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第四話 「てへ、忘れてました」

 「ううぇええ。気持ち悪い……」

 「大丈夫ですか?」


 メアが俺の顔を心配そうに覗き込む。俺は微小を浮かべて、立ち上がった。

 気持ちが悪い……

 この時空酔いには馴れそうにないな。


 「で、どこに転移したわけ?」

 「ハデースの下水道の中です」

 「いや、それはおかしいだろ」


 普通、首都には転移(テレポート)で侵入出来ないようにする結界が張られているからである。

 もし簡単に侵入出来たら、テロし放題、やり放題、されたい放題だ。


 「簡単な話です。あらかじめ、出口を用意していたんです。直接つなげることで、結界を無視できます。グロウは私が優れた空間魔術使いであることを知りません。だから油断したんでしょうね」


 俺はそういうメアの足元を見てみる。赤い液体……おそらく血液で描かれた魔術陣が描かれている。

 そう言えばこいつはここで生活してたんだっけ。じゃああらかじめ仕込んでおくことは簡単か。


 「私は魔帝城の防衛設備、結界の性質・位置・解除暗号・死角、抜け穴……全て調べ尽くしています。今生きている人間の中では世界の誰よりも詳しいでしょうね」

 「つまり地の利はこちらにあるということか」

 

 天の時、地の利、人の和……

 戦の三要素の一つだ。


 「では作戦を説明しましょう。今から騎士候三十人には宮殿へ真正面から攻め込んでもらいます。本気で攻める必要はありません。出来るだけこちらに被害が出ないように戦ってください。私と勇者様は下水を通り、丁度宮殿の真下に向かいます。戦力が正面口に集中したところで、天井を破壊して私と勇者様が宮殿に侵入して一気に兄様(グロウ)を討ちます」

 「質問良いか?」


 俺は手を上げる。メアは良いですよと返す。


 「グロウが働き者で正面口に行ったらどうすんだ?」

 「挟み撃ちにします。というか勇者様が宮殿に侵入出来た時点で勝ちは決まってます。部下の騎士候三十人はオマケみたいなものです」


 おい、執事さん、メイド長さん。あんたらオマケ扱いされたぞ。良いのか? 悔しくないのか?


 「事実ですし」

 

 おい、メイド長さん。勝手に人の思考を読むな!!


 「後で勇者様には読心術妨害結界が組まれた首飾りを渡しておきます」

 「おう、よろしく頼むよ」


 あんまり読まれまくるのは好きじゃない。俺にもプライバシーがあるんだよ。


 「では、解散しましょう。私たちが目的地に到着したら念話(テレパシー)で合図を送りますね。解散!!」


 さらっと流したが、念話(テレパシー)って超高度な魔術だぞ……



 

  俺たちは下水を歩く。偶に足元をドブネズミが通る。ちなみに俺がドブネズミを見たのはこの世界に来てからだ。この世界特有なのか、それでも地球も同じなのか分からないがドブネズミという生き物はかなりデカい。


 俺たちの足音と鼠の足音だけが下水に響き渡る。


 「なあ、メア。俺たちってさ、ぶっちゃけ人材不足なんだろ?」


 俺は騎士候たちを思い出しながら言う。

 失礼な話だが、こいつらはあまり強いとは言えない。すでに気力が回復しきった俺ならば五分で殲滅可能だ。


 だが今現在、メアの主力は彼らである。


 「グロウって奴を仲間に出来たらどうだ?」

 「……出来ますかね?」

 「それは会ってから判断しよう」


 俺は全身の血が湧き立つのを感じる。

 やっぱり本気の戦いは楽しいな。ゾクゾクする。


 俺が日本への帰還を拒否した理由の一つはこのゾクゾクが味わえなくなるからだ。


 「アキト様、ここです。今、念話テレパシーで合図を送りました」

 メアがそう言うや否や、爆音が俺の鼓膜を震わせた。

 メアの騎士候たちが真正面へ魔術で攻撃を始めたのだ。すぐさま別の爆音が響く。敵の反撃かな?

 

 数分が経過して、メアはこちらを見た。

 

 「今です。よろしくお願いします」

 「よし任せた。俺は加減できないから、下手したら瓦礫が当たるかもしれん。その辺は自己責任な」


 俺は聖剣ちゃんに気力とイメージを吹き込む。

 聖剣ちゃんこと聖光剣『救世の光』が俺の要望に応える。


 

 発光した聖剣ちゃんを天井に向けて一気に斬り上げた。


 光の奔流が聖剣ちゃんから解き放たれる。

 一瞬、俺の周囲が白く染まり、少し遅れて爆音が響き渡る。


 いってえ! 瓦礫が頭に落ちて来た!!


 砂埃が収まってから上を見ると、見事な穴が開いていた。美しいシャンデリアが見える。

 素晴らしい……


 「さあ、行くぞ!!」


 俺は両足に気力を注ぎ込み、両足の筋力を強化。

 強く地面を蹴る。


 腕を伸ばして、穴の淵を掴む。


 「こんにちは、皆さんお久しぶり。勇者ですよ!!」


 俺は呆然とした表情を浮かべた騎士候たちに挨拶する。当然顔は見たことが無い。

 さあ、死んでくれ。


 俺は騎士候が呆然としているうちに三人を峰打ちで気絶させる。まあ峰打ちでも死ぬことはあるのだが……死んでたら仕方が無い。運が悪かった。

 まずは三人。始末完了。


 「おい、俺は玉座の間を目指す。お前も遅れるな!」

 「了解です、アキト様。大暴れしてきてください!!」


 よし、我が妻(予定)から許可も貰ったことだし早速行きますか。

 この魔帝城は一度来たことがあるから、地理は分かっている。


 「曲者め!! お前は一体っぐあああ」

 「勇者様だ。分かったか、馬鹿野郎」


 俺は飛び出てきた騎士候をぶん殴って気絶させる。かなり吹っ飛んでしまった。もしかしたら死んでるかもしれない。まあ、出来るだけ生かしているだけで、別に不殺を心掛けているわけでは無いから別に死んでも問題は無いけど。


 あれ?ふと思ったけど、俺は魔帝に成るんだよな。じゃあ魔帝と名乗った方が良いのかな?


 「き、貴様は勇者アキトか!! 何故ここに居る!! 貴様は異端として国を追い出されたはずだ!!」

 「俺もビックリだ。こんなことに成るとはね。展開が早いの何のって。まあ、大事なのは俺がここにいて、あんたもここに居るということだ。久しぶりじゃないか、騎士団長さん」


 俺は目の前に出てきた魔人族(ナイトメア)の男に投げかける。

 こいつとは前回の戦争で会ったことがある。かなりの実力者だった。


 骨のある奴に出会えて、俺は舌なめずりした。

 

 「さあ、やり合おうぜ。ああ、降伏するなら許してやるよ。俺は殺さなくて良い人間は殺さない主義なのさ」

 「誰が!! 貴様のような男に降伏するか。降伏するのは貴様の方だ」


 気付くと、俺の周囲を騎士候が囲んでいた。騎士団長合わせて四人か。

 少し無駄話が過ぎたかもしれないな。


 「仕方が無いな。お前さんクラスに成ると手加減が難しいから、殺しちまうかもしれない。あー、参考までに聞いて良いか? あんたの騎力はいくつだっけ?」

 「……四万三千だ。それがどうした?」

 「そいつは凄いな」


 騎力というのは戦闘能力を表す数値である。筋力、気力、魔力、武器の総合値で割り出される。       

 基本的に騎力一~五がフル装備で固めた一般人兵士だ。

 下っ端騎士候の騎力は百前後だ。つまりこの世界での戦闘要員の最低値が百前後。


 それを考えると四万三千はかなり高い。

 まあ、この騎力っていう数値は当てに成らないんだけどね。実際、俺よりも騎力で劣る魔術師(伊達メガネ)聖女(狂戦士)と俺が戦えば相性の悪さで二人が勝つ。

 相性、地形、本人の気合いで勝敗は揺れ動く。


 というか相性の悪さや弱点を補うために集団戦をやるのだが。


 「じゃあ俺も教えてやる。俺の騎力は五十三万だ」


 ちなみに、魔帝の数値は百五十万前後だった。もしかしたら二百万を超えていたかもしれない。


 俺の方針は基本的に敵は殺すだ。許しても必ず敵になって帰ってくるのだから、殺してしまう方が無難である。

 だが我々は非常に人材不足。出来れば彼らを仲間に引き込みたい。


 そのために出来るだけ殺さない。今回はね。まあ、ケース・バイ・ケースだけど。



 「さあ、掛かってきな」

 

 俺は聖剣ちゃんを仕舞って、身構える。

 聖剣ちゃんを振り回していると、誤って殺してしまいそうだからだ。なに、俺には魔道義手がある。


 危なくなったら即座に抜けばいい。



 「死ね!! 勇者!! 魔帝陛下の仇!!」


 一斉に騎士候たちが俺に向かって剣を振り上げる。

 良い剣だ。そして腕も悪くない。当たったら、真っ二つに成るだろうな。……つまり当たらなければどうということは無い。


 ガキン


 金属音が響く。

 俺が魔道義手で敵の剣を掴んだ音だ。空かさず剣を奪い取り、首筋に手刀を入れて沈ませる。

 だが間髪入れずに三人の剣が俺を襲う。


 開いていた左手を彼ら三人に向ける。


 「火壁(ファイヤー・ウォール)


 あらかじめ準備していた魔術を発動させる。

 俺は魔術は得意じゃない。魔力も少ないしな。だから一つの魔術を扱うのに、最短でも十秒の時間が必要になる。


 だからあらかじめ何を使うのか考えて置き、いつでも発動できるように魔術を完成させておかなければならない。

 ちなみにこれはストック法と呼ばれるメジャーな戦闘技術の一つだ。


 ストック法で用意できる魔術は一つだし、ストックしている間は常に魔力を食うので魔術を主な攻撃手段とする魔術師はこのストック法を用いることは少ない。


 

 俺の魔術で二人の騎士候が怯む。だけど……流石だな。

 愛しの騎士団長は怯んだ様子はない。俺の魔術が威力のほとんど無い、こけおどしであることを見抜いたようだ。


 しかし、一人ならば十分に対応できる。

 俺は後ろ蹴りを思いっきり喰らわしてやる。騎士団長はその蹴りを避けずに、剣の刃で受け止めるが……


 それは下策だぞ。何しろ俺の靴底には世界最高強度を誇る金属、アダマンタイトが仕込んであるからな。


 バキッ


 心地の良い音が俺の足に伝わる。

 騎士団長の剣にヒビが入った音だ。


 「騎士団長!!」


 遅れて騎士候が火壁(ファイヤー・ウォール)を無視して俺に突進してくる。こけおどしだと気付くのが遅すぎる。


 十分対応可能だ。


 俺は一方を魔道義手で殴りつける。この魔道義手も靴底と同様にアダマンタイト製だから、相手の剣も同時に破壊できる。

 そしてもう一方は……厳しいな。


 「聖剣ちゃん!!」


 俺が叫ぶと、俺の腰にあった聖剣ちゃんが俺の左腕に出現する。

 聖剣ちゃんは俺の求めに応じて、瞬時に瞬間移動出来るのだ。


 俺は聖剣ちゃんの腹で騎士候を殴りつける。

 吹き飛ぶ騎士候。


 さて、最後は騎士団長一人。


 「クソ、手加減されて負けるとは……」

 「悪いな。もう少し精進してから挑み直せ」


 俺は魔道義手で騎士団長の男前の顔を殴りつける。

 うん、この音は鼻の骨が折れた音だな。



 「アキト様!!」

 「お、メアか。ようやく追いついたのか」


 俺が振り返ると、メアが微笑む。

 額に汗が浮き出ているのが分かる。頑張って走ってきたみたいだ。


 俺は数歩で百メートルは進めるからな。一般人よりも少し身体能力が高い程度のメアには追いつくので精一杯だったのだろう。


 「早すぎます!! どんな身体構造してるんですか? 戦いながらここまで来たんですよね?」

 「まあ、そうだな。でも戦いは基本的に一人当たり三秒くらいだぞ?」


 騎士団長たちとの戦いも含めて計算するとそうなる。

 ちなみに騎士団長たちを含めないと、一人あたり一秒も無い。


 「というか、転移を使えばいいじゃん」

 「魔帝城内には強力な抗転移(アンチ・テレポート)魔術が掛かっています。知っているでしょ」


 ……いや、無かったぞ。


 「ああ、そう言えばあの時は解除しておいたんでしたっけ。てへ、忘れてました」

 舌をちょろっと出すメア。

 こいつ、さらっと重大なことを言ったな。やはり魔帝殺害の間接的な犯人は貴様か。


 ……直接殺した俺が言うのも何だけどな。


 「それで倒せますか?」

 「ま、その辺はグロウとかいう魔王の実力しだいさ。早く玉座の間に行こうぜ」


 俺はメアをお姫様抱っこで抱きかかえる。

 メアは顔を真っ赤にして、テンパったような声を上げた。


 「な、ど、どうしたんですか!!」

 「ん? 俺の知り合いの女は大体これをやると喜ぶんだけど。ダメだった?」

 「……いえ、このままでお願いします」


 やはりこいつもお姫様抱っこが好きらしい。

 女とは分からんな。俺ならこんなに安定感のなさそうな抱かれ方はされたくない。


 おんぶが最強ではないか。


「俺の騎力は五十三万だ」

戦闘力の数値化をした理由の三割はこのネタのためです


今日は最後

後は一日一話で行く予定です

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