第九話 「許してほしかったら~」
「シネ! ニンゲン!!!」
目の前の竜がそう叫び、その巨大な爪を俺に向けて振り下ろす。
俺は聖剣ちゃんを振るう。爪が切断され、竜の爪から血が噴き出る。
「中々強いじゃないか。騎力二万の騎士候じゃ勝てなかったのも肯ける強さだ。まあ、俺からすれば大したことは無いな」
俺は竜に肉薄する。
竜は非常に大きな体を持つ。こいつの大きさはアフリカゾウの三倍ほど。
巨大な大きさは直接体重の重さに繋がる。体重が重いということはそれだけ破壊力のある攻撃を繰り出せるということだ。
また竜の鱗の厚さは竜の大きさに比例する。
こいつの鱗はタダの鉄剣では傷一つ付けられまい。
……ただ、俺の聖剣ちゃんは神具だ。タダの剣ではない。
そして体が巨大ということはそれだけ動きが鈍い。
俺は竜の繰り出す攻撃を全て躱しきる。当たらなければどうということは無い。
「死ねえええ!!!」
俺は聖剣ちゃんを振るう。竜の鱗を引き裂き、その下の肉に剣を突き刺す。
くそ、外したか。
体が大きい敵というのは実に厄介だ。
人間ならば今ので真っ二つだが、竜ではそうはいかない。
俺は切断力のある聖剣ちゃんの光で竜の心臓の破壊を狙ったのだが、少し位置がズレていたようだ。
俺は剣を引き抜……っち、抜けない! この野郎、筋肉で抑えこみやがったな!!
「シネエエエ!! ニンゲンガ!!」
竜は牙を剥きだしにして。俺の右腕に噛み付いた。
何かが折れる音が俺の腕に伝わる。
「うがあああ!!! 骨が……なんてね。そいつは義手だ。バカ竜が」
竜は絶叫を上げて、口を開く。牙が折れて居ることが分かる。
そりゃ俺の義手より硬いモノなんてそうそう無いからな。思いっきり噛み付けばそうなるのは自明の理だ。
「逃がさねえぞ」
俺は竜の舌を掴み取る。思いっきり、握りつぶしてやると竜は絶叫を上げて俺を振り回し、剥がそうとする。
「死ね、くそトカゲ!!」
俺は聖剣ちゃんを振り上げる。聖剣ちゃんが光を帯びる。
もう外さねえぞ。クソトカゲちゃん。
俺の剣が確かに竜の首を切断した。
「流石です! 魔帝陛下。いえ、勇者様とお呼びした方が?」
「俺はまだ正式に即位していないからな。勇者様の方が適切かな。まあ、どっちでも良いさ」
俺は竜退治を依頼した騎士候にそう言った。確か爵位は伯だっけかな。
この伯爵の騎力は一万前後。かなり強力な騎士候だ。
しかし彼の手ではこの竜は少々危険である。そこで俺が買って出たのだ。
まあこの騎士候が部下をかき集めて、命を掛ければ討ち取れない相手でも無かったが……
被害が大きいからな。
「あの……それで竜の蓄えていた宝物ですが……」
竜は光物を集める習性がある。まあ、カラスみたいなものだな。
金貨や宝石、その類を大量に確保しているのだ。
今回の竜が眠りから覚めたのは一か月ほど前。
だが眠りに付く前にかなり暴れていたらしく、膨大な財物を隠し持っていた。
この世界には金山や銀山といった物は少ない。あっても埋蔵量は相当少ない。
一説によれば、ユリアス帝国時代に掘りつくされてしまったとか。
逆に言えば金や銀の大部分は地上にあるということだ。
もっとも大部分は竜が溜めこんでいる。故に非常に価値がある。
「協定通り、七割は俺が貰おう。三割はお前が持って行け」
「はい、ありがとうございます。魔帝陛下に永遠の忠誠を!」
伯爵は跪き、魔界流の忠誠の誓いをする。現金な奴だ。
しかし騎士候の取り込みは必要不可欠。
それに騎士候の大部分はこんな奴ばっかりだ。自分の領地と権力さえ保障してくれれば、王や皇帝など誰でも良いのだ。
騎士道というのは理想である。というか騎士のマナーが悪いから騎士道が産まれたのだ。
「それと一割はお前に預ける。今回、被害にあった領民も多いだろう。その一割を使って復興しろ」
「それは!! 願ってもないことです。ありがとうございます!!」
一応メアからこの男の人柄は聞いている。結構善政を敷いているらしく、税収も高いらしい。
だから預けても問題ない……まあ少しはポケットに入れるだろうけどな。
メアはこの男を官僚として取り込みたいようだ。
そもそも竜の宝物は臨時収入。泡銭。
無くなっても財政には何の影響もない。俺の人気取りに仕えれば良い。
「じゃあ、俺は帰るとしよう。二週間後の即位式で会おう!!」
グロウはメアの自室の扉をノックした。メアから許可を取り、部屋に足を踏み入れるや否やグロウは口を開く。
「なあ、メア。魔帝陛下はどこにいらっしゃる?」
「竜退治。というか、敬語を使いなさい」
メアはグロウを睨みつけた。グロウは鼻で笑う。
「何故? 俺が妹に敬語を使わなければならん」
「私は魔帝の妃。あなたよりも上位。良いから敬語を使いなさい。さもなくば……」
「さもなくば?」
メアはニヤリと笑う。
「あなたの奥さんに私への便器発言をチクる」
「おい、ちょっと待て!! いくら何でもそれは……」
「敬語」
「うっ……」
「敬語」
「分かった!! 分かりました!!」
グロウはそう叫んで、メアに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!! 許して下さい」
「嫌」
「はあああ?」
グロウは目を吊り上げる。しかし慌てて頭を下げ直す。
メアはそんなグロウを満足げに見ながら足を突き出した。
「許してほしかったら靴の裏を舐めなさい」
「そ、そんなこと……」
メアは足の裏を見せて、早くやれと言わんばかりに責める。
グロウは屈辱に顔を歪めながら、這いつくばってメアの靴に舌を伸ばす。
(よし! 蹴っ飛ばしてやる!! そして汚い舌で舐めるな!! これで決まりだ!!)
メアは邪悪な笑みを浮かべ、実行に移そうとする。
しかしドアが開いた。
「何やってんだ、お前ら」
そこには血塗れのアキトが居た。
「何やってんだ、お前ら」
俺はグロウとメアを見る。パッと見グロウがメアのパンツを覗こうとしているように見えなくもない。
だが流石にあり得ないだろう。
俺はよくよく観察する。
注目すべきはメアの足。メアが靴裏をグロウに向けて、グロウがその靴裏に顔を近づけている。
なるほど……察しだな。
「聞いてください!! 魔帝陛下!!」
グロウは半泣きでメアの非道を訴えた。
どうやらメアがグロウに例の「便器」発言を傘に脅しているらしい。
「なあ、メア。そう言うのは良くないぞ」
「い、いや違うんですよ。こ、これはですね……」
メアの目が泳ぐ。現在、彼女の脳味噌内部では必死に言い訳を探しているところだろう。
しかしこの状況を切り抜けるのは不可能だと思うぞ。
「陛下。ちょっとメア様は調子に乗り過ぎていると思います。何か罰を与えるべきでは?」
「ちょっと、何を言ってるの!! 罰って……」
「そうだな。お尻ぺんぺんでもしておくか」
まあ、何回が良いだろうか? まあ二十回で良いか。グロウはまだ靴裏を舐めたわけでも無いみたいだし。
そのくらいが相場だろ。
妃の分際で人の部下をイジメた罰だ。その辺はしっかりしないとな。
政治は全て任せるが、一番偉いのは俺で最終決定権を持つのは俺だ。
「おい、グロウ。出ろ」
「はい! 分かりました!!」
グロウはにこやかな笑みを浮かべて、退出する。
さてと……
俺はメアに向き直る。
「グロウは俺の部下だ。手を出すな」
「は、はい……でもあいつ、私にタメ口聞いたんですよ!!」
ふむ、それはそれで問題だな。でもさっきは『メア様』って言ってたしな。一応反省はしているのか。
まあこっちは注意を促しておくだけでいいか。
「じゃあ、尻を出せ」
「ほ、本気でやるんですか! あいつ、絶対聞き耳立ててますよ! 覗いてるかもしれません。良いんですか?」
「俺の体の影で隠れるようにしてやる。声は頑張って我慢するんだな!」
俺はメアの腕を掴み、ベットに押し倒す。
昔、魔術師や帝国第三王女にやって以来だな。
「安心しろ。俺の尻叩きは一定の評価を得ている」
「ど、どういう評価ですかああああ!!!! 痛い、痛いですううう!!!」




