第七話 「アキト様、世界でもっとも美しい芸術品は何だと思いますか?」
「で、まだ続ける?」
「っく、俺の負けだ。殺せ!!」
「またそれかよ」
お前にくっころされても嬉しくないんだよな。聖女がやったらすごく映えると思うけど。
「まあ、仕方が無いか。殺そう。……お前の部下も含めてな」
「え?」
「いや、当たり前だろ。グロウ様の仇~って来られたら困るじゃんか」
グロウが俺の部下に成ってくれるならば、その部下も一緒に部下に出来る。というか、それが一番望ましい。
だがグロウは死にたいと言う。
そうなればグロウの部下はただの不穏分子にしかならない。俺は平和主義者なので、出来るだけ人間は殺さない方針だが、殺さなければいけないときに躊躇するような人間でも無い。
「……それにお前、俺に負けたまま死ぬのか。勝てないまま。歴史にグロウは勇者にコテンパンにやられて負けましたと刻むのか 」
「悲しいです。兄様が負けるなんて。このことは日記にしっかりと刻んでおきますね」
俺に続いてメアが、日記?と思われるモノを手に取りながら言う。
そしてペンを取りだす。
「グロウ・ルシフェル。勇者様ことアキト様にボコボコにされ、何度も負けた上に最後に死ぬ」
すらすらとペンを動かすメア。
俺はチラッとグロウの表情を伺う。
……あともう少しかな。
「筋は良いんだけどな。戦い方を学んだら、もしかしたら……ああ、勿体無い。なあ、メア。お前淫魔族の寿命ってどれくらいだ?」
「我々|淫魔族《サキュバス。インキュバス》には定まった寿命はありません。吸う血液の質によって変わります。要するに、配偶者の寿命しだいですね。兄様は……あと三百年は生きるのでは?」
「三百年か。惜しいな。それだけあれば俺に勝てるかもな。でも仕方が無いか。死にたいんだからな」
俺はそう言って聖剣ちゃんを振り上げる。
グロウの首筋目掛けて振り下ろした。
「ちょっと待ってくれ!!」
グロウが叫んだ。よし、釣れたな。
「……た、戦い方を教えてください」
「ん? でも死ぬんだろ?」
「助けてください!! そして、俺にあなたに勝つチャンスを下さい!!!」
グロウは深々と頭を下げる。
そして俺の目をしっかりと見つめて来た。
うん、悪くない目だな。
「よし、良いだろう。その代り、お前は俺の部下に成れ。お前の部下もそのまま俺の家臣団に引き継ぐ。あとそうだな……お前の魔王領は没収だ。俺がお前を一人前と認めるまで。それで良いか?」
「構いません。あなた様に忠誠を誓います。あなたの騎士として、働かせてください」
「宜しい。グロウ・ルシフェル。お前を俺の部下として認めよう」
俺はグロウの手を掴み、引き上げてやる。
そして後ろの……俺たちの一騎打ちをずっと見守っていたグロウの家臣を見渡す。
彼らは一斉に床に膝をつき、忠誠を示した。
斯くして俺は魔帝直轄地とグロウの魔王領。そして大量の騎士候。
それらを一挙に手に入れたのである。
「やっぱりこの首都の景色は綺麗だな」
俺は魔帝城のバルコニーから、首都ハデースを見下ろす。
大陸中央部は文化の中継地である。文明の十字路であるこのハデースの建築物は独特なデザインをしている。
それが道路や結界塔、城壁と組み合わさり、一つの芸術品と化している。
人々が商品を売り買いし、子供たちが遊び回っている。彼らはこの街の支配者が変わったことに気付いて居ない。
今回は戦闘が城内で、しかも一騎打ちが主体であったため戦火が城下町にまで飛ばなかった。
ちなみにメアの報告によると、死者は奇跡的にゼロらしい。
俺とグロウが一騎打ちしたのが良かったのだろうな。一騎打ちで方が付いてしまえば、下の兵士同士で戦っても意味が無いから。
ほとんどの者は殺し合いよりも、一騎打ちの結果を見届けることを選択したのだ。
こういう死者ゼロ、被害ゼロの戦争がたまにあるのがこの世界の良いところだろうな。
……酷くなると、街が一つ二つ吹き飛ぶのだが。
やっぱり戦争で死ぬ人間は少ないにこしたことはないな。
「ふふ、アキト様が守ってくれたおかげですよ。あの時、あなたがこの街を燃やそうとした連合軍を止めてくれた」
「その話か? あれは芸術品を守りたかったのが大きいぞ。この街は美しいからな。それが血で汚れるなんて勿体ない。……まあ、今思えば俺がこうして国を追い出され、異端認定を受けて追い回された遠因でもあるんだろうな」
しかし、俺が聖女や騎士にストーカーされてたのが昨日の夜とはな。
まさか俺が魔帝になってしまうとは。誰が予想しただろうか?
いや、一人だけ予想できた奴は居るか。
「勇者様。お気づきでしょうが、父が死んだ遠因は私です」
「だろうな。理由を聞かせてくれ。何の理由も無しに父親を殺す奴と同衾なんて怖くて出来ない」
まともな理由を聞かせて貰わないと、こいつのことを信用できない。
また一日しか付き合いはないが……悪い奴ではないと思うんだけどな。
「魔帝が圧政をしていたのはご存じでしょう? 私はそれが我慢できませんでした。私ならもっと上手く出来るのに、もっと効率よく税も集められるのに。あの男は政治を税金を採ることだと思っていたようですが……違うでしょう。政治は、民の生活と国を豊かにするためにあるのです。騎士候の本来の役割は戦火やモンスターから非力な民を守ることです」
「なるほど。よく分かった。で、俺を選んだ理由は? 俺が俗物だってことは知ってたんだろ? どうして俺を選んだ。魔帝よりも手が負えないかもしれないぞ」
実際、俺は人並み以上に欲がある方だ。権力、女、酒、宝石、絵画、綺麗な庭園、彫刻。
欲しいモノは山ほどある。
そんな俺を魔帝などに据えて良いのか?
「あなたは……戦争時一度も略奪をしませんでした。本当に欲だけの男ならば略奪をしたはずです。あなたは戦争中、出来るだけ多くの民を助けたと聞いています。必要も無いのにモンスター討伐もしたことが有るとか。アキト様、この世で一番素晴らしい芸術品は何だと思いますか?」
「人間だ。人間の笑顔だ」
「その解答が出来るからこそ、私はあなたを魔帝として選びました」
そう言ってメアは微笑んだ。
メアの笑顔を夕日が照らす。美しい……
素直にそう思った。これほどの芸術品は世界にそう無いだろうな。
「まあ、付け足すなら素直で馬鹿そうなところですかね? 私の言うことを聞いてくれそうです。中途半端な馬鹿だと余計なことするから嫌いなんですよね。ほら、あれです。馬鹿な怠け者?」
「……お前のことを素晴らしい芸術品だと思った俺が馬鹿だったぜ」
ああ、そうだよ。俺は馬鹿で脳筋だよ。うるせえな!!
馬鹿馬鹿連呼するんじゃねえぞ!!
「まあまあ、怒らないでください。私はアキト様の脳味噌に関しては全く期待していませんが、その力にはとても期待しています。本当に凄かったです。あの兄様をボコボコにしてしまうなんて」
「……お世辞は良いぞ?」
「お世辞じゃありませんよ。本当に、凄いと思ってるんです。こんなに強い人は魔帝以外見たこと有りませんよ」
……やめてくれよ。照れるじゃないか。
「ま、まあ俺は人間最強の勇者だからな!」
「今は魔帝でもありますね。いえ、一か月後ですか。正確に言えば。良いですか、アキト様。即位式に来なかった連中はみんな敵だと思ってください。……グロウ兄様は良い意味でも悪い意味でも単純だから良かったですが、他の魔王はそうはいきません。武闘派も居ますし、戦争に参加していた強力な騎士候や傭兵を雇っている者も居ます」
「了解、了解! なーに、俺に勝てる奴など一人も居ない。任せろ!!」
まあ、聖女や魔術師には相性の差で負ける可能性はあるけどな。
あの二人は魔界に居ないし、魔人種に雇われるわけがない。
「ふふ、旦那様が頼もしいと良いですね」
そう言ってメアは背伸びして来た。
俺はメアを片手で抱き、その唇に自分の唇を押し付けた。
「ひゅー、ひゅー、良いですね! あ、気にせず続けてください。このまま子作りに移行しても構いませんよ!!」
「……」
「……」
俺たちは唇を離した。メアの顔は真っ赤だ。多分俺も真っ赤だ。
夕日で染まったからでは無く、恥かしさで真っ赤になっているのだ。
俺たちは空気を読まない声を出所に揃って顔を向けた。
そこにはメイド服を着た女……メイド長さんが居た。
手には水晶のような物を持っている。
「お仕えして初めて、メア様のキスを見ました。いやあ、心配してたんですよ。このまま処女とファーストキスを拗らせたまま二十歳で死んでしまうのかと。ああ、処女を散らす時は教えて下さいね。しっかりとこの水晶玉で記録します。ああ、楽しみです!!」
……
……
「勇者様」
「ああ分かっている。聖剣ちゃん」
俺は聖剣ちゃんを呼び出した。
「死ねええええ!!!」
「この水晶を騎士候たちに見せるまで死ぬわけにはいかない!!!」
一晩中メイド長さんを追いかけたが、ついぞ捕まらなかった。
流石、祝福『兎耳』を持っているだけある。
……逃げ足早すぎなんだよ。
取り敢えずチュートリアルは終了ということで




