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第十八話 「必ず、戻って君を助けるから……」

 勇者アキトが魔帝に即位した。

 この知らせは世界中を駆け巡った。





教国


 「おのれ、おのれ、おのれ!!!!! 勇者め!! よりにもよって魔帝に即位? ふざけるな!! 奴の所為で私の面子は丸つぶれだ!!」


 教皇はそう言って怒鳴り散らす。

 カロン枢機卿がそれを諌める。


 「まあまあ、そう御怒りに成らないでください。これで奴が真に異端であるか疑問視する声も無くなるではありませんか」


 勇者は英雄である。その英雄を異端者として火炙りに掛けるという教皇の命令には疑問視する神官や騎士候も大勢居たのだ。

 今回の事件はそういう声を一気に抑えることが出来るチャンスでもある。


 ちなみに教皇が掛けたアキトへの冤罪は『同性愛』、『軍資金の横領』、『魔人種(ナイトメア)からの賄賂』、『神聖帝国皇位簒奪の疑い』等である。


 「っち、そもそも神聖帝国の皇帝が奴を異端者にするように要請したのがことの発端だ。奴の所為で……」


 アキトは一応神聖帝国、通称帝国の騎士候という扱いになっていた。

 勇者召喚魔術に必要な魔力を確保する手段を持つのが帝国の皇室だけだからである。


 また、聖光剣『救世の光』も帝国の国宝だ。

 

 アキトは元の世界への帰還を拒否した。拒否した相手を強引に送り返すわけにもいかない。

 さりとてこの強力過ぎる騎士候を側に置くのは危険すぎる。


 まあそれでも英雄であるため、帝国は暫くの間アキトを丁重に扱っていたのだ。

 

 しかし帝国とアキトの仲が決定的になる事件が勃発した。


 帝国の皇帝は自身の権威を知らしめるために、そして戦争への戦勝記念のために教皇と共同で巨大な大聖堂の造営をしようとしたのだ。

 その巨額の建設費用は当然税金であり、元々財政は火の車であった帝国は重税を課したのだ。

 当然皺寄せは平民に向き、多くの平民が生活に喘ぐことになった。


 さらに多くの騎士候たちが反発した。まあ騎士候たちが反発したのは、皇帝が貴族である自分たちにも税を課そうとしたからであるが……


 その反対運動の中心になったのが勇者アキトだったというわけだ。


 アキトは「戦争が終わったばかりで復興が必要な今、平民に重税を掛けるなんて皇帝と教皇は馬鹿だ(原文はもっと過激)」と発言した。


 予てから教皇もアキトのことを目障りに思っていた。何故ならアキトは異教徒だからだ。

 異教徒に頼らなければ勝てなかったなど、知れ渡ったら教会の権威は失墜する。


 こうして教皇と皇帝の利害が一致して、アキトの追放が確定したのである。


 要するに悪いのは教皇も同じなのだが、教皇はそのことをまるまる無視して皇帝を非難した。



 「あああ!! 大体、聖女の奴が仕留め損ねたのが悪いではないか!!」

 「全く、無能な奴です。あのような女は教皇になるべきではないと思います」


 カロン枢機卿は教皇に賛同の立場を採った。

 聖女は現在、次代教皇の最大候補者なのだ。


 教皇の年齢は六十。まだまだ元気で死ぬ気配は無いが、裏では熾烈な後継者争いが続いているのだ。


 「ところで聖下。実は良いモノを仕入れました」

 「ほう? 何かな」

 

 カロン枢機卿は教皇の耳元に口を近づけて囁く


 「長耳族(エルフ)です」

 「ほう……」


 大陸北西部では奴隷は固く禁じられている。

 何故なら聖書に奴隷は禁じると書かれているからである。


 だが強引な解釈によっては、『メシア教徒の奴隷は禁じる』とすることも出来なくない。

 だから裏では異教徒の奴隷が広く流通しているのだ。


 「私の屋敷の地下に入れておきました。今度、是非来てください」

 「カロン君、流石私の右腕だ。次の教皇は君だ。他の者たちにも口添えをしておこう」


 教皇は卑げた笑みを浮かべた。





 そんな教皇の部屋のドアに依りかかり、会話を盗み聞きしている男が居た。

 彼の両脇には見張りの兵士がいるが、何故か男に気付く様子はない。


 「ひひ、教会の腐敗ここに極まり……だねえ。全く、これだから人間は嫌いだよ。人間は……聖人種(ヒューマン)魔人種(ナイトメア)妖精種(フェアリー)獣人種(ワービースト)鬼人種(オーガ)も全て滅びれば良いのにねえ……」


 男はそう言い残し、その場を去った。


 この男の名前をレオンと言う。

 聖女やカロンに並ぶ次代の教皇候補の一人である。







 王国の宮殿、国王の自室。



 「くくくくく……ははははは!!! 勇者が魔帝に成ったってよ!! 笑える、笑えるぜ!! ああ、腹が痛い、腹が……ひ、ひひひ」


 大爆笑している男が居た。


 ここは王国国王の自室である。つまりここに居る男は王国国王であり、つまるところ爆笑しているのは王国国王その人であった。


 彼の名をフィリップ・ド・シャンパーニュ・カペーという。

 国王でありながら元特殊遊撃騎士団(勇者パーティー)の一員として戦った。


 魔帝を討ちとった五人の英雄の一人である。



 「良かったな、セレナ。お前さんの愛する男はピンピンしているようだぞ?」

 「……そうですか」


 『セレナ』と呼ばれた女は興味なさそうに……だが少しだけ口元に笑みを浮かべて答えた。


 彼女の名はセレナ・ヨゼフ・フォン・ツォレル。


 メシア教会枢機卿。クレアス修道会出身。異端者を狩る『第一執行部隊隊長』。聖書中心主義の最大派閥『セレナ派』のリーダーであり、ケリア大司教区の大司教も兼任する。神聖帝国の七選帝侯の一人。


 元特殊遊撃騎士団(勇者パーティー)の一員。通称『聖女』。


 「教皇も嫌なことをする。お前さんに勇者の追撃任務を言い渡すとはね。まあ、お前は第一執行部隊の隊長なんだから、全くおかしくない。むしろ適任だから文句は誰も言えない。お前が勇者を庇ったら、何かと邪魔なお前を異端者として葬れる。お前が勇者を殺したらそれはそれで良し。どっちに転んでも教皇には得しか無いわけだ。くくく、まあ唯一の誤差は勇者の逃げ足の速さだろうねえ……」


 フィリップは愉快そうに笑った。

 

 そしてセレナに言う。


 「しかしお前、元仲間だろ? 加減したり、見逃したりしてやれよ。俺なんか勇者に食糧の支援と逃走経路を教えたぜ?」


 「これが私の職務です。奴は腐っても教皇。枢機卿である私が教皇に逆らうわけにはいきません。(ルール)は絶対です。それが私の目指す本来の正しいメシア教の在り方。日頃から教会の堕落を非難している私が彼を庇うわけにはいきません。例え彼が冤罪でも、一先ず捕える必要がありました。当然、私は彼の無実を訴えるつもりでしたよ」


 「ははは、笑える。そんな訴え、無視されるのは分かってんだろう? まあ、お前らしいと言えばお前らしいけどな。お前が仕事よりも男を優先するわけないよな。それに、教皇を目指すお前が異教徒を庇うのは問題だ」


 フィリップはセレナの方を叩こうとして、セレナに叩かれる。 

 セレナはフィリップを睨みつけて言う。


 「私がしたことが人情に反しているのはよく分かっています。しかしそれをあなたに非難される筋合いは無い」

 「ほう? どういうことかな?」

 「あなたは勇者の逃走経路を教皇に横流ししたでしょう」


 フィリップがニヤリと笑う。

 ソファーに座り、大仰に身振り手振りを交えながらフィリップは説明する。


 「俺だって感情を優先して勇者を匿いたかったんだぜ? 俺、あいつしか友達いないからさあ。俺直属の騎士にでもしてやりたかったさ。でも異端を喰らってるんだぜ? 出来るわけねえだろうがよお。俺は勇者を助けるためにあいつに食糧と安全な逃走経路を教えた。同時に教皇に睨まれないように、教皇に勇者の逃走経路を教えた。一部嘘を込めてね」


 フィリップはソファーの下からワインボトルを取りだして、グラスに注いで呷る。


 「大陸北西部に於いてもっとも敵対してはならない相手は教皇庁だ。お前だって、叙任権闘争で敗れて教皇に許して貰うために雪の降る中半日待たされた神聖皇帝や、国土を寄進して教皇の封建臣下になることでようやく許してもらった皇国国皇の逸話は知ってるだろ? 今の教皇は聖職者としてはクソだが、政治家としては一流だからな。いや、陰謀家の方が正しいか?」


 「それについては問題ありません。私があなたを非難しているのは、勇者に味方面をした上で彼を裏切ったことです」


 「はは、確かに最初から殺しに行ったお前より俺の方が立ち悪いかもな。でもさ、勇者も酷いんだぜ? あいつ、俺の教えた逃走経路を素直に通らなかったのさ。俺が教皇に告げ口することが分かってたんだろうね。まあ、俺も勇者が疑うことを前提に教えたわけだが」


 「嫌な友情ですね」


 「俺たちはお互いのことをよく分かってるのさ。心が通じ合っているとも言えるね」


 フィリップは肩を竦めた。

 友情の形は人それぞれである。


 「それで私を呼んだ理由は何ですか?」

 「俺はお前さんに次の教皇に成って貰いたい。……いや、成らしてやるよ」


 フィリップはセレナに手を伸ばす。

 セレナはその手を抓りあげた。


 「痛い、痛い!!」

 「結構です。そもそも教皇は枢機卿による選挙(コンクラーベ)で選ばれます! あなたのような世俗権力が入りこむ余地はありません。よくもまあ、私に向かってそんな提案が出来ますね?」

 「はは、お前ならそう言うと思ったぜ。はあ、今の教皇はその世俗の塊だけどな」


 フィリップは手を擦りながら、再びソファーに腰を下ろす。

 そして別のワイングラスを取りだして酒を注ぎ、セレナに渡した。

 

 「飲むか?」

 「貰います」


 セレナはワインを一気飲みする。かなり良い飲みっぷりだ。


 「聖職者が酒飲んで良いの?」

 「聖書にはワインは神の血であると書いてあります。何か不都合が有りますか?」

 「無いな」


 いつの間にかセレナはフィリップからワインボトルを取り上げて、一人で勝手に飲んでいた。 

 みるみるうちに減っていく。


 「あーあ、折角俺がお前をド田舎の修道院から連れてきてやったのに。感謝の念は無いのか?」

 「私の視点からすると、あなたに頼まれたから出てきて上げたのです。私は今すぐクレアス修道院に戻って、畑を耕して神に祈るだけの生活に戻っていいんですよ」


 そう言って空に成ったボトルをフィリップに投げ渡す。

 ごちそうさまでしたと言い残し、セレナはドアに向かう。


 「帰るのか?」

 「まだ何か?」

 「リリアナが捕まったことでも話そうと思ったんだけど」


 セレナの眉が跳ね上がった。

 フィリップが意外そうに首を傾げる。


 「初耳か?」

 「ええ、知りませんでした。詳しく」

 「別に大したことじゃないさ。リリアナの奴、勇者を自分の家で一週間も匿っただろ? それが切っ掛け。で、いろいろ取り調べを受けて研究費の横領が発覚したのよ。本当か知らないぜ? あいつは結構嫉妬を受けてるからな。冤罪かもしれない。と、まあそんなこんなであいつは火炙りに掛けられるそうだ。まあ勇者を匿ったが主な罪で、研究費横領はオマケだな」


 フィリップは馬鹿だ馬鹿だと肩を竦める。

 あきれ果てた表情だ。


 「意外です。彼女は勇者と魔術では魔術を選ぶ人でしょう。どうして……」

 「馬鹿だからだろ。あいつ、頭は良いけど政治はちんぷんかんぷんだったじゃん。そもそもあいつは解剖学に手を出してた。元々教皇庁に目を付けられてたのに、そんな目立つことしたらそりゃ火炙りになるわな。全く……多分目を付けられていたことにすら気付いてなかったんだろうな。あのアホメガネ」


 フィリップは手を目に当てて、大げさに表現する。

 セレナは表情を変えずに問いかける。

 

 「どうします?」

 「どうもこうもねえだろ。教皇庁の決定には逆らえんよ。研究費についても共和国の内政問題だ。まああいつが俺の女だったら軍を率いて助けに……ということも無くは無い。が、俺はあんな頭のおかしい女のために母国を危険に晒さん。俺にとってもっとも大切なのはこの国だ」


 自己責任。

 フィリップはそう断じて、仕方が無いと言った。


 「仕方が無いですね。今から共和国に行ってきます」

 「お、助けるのか?」

 「まあ、無罪を訴えて見せますよ。無理でも火炙りを絞首刑に変えて見せます。……火炙りは重すぎです」


 メシア教徒がもっとも恐れる刑罰が火炙りだ。

 なぜなら炎は魂も燃やしてしまうと信じられているからである。


 魂が燃えるということは永遠の消滅を意味する。

 死後に救世主(メシア)が治める神の国に行けなくなってしまう。


 故に火炙りは極刑なのだ。


 また、火炙りは見た目に反して中々死に辛い死刑。 

 純粋に肉体的苦痛が大きいのだ。


 「そうかい。まあ、頑張って来い」

 「ええ、出来うるだけの最善を尽くしますよ」







 共和国の地下牢。


 「ちょっと待ってくれえ!!! 許して!! 僕が悪かったから……火炙りは、火炙りは許してええ!!! 助けて!!」

 「うるさい!! 静かにしろ!!」


 兵士の怒号が響く。

 叫んでいたのは青色の髪の女だ。見た目は二十代前半ほど。

 

 妖精のようにしなやかに伸びた長い手足が美しい。

 赤色のメガネが青色の髪に良く似合っていた。


 美しいからこそ、彼女の首や手足に付けられた抗魔力、抗気力の枷が良く目立つ。 

 とても痛々しい。


 彼女の名前をリリアナ・モンテッソーリ。聖人種(ヒューマン)……いや、世界最高峰の魔術師にして共和国最強の騎士候である。


 「くそ……妙に執政官が親し気だと思ったんだ。いつもは嫌味を飛ばしてくるのに……うう、いくら美味しそうだからって睡眠薬入りケーキに釣られるとは……」


 ちなみにリリアナが摂取した睡眠薬の量は、常人ならば千人は殺せるほどの量だ。

 それでも一時間しか眠らなかったリリアナは普通に化け物である。


 「ああ、もう……まだまだ研究しなければいけないことが多いのに……。うう、どうすれば良いんだあああああ!!!」

 「静かにしろ!!!」


 リリアナは叫んだ。

 兵士は再び怒鳴った。





 

 皇国の大陸領土。


 「アキトが魔帝に……良かった、生きてたか」


 ハンスは呟いた。

 ハンスの部下が問う。


 「そんなに殺すのが嫌なのですか? 異端者なのに?」

 「当たり前だ。私の一番弟子だぞ……まあ、戦ったら死ぬのは私だけどな。殺すのが嫌ではない。殺されのが怖いのさ。まあ、魔人種(ナイトメア)は疲弊している。戦争も起こらん。アキトが復讐に来るよりも私の寿命が尽きる方が早い。良かった、良かった」


 ハンスは……現状に於いて聖人種(ヒューマン)最強の老騎士は嬉しそうに笑った。






 神聖帝国の宮殿。塔の中。


 

 そこには一つの部屋があった。

 いや、部屋というよりも牢獄が正しいかもしれない。


 ベットと机と椅子しかない。

 食事は一日に三回、見張りの兵士が持ってくる。

 排泄物も壺に入れて、一日に三回処理される。


 本などは頼めば兵士が持ってきてくれるので、生活する分には困ることは無い。

 

 この部屋の住民は少女だ。

 少女の髪は小麦畑が夕日に照ったような、美しい金色。


 瞳は最高級の翡翠の宝石をはめ込んだように美しい。

 そしてよく見ると耳が尖がっているのが分かる。


 長耳族(エルフ)にしては短いその耳から、彼女が混血長耳族(ハーフエルフ)であることが分かる。


 「姫様」

 「何?」


 女騎士がドア越しに声を投げかけた。

 この部屋には誰であろうと、出入りすることが皇帝の命で禁じられているのだ。

 

 ドアの下には小さな窓が有るので、物のやり取りはそこでする。


 「勇者様は無事の用です」

 「本当! 良かった!!」


 少女は嬉しそうに声を上げた。  

 カナリアのように美しい声だ。それが逆に籠の中の鳥を連想して痛々しい。


 「……どうやら魔界に行って魔帝に成ったようですよ」

 「魔帝に? ふふ、アキトらしいな」


 少女は楽しそうに笑った。


 少女は……アキトが初めて恋心を抱いた相手は窓の外を見ながら、思い人(アキト)の言葉を思い出す。


 「必ず、戻って君を助けるから……か。早くしてね。私、あと何年持つか分からないから……」


 少女は……帝国第三王女、エリカ・ホーエンシュタウフェンは希望と絶望の入り混じった声で呟いた。


一先ず一区切りが尽きました

ちなみに各国のモデルですが……


教国……ピピンが寄進したところ

共和国……ロンなんちゃら同盟

神聖帝国(通称帝国、または神聖国)……神聖でもローマでも帝国でも無い国

王国……花の都があるところ

皇国……メシマズ


になります。


勇者パーティーはここで登場した聖女(セレナ)王国国王(フィリップ)魔術師(リリアナ)老騎士(ハンス)で全員です。彼らは全員騎力四十万超えで、各国の最高戦力です。


強さは老騎士≧魔術師≧聖女≧王国国王となります


勇者が彼らと戦った場合、老騎士との戦いはすぐに勇者の勝利が確定します。王国国王は粘りますが、やはり勇者が勝ちます。

聖女には基本勇者が勝ちますが、特定の地形次第では聖女が勝ちます。

魔術師と勇者は決定的に相性が悪いので、よほどのことが無い限りは魔術師が勝ちます。

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