスマホをいじり始めた。

 その彼女の両腕も真っ白な骨だけで肉がなく、スマホの画面を叩くたびにカチカチと音がする。


 熱がないのに反応するんだろうか?

 そんなどうでも良い事を思い浮かべる彼女に。


「でも、悪ふざけはこのくらいにしましょう。戻しますね?」

「おう。トーコ。今度は〝ちゃんと顔を合わせた時〟に返事聞かせてなー?」


 そう言われた途端に。

 ふ、と気絶するように意識が遠ざかり。


 ―――冬子は、自宅で目覚めて、それが夢だったと知った。


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