第21話 ハッピー22
次の日。
奏が街中をぶらついていると、スマートフォンに着信が入る。起動すると、「夏香」の文字が。一瞬居留守しようかと考えたが、流石にそれは酷なのでやめた。
「もしもし?」
[もしもし、私、夏香。今部屋にいるの]
プツリと通話が切れる。
何となくネタが割れてきたが、またすぐ様電話がかかってきた。
「もしもし?」
[もしもし、私、夏香。今……えっと、あの、そこらへんにいるの]
プツリと切れる。少し考えていた展開と違うが、構わず続きを待つ。
するとまたしても着信。
「もしもし?」
[も、もしもし、私、夏香。今、今…………]
プツリと切れた。
奏はGPSを起動し、夏香の現在地を検索する。あのお話のオマージュなら、そろそろ奏の後ろに来ていてもおかしくない。
だが夏香の現在地は、街から大きく外れた河川敷にあった。
と、着信が入る。
「もしもし?」
[もじもじ…………私、夏香…………だ、助けデガナデェ…………]
哀れ、メリーさんは怖がらせる相手に辿り着けず、その相手に助けを求めるのだった。
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「奏〜!!」
河川敷に着くと、夏香は手足をバタバタさせながら駆け寄ってくる。躱そうかとも考えたが、今回は素直に受け止めた。
「死ぬかと思った〜!!」
「そうだな」
「ウエェ……ズズッ」
泣きじゃくりながら鼻をすする、21歳の女。普通ならドン引きだろうが、もう慣れたものだ。
「奏ぇ……あったかいの食べたい」
「いいぞ」
「おうどんがいい」
「あぁ」
夏香を背負い、奏は河川敷を歩く。
そよ風が2人の頬を優しく撫でる。
「奏、あっちのお店でうどん食べよ」
夏香はうどんのチェーン店を指差す。
「これ食べたい! これ!」
夏香がメニューで指差したのは、かき揚げやら肉やらが大量に盛られた、胃に悪そうな、蕎麦。
うどん屋で蕎麦を頼むのか、という突っ込みを期待していると、奏は口を開いた。
「あぁ、いいよ」
あっさりと了承。蕎麦に関しての突っ込みはおろか、量や値段についても一切お咎めなし。
妙な不安が夏香を襲った。
「奏、あれ欲しい」
とある玩具屋で夏香は立ち止まる。
日曜日の朝に夏香が視ている特撮番組の変身アイテム。その登場人物の音声が大量に収録されている初回限定盤。
欲しいとは言ったものの、買って貰えるとは思っていない。欲しいのは本心だが、自分で買えばいいだけの話。少し突っ込みを入れて欲しいだけだ。
だが奏は、
「ほら、買ってきたぞ。電池は単4でよかったか?」
買って来た。
夏香は言い得ぬ恐怖心に囚われていた。
「奏、お姫様抱っこして」
いつもの我儘を夏香は言ってみる。聞いてくれなくてもいい。突っ込むなり、悪態を吐くなり、何か反応してくれるだけで満足だった。
だが奏は夏香をその手に抱いた。軽々と抱えられ、目と目が合う。
「あ、あ、か、奏?」
「どうかしたか?」
「い、いや…………」
夏香は自らの頬を抓る。夢ではない。ならば奏の頬を抓ってみる。困惑したような表情を浮かべたが、何もしてはこない。
どうしたのだろう。こんなにも優しい奏は初めてだ。
ーーいや、違う。確かあの時も、初めて会ったあの時も、大学に受かったあの時も、奏は喜んでくれた。
他にも優しくしてくれた時は、いつだったっけ。
「奏……」
「どうした?」
「今日、優しいね。どうしたの?」
「……あぁ、そのことか」
奏は少し照れ臭そうに口を尖らせると、ポツポツと話し始めた。
「今日、お前の誕生日だから……けどプレゼント用意するの忘れててな。せめて……今日くらい我儘に付き合おうかなって……」
「……」
夏香の顔も次第に赤くなっていく。
確かに今日は誕生日。自分もすっかり忘れていた。
ハッピーバースデー、22歳。
「…………じゃあさ、最後の我儘、いい?」
「おう、何だ?」
「今日、うちに泊まって。一晩中飲み明かそう……じゃあ、ない、か…………」
どもる夏香。
奏は小さく溜息を吐き、返答した。
「了解しやした」




