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第28話(最終話) 非常識!

 呼び鈴を鳴らすと、夏香の母親が出る。そして見舞いの品を渡して帰る。


 これをもう1ヶ月も続いている。何とか夏香の顔を見ようとこうして見舞いを続けているが、どうも部屋に閉じ籠ったまま出てこなくなっているらしい。所為、引き篭もりというやつだ。


 母親曰く、今は国立の大学で二次募集をしていた所を偶然発見し、そこを受験する予定らしい。しかしモチベーションが上がらず、朝から晩まで部屋にこもりっぱなしだそうだ。

「…………仕方がない、か」

 ここ最近の出来事で、俺の覚悟は決まっていた。これからの事を、やつに話さなければならない。


 強行突破作戦を、決行する。





 後日、ケーキを片手に夏香の家へと突入。母親から許可を貰い、夏香の部屋の前までやって来た。

「夏香、俺だ、奏だ。話がしたいから出て来てくれ」

「…………」

 だんまり。ここまでは作戦通りだ。

「近くに出来たケーキ屋のショートケーキがあるんだ。一緒に食いながら、な?」

「…………(ガタン)」

 お、ちょっと揺らいだ。

 だが頑なだ。甘いもので釣ろうとしても無駄みたいだ。

 よし、ここからが勝負だ。


「…………分かった。ケーキは置いておく。また後でな」


 ケーキを扉の前に置き、そして階段の所で足踏みをして帰ったように偽装し、物陰に隠れる。

 さぁ、古典的なこの手にかかるか?



「…………(そ〜)」

 僅かに扉が開く。その隙間からキョロキョロと周りを見渡している。だがまだダメだ。隙間が小さすぎて突撃するには足りない。


 やがて敵がいない事を確認。扉が更に開き、手がケーキへと伸びる。


 今だ!!



「見えたっ、そこだぁっ!!」

「ひぃっ!?」

 気付いた時にはもう遅い。

 夏香を押さえつけるように飛びかかり、部屋に転がり込む。扉が閉まった。


 押し倒した様な形になっている。おまけに夏香の格好。ほぼ下着姿だ。何やってたんだ? だが今はそんな事を気にしている場合ではない。


「あぁもう、やっと捕まえたぞ! 一体何してたんだ今まで……!!」

「何で……?」

「あ?」

「何で、あんな酷い事言ったのに、どうして……?」

 今にも泣き出しそうな顔で尋ねられる。


 本当ならここで格好の良いことの1つや2つ言えれば良いのだが、そんな事思いつくわけがない。何ならこの後何をすればいいのか、何も考えていない。まずいだろそれは。



「…………から」

「へ……?」



「いつの間にか好きになってたからだよ!!! 心配ばっかかけやがって!! こっちはお前が行くっていう大学に行くために死ぬ気で勉強してんだぞ!! なのに何だお前は!? 漫画とアニメと特撮に埋もれやがって!! お前なんか大っ嫌いだ!」

「…………っ」



 …………あ。言ってしまった。色々と言ってしまった。

 呆気に取られた顔してんだけど。めっちゃ怖いんだけど。間が怖いんだけど。



「…………ぷっ」

「あ?」



「あっはははははははっ!! な、何それ、どっちなの!? ねぇどっちなの!?」

「いや、あぁ……っと……」

「もう、いきなり可愛く見えてきたぞー!!」

 と、夏香は俺の頭を抱く。双丘に圧迫され、息が苦しい。


「私も、私も好きー!! 奏君、いや、奏の事、大好きだよー!! 私頑張るよ! 頑張るから、奏も一緒に行こう!! 同じ大学に!!」

「お、おもふおごぁ……!!」

 返事をする間も無く、抱きしめる力が強くなる。


 薄れていく意識の中、俺は小さくサムズアップし、柔らかな感触に溺れていった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こうして2人は無事に同じ大学に入学し、幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」

「うぅ…………そんな事があったんですね……!」

 私は思わず涙を流してしまいました。何で奏先輩視点なのだろうとかいう細かい疑問も吹き飛んでしまいました。


「感動しました…………2人にそんな過去があったなんて知らなかったです…………」

「奏が恥ずかしがって話さないからねぇ。まぁ堅物時代の私を振り返られる良い機会だったよ。若かったなぁ」

 お婆ちゃんの様な口調になる夏香先輩。


 その時、ドアが開く音が聞こえてきます。きっと、夏香先輩の愛しの君です。

「それじゃあ私はこれで。また明日バイトで会いましょう」

「ほんじゃ、まったね〜」

 手を振り、部屋を出て行きます。


 廊下で先輩とすれ違います。


「お、来てたのか」

「…………」

「?」



「いつの間にか、好きになってたんだよ。ベタですけど、カッコいいですね、先輩」

「うぐおっ!?」


 大ダメージを受けた先輩を背に、私は帰路に着くのでした。





「夏香ぁ!! お前喋ったなぁ!?」

 部屋に駆け込むなり叫ぶ奏。夏香はニコニコ笑いながら奏を見つめる。

「いいじゃん。って、奏、覚えてたんだ」

「覚えてるに決まってんだろ、あんな小っ恥ずかしい台詞!」

 スーパーの袋の中身を冷蔵庫にしまいながら怒りを露わにする奏。



 夏香は知っている。この怒りが愛情の裏返し。自分の事を見ていてくれている証だ。


 自信がある。絶対に彼は自分を見捨てない。


 だから、笑ってみせる。奏が好きな笑顔を見せるのだ。



「奏」

「何だよ?」

「これからも、一緒に頑張ろ」




「…………何当たり前の事、今更言ってんだよ」



 2人が卒業して、仕事に就いて、本当の家族になるお話は、まだ先。


 1+1が2よりも大きな数字になるような非常識な方程式が成り立つには、多大な時間が必要なのだから。


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