第5話 マグネット・フールズ
チャイムが鳴る。ということは、もう昼食の時間だということだ。
いつもは陽室と学食に行くのだが、今日は何故か冬乃に呼ばれたらしく、その姿はない。
やけに冬乃の表情が怖かった気がするが、陽室は何をやらかしたのだろうか?
そんなことを考えつつ、教室を出て学食に向かう。今日は何にしよう。カツ丼でいいかな。
「月神奏!」
突然フルネームで呼ばれた。声は女。もう面倒ごとに巻き込まれる気配がプンプンしていたが、とりあえず振り向いてみた。
「とうとう見つけた! まさかこんな所にいたなんて!」
「……」
やばい、想像以上に面倒臭そうだ。
身長は冬乃より少し低いくらい、髪はくせっ毛で、目はぱっちりしている。中々の美人さんだ。
そして俺は言った。俺がこの少女に言える、ただ一言を。
「ダリナンダアンダイッタイ……?」
放心したように少女は口を半開きにしていた。アンタ何言ってんの、そんな雰囲気だ。
しかし彼女は気を取り直すように腰に手を当て、何故か偉そうに話し始めた。
「オ、オンドゥル語で誤魔化そうったってそうはいかないわ! 貴方が私を知らないはずないもの!」
「いや、本当に知らん。名を名乗ってもらおうか?」
「鴫原飛佳子! 3年生よ、アンタの先輩!」
「まーた呼びづらい名前だなぁ。で、そのひよこちゃんがどうしたんすか?」
「ひ、ひよこちゃん!? ち、ちょっと、少しは先輩を敬いなさいよ!」
いちいちピヨピヨと騒がしい人だ。成る程、確かに名が体を表している。
やがてひよこちゃん……じゃない飛佳子先輩は咳払いを一つして話し始めた。
「そう、アンタに聞きたいのよ……火野里夏香の弱点をね!!」
「すんません飯食いに行くんでまたの機会に」
「待って!?」
余りにも馬鹿丸出しだったので無視しようかと思ったのだが、簡単には逃がしてくれないようだ。
「貴方、火野里夏香の彼氏なんでしょう!? なら弱点の一つや二つ……」
「弱点知ってどうするんすか……っていうか、あいつ弱点だらけなんじゃあ……」
「分からないからこうして聞いてるの! お願い、学食私が奢るから!」
「分かりましたよ、もう」
こんな泣きそうな顔で懇願して来たら、まるで俺が悪いみたいじゃないか。
ま、適当に言ってみるか。
「まず、夏香はピーマンが嫌いで、運動神経は最悪、空気が読めない、重度の特撮オタク、トランプが下手……」
「ん〜、弱点らしい弱点じゃないなぁ……他にもっとこう、他人に知られたら恥ずかしいこととか」
「十分恥ずかしいことじゃないすか?」
面倒な人だ。後は……
「童顔低身長なのに巨乳とか」
「んなもん誰だって見れば分かるわよ! いや、巨乳なのは知らなかったけど!」
「なら、とっておきの方法を教えますよ」
これ以上やっても暖簾に腕押し、ぬかに釘。最強の解決策を教えることにした。
「本人に聞けば良いんですよ」
「…………」
やばい、流石に適当すぎたか? これは誰だって…………
「貴方、天才ねっ!! そうよ、そうすれば全部解決じゃない!」
えぇぇぇ!? マジで言ってんのこの人!?
「ありがとう! よし、これで火野里夏香をギャフンと言わせてやるわ!!」
そう言うと、彼女は何処かへ走り去ってしまった。
「まぁ、アレだ。馬鹿同士は引かれ合うってことだな」
学食に向かうのも億劫になった俺は、購買へと向かうことにした。
この大学、どうなってんだ。
続く
次回、非常識な方程式は!
「今日こそ決着をつけてやるわ、火野里夏香!」
「なんで惑星って丸いんだろう?」
「プールなんて魔境なんですよ! 存在自体が!」
「今、人生を無駄にした後悔に襲われてるわ」
「運命共同体ってか?」
「プールキタァァァァァァァ!!」
馬鹿と常識人は、紙一重!