第3話 ユートピアはディストピアと何かをアレして生まれる
大学の講義って、小中高の授業よりも格段に眠くなる気がする。
何故なのかは何となく分かっている。小中高はまだ「教わっている」感覚があるのに対し、大学は「教授がポンポン話していく」感じだからだろう。
だがノートを取れねば、単位も取れない。
だから俺は眠い脳みそに鞭打って講義を聞いているのだ。
「でも、この講義辛いんだよなぁ」
特別難しい訳ではない。教授が厳しい訳でも、課題が多い訳でもない。
教授がダンディボイスなせいで、まるで子守唄なのだ。
既に数名、この子守唄の餌食になっている学生の姿がある。
「皆さん、この年表を見て下さい。知っての通り、ここから産業が目覚ましく発達していくんですね」
いや、こっちは目覚ましくどころか快眠なんですが。このままだと発達どころか、衰退の一途なんですが。
(く、くそ、段々意識が……)
薄れていく景色。
このままだとまた夏香からノートを借りる羽目になってしまう。あの仕方なさそうなムカつく顔をあまり見たくないというのに…………。
ビックリするほどユートピア!
ビックリするほどユートピア!
謎の怪音。
みんなが辺りを見回し始め、講義室がざわつく。
誰だ誰だと犯人探しが始まる。
全く迷惑な奴だ。こんなイカれた着信音を鳴らして授業妨害するなんて。
一体何処の誰が…………。
見るとバックの中で振動しながら、俺のスマホが発していた音だった。
(お、俺のスマホォォォォォォ!?)
どういうことだ、こんな着信音にした覚えはない。誰かが勝手に変えたのか……? そもそも俺は普段マナーモードに……。
ビックリするほどユートピア!
ビックリするほどユートピア!
うるせぇっ! 寧ろ状況的にディストピアだ! まずい。バレたら一生笑い者にされる。誰だ、誰がこんなタチの悪いイタズラを……。
見回すと、陽室が小さくサムズアップしていた。
(テメェかぁぁぁ!!)
絶対許さねぇ! この局面を乗り越えたら砕けたポテチみたいにしてやる!
だが、どうする?
ビックリするほどユートピア!
ビックリするほどユートピア!
これを止めなければいずれバレる。だが止めようと手を伸ばしたらバレる。
最悪だ。保険にも入れないくらい最悪な状況だ。
俺に、未来は…………
だが、その音はピタリと止んだ。
(あれ? 音が……)
止まった! 助かった! 何がともあれ、無事に乗り越えることが出来た。
全く誰なんだ、授業中に電話してきた奴は。
俺はバレないように、スマホの様子を見ようとした。
しかし、未だ俺のスマホは振動し続けていたのだ。
(ど、どういうことだ!? 俺じゃない? じゃあ一体誰が……)
「すまない。私の携帯が鳴ってしまったね」
ダンディな声が、俺の耳に飛び込んできた。
………………は? 教授?
しかし俺が顔を上げた時には、何事も無かったかのように講義が再開していた。
その日俺は、講義で一切寝落ちすることは無かった。
続く