第十九話 「俺は友達少ないし……」
「はあああああ!!!」
「死ねえええええ!!!」
右からグロウが、左からルクスが斬りかかってきた。グロウの武器は二本の刀で、ルクスの武器は短槍だ。
しかしいくら気合いを入れるためとは言え、「死ね」は流石に酷くないだろうか、ルクス君。
まあルクスからすればこの一刀で俺が死んでくれれば父親の仇も討てて万歳なんだろうけどね。
当然、この程度は大したことは無い。
俺は両手の鉄剣二本を振るう。
二刀流だ。
二人の剣術の流派や、癖は完璧に把握している。
目を瞑ってでも避けれる自信がある。
俺は二人を軽々といなして、剣を弾き飛ばした。
グロウの二刀流の技はほとんど吸収した。今はそれを自分流にアレンジしているのだ。
俺の剣術は老騎士から教えて貰った剣術を軸にした、我流だ。
正確に言えば、複数の剣術や槍術、格闘術の技術を敵から学びそれを自分の戦術に組み込んでいるわけだ。
俺は人の真似が得意なのだ。
周りの人間には規格外過ぎると尊敬? というか化け物扱いされるが、俺からするとそこまで難しいことではない。
まあ人間、得意不得意がある。俺は戦闘能力に関して言えば特化している。
それだけのこと。
メアのように料理も政治も出来ない。
「お前ら、分かり安すぎだと何回言えば分かるんだ。すぐにフェイントに掛かるし、お前らのフェイントはバレバレだ。もう少し創意工夫をしろよ」
「そうは言ってもですね……」
「頭で分かってても体が……」
二人が口を揃えて文句をいった。
頭で分かっていても体が動かない。
スポーツでも同様だが、体を動かす技術にはよくあることだ。
二人は長年の癖を抜けきれないでいる。まあ、この二人がまともになるまでにはあと最低でも一年は掛かるだろうな。
「俺の教え方がもう少し上手ければ良いんだけどな。生憎、俺は人に説明するのが得意じゃない。……まあ、お前らは理解はしているみたいだからあまり変わらないかもしれないけどな」」
俺は頭を掻いた。
正直、物足りない。
この二人にはもっと強くなって貰わないと、俺が楽しめない……じゃなかった、訓練に成らないんだよね。
誰か強い奴居ないだろうか。
俺がそう思っていた時だった。
「アキト様! 今戻りました」
メアが帰って来た。
急いで俺の元に走ってくる。
「おう、ご苦労さん。それでどうなった?」
「無事に休戦協定を結べました。三か月はお互い、戦争をしないことを誓いましたよ。悪魔を仲介にして」
数週間前、俺は魔帝として正式に即位した。
しかし即位式には他の三人の魔王……ギベル、スパルトス、メディアはやって来なかった。
要するに俺を魔帝として認めていないというわけだ。
しかし三人は俺のところに攻め込んでくることは無かった。
俺の力が怖かっただろう。何しろ俺は魔王の中では最強の実力を持つであろうデルフを討ち取ったのだから。
三人掛かりなら勝機はあるが、それでも二人は死ぬ。というか、殺して見せる。
故に魔王は俺に手を出せなかった。
逆に俺も三人に手を出せない。
未だ俺に従う騎士候が少ないからだ。
デルフのように少数精鋭同士のぶつかり合いならば、俺の腕力で覆せる。
しかし騎力が百程度の下っ端騎士候までも動員した集団戦になれば俺の優位は崩れる。
一方、魔王三人は共同で俺に当たれば数で俺を上回れる。
要するに両者共決めて無し。攻めた方が負ける拮抗状態になったのだ。
よって休戦協定が結ばれた。
中立派……ようするに日和を決めて、俺と魔王の両方に忠誠を誓っている騎士候に仲介して貰って、交渉したのだ。
ちなみに交渉をしたのでメアだ。俺は初日に顔を見せたに過ぎない。
もっとも、他の魔王たちも顔を出したのは俺と同様に初日だけで他は全て部下に丸投げしてたようだ。
と、まあそんなこんなで交渉はまとまり、三か月の休戦が結ばれた。
念いは念を入れて、四者とも悪魔契約魔法を使って悪魔を証人に挟んだ。
これで俺もあちらも三か月は戦争出来ない。
この三か月が勝負になる。
俺は敵の物量に対抗するために騎士候の信用を勝ち得なければならないし、敵は俺に対抗するための物量を用意しなければならない。
つまり、三か月は騎士候の奪い合いだ。
俺が守りで敵が攻め。
俺には門違いだ。
「それでメア。これからどうする?」
「調略を続けます。アキト様もボランティアでモンスター退治をしておいてください。騎士候の信用を勝ち取らないと……それに加えて新たな戦力の補充が必要です」
「新たな戦力?」
騎士候とは違う戦力……ということだろうか。
傭兵でも雇うのか?
この世界の傭兵は成人して家を追い出された騎士候の三男とか四男だから、親の戦闘能力を継いでいて非常に強力だ。
しかし金が掛かるし、すぐ逃げる。特に俺のような強力な騎士候とぶつかると。
よってあまり好まれない。
ちなみにモンスターを相手にする専門の傭兵を冒険者と呼ぶ。まあ、カッコつけているだけで実態は傭兵と変わらない。
冒険者→傭兵→盗賊→冒険者という転職はこの世界での王道パターンだ。
「傭兵なんて絶対嫌です。前の戦争時で双方が雇った傭兵がまだ盗賊として暴れているのに……私は傭兵は雇わないと決めましたから。まあ、実力の高い傭兵ならば別ですけどね」
「じゃあ何なんだ? お前の言う戦力ってのは」
「騎力十万超えの騎士候です。今はアキトさま五十三万、兄様二十五万、ルクスさん十二万の三人しか居ません。一方、ギベル、スパルトス、メディアは左から順に三十三万、三十八万、三十六万です。また三人は他にも実力の高い騎士候を抱えています」
要するに、俺だけがずば抜けて強いだけで我々魔帝サイドの戦力は貧弱なのだ。
全く、何でこんなに騎士候が少ないんだ。
「それはアキト様たちが殺したからです」
「なるほど。そう言えばそうだった」
魔帝配下の主戦派騎士候……十万超えの連中は全員俺たちが討ち取っちゃったんだっけ。
これは参ったな。
「そこでアキト様の知り合いを頼みたいのです。誰かいませんか? 引き抜けそうな人」
「誰かと言ってもな。俺は友達少ないし、結局騎士候たちも伝来の土地を捨てたがらないだろうしな。まあ、俺の知り合いの十万超えと言えば……」
元特殊遊撃騎士団のメンバ―。
リリアナ・モンテッソーリ騎力四十三万。
セレナ・ヨゼフ・フォン・ツォレル騎力四十二万。
ハンス・ウィリアム・ド・リューエル騎力四十八万。
フィリップ・ド・シャンパーニュ・カペー四十万。
この辺だろうか?
少なくとも俺はこの辺りしか親しい奴が居ない。みんな俺を避けるんだよね。戦闘狂怖い!!ってさ。本当に酷いよ。
まず聖女は論外である。
あいつは滅茶苦茶真面目だからな。仕事と私事を完璧に分けるタイプだ。実際、俺を割と本気で殺しに来たし。
「ああ、残念です。あなたのことは殺したくない。しかしこれが職務です。願わくば、あなたが逃げきれますように」
とか言って鎚矛をぶん回しながら突撃して来たからな。俺が今会ったらメンチにされる。
同様の理由で老騎士も除外される。あいつの体は九十九%、騎士道で構築されているからだ。主人を裏切ったり、主人の命に逆らうなどあり得ない。例え主人が如何に暗君だとしても。
王国国王に至っては大爆笑されるだろうな。というか、一国の国王を勧誘など常識的に考えて出来ない。まあ同盟なら出来るだろうけど、わざわざここまで出張してはくれないだろう。
あいつも忙しいのだ。
となると消去法で魔術師になる。あいつは魔術の研究さえ出来れば国なんぞどうでも良いという、人間としてアレな奴だ。
だから俺が倍の研究費を出してやると言えば来るかもしれない。かもしれないというのは、結局あいつにも生まれ育った国があり、その国を簡単に出ていくかどうか疑問だからだ。
それにあいつの住んでいる国である共和国の盟主、都市国家のベルディアスは教国に近い。
そもそも共和国は教国に介入しようとする神聖帝国を阻止するために、教皇が都市国家に呼びかけて出来た国。
つまり教皇とも縁が深い。だから少々危険だ。
……そう言えばリリアナは大丈夫だろうか?
俺を泊めてしまったが……あの後巻き込まれてないよな? あいつは大丈夫、大丈夫と言ってたが……心配だ。
そう言えば俺の義手も壊れてしまっている。
魔界の魔道義手も悪くはないが、やはりリリアナの魔道義手には遠く及ばない。
よし、決めた。
ダメ元でリリアナを勧誘しに行こう。
俺はメアにリリアナのことを話した。
「リリアナ様ですか。あのお方も優秀な騎士候であったと聞いています。私としては反対はありません」
メアは賛成を示した。
「俺も無い。というか、リリアナ殿の魔道義手が欲しい」
グロウは義手を振り回しながら言う。生の手よりも器用と評判の魔道義手が欲しいのだ。
「僕は特に……良いんじゃないですか?」
ルクスも賛同を示した。
「よし、良いだろう。善は急げ。早くリリアナの所在について調べた後、密かに聖人種の領域に侵入。共和国に密入国してリリアナを勧誘する!! 決行は一週間後!」
「「「おー!!」」」
ちなみに俺たちがリリアナの投獄を知ったのは、その三日後である。




