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第六話 「っく、殺せ!!」

 「その必要は無いぜ」

 現れたのは勇者と、何故かお姫様抱っこをされたメア。


 「来ちまったぜ。お前がグロウだな?」

 「そういうお前が勇者か」


 グロウは勇者を眺める。

 背はグロウの方が高いが、その体にはぎっしりと筋肉が詰まっていることが分かる。


 気力も非常に高い。魔力はあまり高くなさそうだ。


 しかし特に目を引くのは勇者が持つ腰の剣。

 あれが噂に聞く神具、聖光剣『救世の光』。聖人種(ヒューマン)の神具。


 尋常ならざる力を秘めているのが分かる。


 しかし……

 

 「そんなに強くなさそうだな」

 「へえ、そう思っちゃう?」


 グロウがそう考えた理由は二つある。


 一つは気力と魔力の量。まず勇者の魔力は碌に無い。弱小騎士候よりもほんの少し高い程度だ。

 気力は桁外れに高いが……十分魔力量で補える。


 二つ目は武器。

 確かに勇者の聖光剣『救世の光』は強そうではあるが、グロウの宝具とそこまで変わらない、いやそれ以下に感じる。


 「やはり魔帝を倒せたのは数の力のようだな」

 「そうだな。そいつは否定しないさ。あいつ、腹壊してたみたいだし」


 それはグロウも初耳である。

 だがそれが事実だとすれば、勇者の実力は想定よりも遥かに下に見積もれる。


 「ああ、そうそう。グロウ君。最初に言っておくか。降伏しない? 君、結構強そうだからさ」

 「はは、斬新だな。そんなに俺が怖いか?」

 「ああ、怖いな。間違えて殺してしまいそうだ。うちは人材不足でさ、出来るだけ生かしてスカウトする方針なのさ」


 グロウの喉から変な笑いが込み上げてきた。


 (下手くそな張ったりだ。何が、「間違えて殺してしまいそうだ」だ。「殺されそうだ」の間違いでは無いか)


 グロウの唇が吊り上がる。

 

 「アキト様。あなたは説得が下手くそすぎですよ。何か、頭の悪い勘違いをしているみたいじゃないですか」

 「そうか? 俺と同様、脳筋そうだからあれで通じると思ったんだけどな」

 「脳筋は脳筋でも、兄様は中途半端な脳筋です。戦争が怖くて領地に引きこもってた臆病者で実戦経験も碌にありませんから。力の上位を計れないんですよね。頭も悪い馬鹿でアホです」

 「メア!!!!」


 グロウは思わず怒鳴った。先ほどから聞いて居れば人のことをやれ『脳筋』だ『臆病者』だ『馬鹿』だ『アホ』だと言ってくる。


 聞き捨てならない。


 「メア。神具を返して貰おうか? それは俺が持つべきものだ」

 「何を言っているんですか。私が今持っているのだから、私の物ですよ。悔しかったから奪え返してみればどうです? 大体、頭が悪いから盗まれたり、簡単に城内に侵入されるんです。どうするんですか? あなたが勝手に結んだ密約。あれのおかげで、聖人種(ヒューマン)の軍隊が魔界に侵入しやすくなったではないですか。私なら領土の割譲無しで首都を押さえられました。相手はさぞや面白かったでしょうね。知恵者ぶる兄様。爆笑です」

 「貴様!!!!」



 グロウは歯ぎしりする。

 格下だと思っていた妹に散々に誹謗され、怒りが収まらない。


 「決めた。その勇者を殺した後、お前の手足を削ぎ落として達磨に加工してやる。誰に売って欲しい? それとも馬や竜の性処理便器にでもしてやろうか!!」


 このユリアス大陸では勝った者が全て。それがルールだ。

 特に魔界はその傾向が強い。

 そう言うことは魔界では広く行われている。


 ……まあ、グロウには妹を辱めるような趣味は無いので、実際にやるかどうかは別である。

 これはそれくらい怒っているぞというメッセージだ。


 しかしメアは怖がるどころか、さらに挑発して来た。


 「キャー、怖いですー。勇者様、どう思います。あの人、妹を達磨にして犯すと言いましたよ? 肉親が性の対象になるとか、無いですよねえ。あれが魔帝に成るとは世も末ですね」

 「別に犯すとは言ってなくね? というか、お前人のことをあそこまでバカバカ言ったらあれぐらい言われるだろ。まあ、俺にさっきの発言には少しばかりドン引きだけど? 性処理便器とか、エロ本の読み過ぎだよな」


 「貴様ら!!!!!!!!」


 グロウは顔を真っ赤にし、地団駄を踏んで怒り狂った。

 そして刀を抜き放ち、勇者(アキト)に斬りかかった。


 ガキン


 金属音が魔帝城に鳴り響く。

 勇者(アキト)の聖剣とグロウの宝具がぶつかり合った音だ。


 「へえ、中々やるじゃん。それで、お前の騎力ってどれくらい?」

 「二十五万だ!!」

 「そいつは凄い!! ちなみに俺は五十三万だ!!!」


 勇者(アキト)の聖剣が光り輝く。

 次の瞬間、グロウは吹き飛んだ。玉座に衝突して、玉座が破壊される。


 「な! き、貴様……」

 「良いか? 神具の力ってのは出来るだけ漏れ出ないようにするのが大切なんだぜ?」


 グロウは息を飲んだ。

 先ほどと比べて、勇者(アキト)の持つ聖剣から感じる威圧が桁外れに上昇している。


 だが上昇は一瞬だけで、すぐに収まっていく。


 「俺くらい聖剣ちゃんと心を通わせていると、力を八割くらい隠せるようになる。君は取り敢えず自分の武器を親しみ込めてちゃん付けで呼ぶことから始めた方が良い」

 「誰がそんな気持ち悪いこと!!」


 グロウがそう叫ぶと、勇者(アキト)は少し顔を引き攣らせた。


 「なあ、メア。気持ち悪い?」

 「ええ、かなり気持ち悪いと思います」

 「えええ……」


 意気消沈したような顔をする勇者(アキト)

 ここでグロウは気付く。勇者(アキト)はメアを抱いたままであるということを。


 手加減された……


 グロウは思わず歯を食いしばる。


 「っく……ふざけるな!!」


 グロウは認められなかった。

 自分は魔帝の息子だ。その魔帝の息子が、いくら相手が勇者(アキト)だからと言ってコケにされたなど認められるわけがない。


 グロウは刀を抜いて、走り出す。


 「死ねえええ!!」

 「君は懲りないなあ」


 勇者(アキト)はそう言いながらメアを地面に置いた。

 どうやらグロウの本気を感じ取ったらしい。


 そして真面目な顔になる。


 「掛かって来い」


 刀と剣が激しくぶつかる。グロウは連続で、相手に呼吸の隙すら与えないように攻撃を叩きこむ。

 双刀は一撃一撃が軽くなってしまうという弱点が有るが、攻撃に休みが無いという大きな利点がある。


 証拠に勇者(アキト)は防戦一方だ。


 「いいか!! 騎力など、技術と相性でいくらでも覆せるのだ!!」

 「はは、その通りだな!」


 勇者(アキト)はニヤニヤと笑いながら、その連撃を受け止め続ける。

 この後に及んでまだグロウをバカにし続けるつもりのようだ。


 グロウは強い怒りを覚えた。だが同時に、作戦が成功しつつあることにほくそ笑む。


 (この宝具は相手の体力や気力、魔力を吸う。お前は少しづつ追い込まれているんだよ!!)


 証拠にグロウの刀にかなりのエネルギーが溜まりつつある。

 全て勇者(アキト)から奪ったエネルギーだ。


 「お前さ、さっき騎力は技術と相性で覆せるって言っただろ?」

 「ああ、それがどうした?」

 「そっくりそのまま返してやるよ」


 勇者(アキト)がそう言った途端、右手に強い衝撃が走った。

 グロウの刀の一刀が弧を描いて床に突き刺さる。


 「え?」

 「馬鹿め。消耗を待ってたのは俺も同じだぞ?」


 続いて左手。

 左手に握っていた刀が足元に落ちる。


 「気力の使い方が実に非効率的だ。刀の扱い方もなっていない。数値上ではお前の実力は俺の二分の一だが……正直、十分の一程度にしか感じれなかったぞ?」

 「……嘘だ」


 床に倒れ込む。

 その時初めて、自分がかなり消耗していることに気付いた。自分はまた負けたのだ。


 「っく、殺せ!!」

 「……お前みたいな男に言われても少しも楽しくないんだけどなあ。なあ、俺の味方に成らない?」

 「誰が貴様の部下になんぞなるか!! 俺は、魔人種(ナイトメア)だ。魔人種(ナイトメア)の国は魔人種(ナイトメア)のモノだ!!」


 勇者(アキト)になど、渡すわけにはいかない。

 そう、自分は負けてはならない!!


 「はは、よく言った!! 動機も実に気に入ったぞ。ところで一つお知らせだ。お前の仲間がここにたどり着いた。全戦力集合だ。それで、集団戦でも行くか? 流石に集団戦になると手加減は出来ないんだけど。お前が望むなら一騎打ちをしてやる」

 「殺さないのか? 今なら俺を簡単に殺せるだろ」


 グロウは刀を拾いながら勇者(カイト)に問うた。 

 すでに交渉は決裂したというのに。


 「ん? まあな。それで、一騎打ちにする?」

 

 グロウは考えを巡らした。そして周囲に集まってきた自分の部下を見回す。みんな心配そうな表情を浮かべている。

 彼らはグロウにとって、とても大切な部下だ。


 もし集団戦をすれば、彼らは全員目の前の化け物(アキト)に殺されてしまうだろう。

 この男にはそれだけの実力がある。

 それは避けたい。


 逆に一騎打ちならば……油断している化け物を倒すことが出来るかもしれない。


 「一騎打ちを所望したい……後、お互い神具と宝具は使わないようにしよう。……俺がさっき負けたのは武器の力の差だ。武器の差が無くなれば俺が勝つ」

 「……はは。あくまで負けを認めないか。良いぞ。制限してやる。お互い、鉄剣だけを使用しようじゃないか」


 勇者(アキト)がそう言うと、メアは何も無い空間から鉄剣を取りだす。

 それを勇者(アキト)とグロウに投げ渡した。



 「良いのか?」

 「勝てるんだろ? 良いぜ。早く来い」


 グロウは舌なめずりした。こいつは油断している。

 今なら……勝てる!!


 「死ねえええ!!!!」


 グロウは鉄剣を振り上げて突撃した。

 気力を両腕に集め、筋力を限界にまで強化。その上でストック法で編んでいた魔術を発動させる。


 「付与(エンチャント)!」


 魔力を剣に集める。剣に炎の属性が加わり、赤く発光する。


 「付与(エンチャント)


 勇者(アキト)も今までストック法で魔術を編んでいたのか、グロウと同様の魔術を使った。

 勇者(アキト)が左手に持つ剣には変化が見られない。加熱の付与(エンチャント)では無いことは確かだ。


 雷か氷か、その辺だろう。



 グロウの鉄剣と勇者(カイト)魔道義手(・・・・)がぶつかり合う。

 

 バキッ


 嫌な音を立てて、鉄剣が砕け散った。


 「ダメだな。普通の鉄剣に熱の付与(エンチャント)を使うのは危険だぜ? 金属は熱の変化に弱いのさ。加熱された鉄剣と、冷却されたアダマンタイト製の義手がぶつかり合ったら砕けるのは当たり前さ」

 「……」


 グロウは砕け散った鉄剣を呆然と見つめる。

 そして勇者(アキト)を睨みつける。


 「そもそも俺は二刀流だ。それに鉄剣とアダマンタイト製の義手では戦力の差が大きすぎる!!」

 「お前、まだ認めないのか。なんか、凄いな。良いよ、そう言うなら付き合ってやるよ。今度は右腕も使わない。さあ、メア。もう一度鉄剣を寄越せ。ああ、フルパワーで構わんぞ。安心してくれ」



 ……その後グロウは五回挑み、五回とも勇者(アキト)に敗北した。

 そして七回目。


 グロウは自らが提案したはずのルールを破り、宝具を使用したが、その上でも勇者(アキト)に負けた。


もうちょっと噛ませっぽくしたかったんだけどな……

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