第4話 メロンパン貧相英雄録
「ぶ〜、奏なんで出ないの〜?」
「講義中だからじゃあないでしょうか……?」
今のでこのやりとり、実に5回目。
冬乃は何となく、奏の事を尊敬できる気がしてきた。ちゃんと丁寧にツッコミを入れるとは流石、夏香の彼氏なだけある。
「あ、メールが来た」
「よく講義中なのに送りましたね。なんて来たんですか?」
「件名なしで、一言〈大人しくしてろ〉だってさ」
「でしょうね」
それでもメールを送った奏は本当に夏香の事を大事にしてるだなと、冬乃は思わず笑ってしまう。
「ところで話は360度変わるけど」
「元に戻ります」
「ふゆのんは何が好物?」
「また唐突に……えっとですね」
そういうと冬乃はバックをガサゴソ漁り始め、そしてある物を取り出した。
「これ、メロンパン?」
「はい。朝ご飯と3時のおやつはいつもメロンパンです」
メロンパンというのは少し意外だった。夏香は改めて冬乃の頭から爪先までを見てみる。毎日2個ずつメロンパンを食べている割にはスリムだ。
「メロンパン……」
「付け合わせは牛乳ですね。正にジャスティスな組み合わせ。最強のパンはメロンパンですよ!」
「付け合わせは牛乳……」
夏香の頭の中は、とある式がグルグル回っていた。
メロンパン……メロン……
付け合わせは牛乳……牛乳……
ふゆのんの胸は……薄型……
そして、全ての方程式が合わさった!
「ふゆのん! きっと叶うよ! 最強のメロンパンと牛乳があればきっとD以上も夢じゃあ……」
「いや、なんの話を……」
「それにだよ、時代は薄型! 薄いものが引っぱりダコ、薄いものこそジャスティス、信じる奴がジャスティスなんだよ!!」
「夏香先輩、声、声!」
周りの怪しむような視線に耐え切れず、冬乃は夏香を制止する。というか冬乃からみても怪しい状況だ。
「そもそも何の話ですか、薄型って?」
「いやぁ、メロンパンは良いね! 希望を与えてくれる、正に英雄だよ」
「ま、まあ先輩がメロンパンの魅力を知ってくれたなら嬉しいんですけど……」
何だかよく分からないままだったが、冬乃は無理やり納得する事にした。
そうでなければ、いずれ奏のようになってしまう。
「だからさ、ふゆのん!」
夏香はガシッと冬乃の肩を掴む。
そして、禁句を放った。
「AからDカップへのステップアップ、頑張ろう!」
「…………」
クシャッ、という音がする。それは冬乃がメロンパンを握り潰した音だった。
「夏香先輩、どうして、私が、Aカップだって…………?」
「ん? 確か……陽室君から聞いたんだよ」
「へぇ……陽室先輩が、ねぇ……」
スッと立ち上がる冬乃。そのまま何処かへ行ってしまった。
取り残された夏香がポカンとしていると、講義終了を告げる鐘が鳴った。
「あれ? 何かマズイこと言ったかな?」
続く