第十七話 「俺を殺したいなら結構!」
「おお、よく似合っているぞ。メア」
俺は美しいドレスを着たメアを褒めちぎった。
ドレスの色は紫色。髪には蝶の髪留め。
よく似合っている。
「アキト様も似合ってますよ」
「お世辞はやめてくれ」
俺は魔人種の礼服を身に包んでいるが……お世辞にも似合っているとは言えない。
なんかヤクザみたいだ。俺の目付きが悪い所為だな。
仕方が無い。
親から貰ってしまった顔だ。受け入れよう。
はあ……
「私は好きですよ。その悪い目付き」
「煽ってるのか、褒めてるのか、慰めてるのか判別しずらいなあ……」
俺は苦笑した。
まあ、良いけどね。メアが良いなら良いさ。
「それでさ、何すんの、結婚式って。挨拶とかするの?」
「まあそうですね。挨拶します。そして夫婦になることを騎士候に宣言します。後は飲んで歌って潰れます」
「潰れちゃアカンだろ……」
俺は苦笑した。
そうか、酒も出るんだよな。よし、飲み尽くしてやろうじゃないか。
そんなことを話していると、すぐに結婚式が始まった。
ちなみに今回の結婚式でやってきた騎士候は決して魔帝直轄地の騎士候だけではない。
他の魔王に仕えている騎士候たちもやってきている。
現代日本人の感覚では理解できないかもしれないが、この世界では主従関係は複数の相手と結んで良いのだ。
だから前回の戦争でボイコットした騎士候たちも結婚式に顔を出している。
まあ彼らには次は無いと忠告しておいたから問題無いけどな。
面の皮が厚い連中だ。
まずメアが壇上に上がる。
「皆さま、こんにちは。初めての方もいらっしゃるかもしれないので自己紹介を。私はメア・ルシフェル。亡き魔帝陛下の次女です。さて、私の自己紹介など詰まらないでしょう。アキト様!!」
おいおい、俺に順番回すの早すぎでしょ……
まあ良いか。
言う内容は変わらない。
俺は壇上に上がった。
「さて、みんなも俺のことはよく知っていると思う。俺は天野秋斗。勇者であり、メアの父親である魔帝を討ちとった者だ」
会場が静まり返る。
メアが心配そうにこちらを見ているのが分かる。大丈夫だって。
「何人か、見知った顔の者が居るな。戦場で俺と剣を交えた者も居るだろう。俺に家族を殺された者も居るだろう。……というか主人である魔帝を殺されたことを恨んでいる者も大勢いるはずだ」
まあ騎士候の多くはそんなに義理高くは無いのだが。
彼らは土地と仁義を並べたら土地を選ぶ人間だ。まあ、それでも恨みを抱いて居る騎士候は当然居る。
「君たちと恨みは当然のモノだ。しっかりと胸の奥底で大切にしまっておくと良い。俺に刃を突きつけるまで」
何人かの騎士候の表情が変わる。
俺は彼らの顔を瞬時に頭に叩き込む。
「魔帝はこの魔界で誰よりも強かった。だがその魔帝は俺に殺された。現在、この魔界で……いや世界でもっとも強いのは俺だ。故に今暗殺を仕掛けても、反乱を起こしても無駄だ。俺を殺せない。君たちと俺との間にはそれだけの差があるのだから」
俺は復讐を否定しない。
むしろ復讐心を心に抱いて居る連中の方が土地に飛びつく奴らよりもよほど信用できる。
恐れは無い。叩き潰せば良いからだ。
象は蟻の牙を気にしない。
「グロウ・ルシフェル。本来は魔帝に即位すべき男は俺と一騎打ちをして負けた。そして俺の配下に成った。だが彼は俺に心の底から従っているわけでは無い。その胸に復讐心を抱いている。そうだろ? グロウ・ルシフェル!!」
「え? 復讐心だなんてそんな……」
「誤魔化さなくても良い」
空気を読むんだ、グロウ!!!
お前が毛ほども俺に恨みなんぞ抱いてないのは知ってるんだよ!!!
早く頷け。そして叫べ!!
俺の思いはグロウには届かなかったが、グロウの隣の褐色の肌の女性……多分グロウの嫁が気付いた。
彼女はグロウに耳打ちする。
ようやく理解したグロウは叫ぶ。
「そうだ!! 俺は屈していない。今は雌伏しているだけだ。俺は生き延びて、この男から戦闘技術を学び、必ず勝利する!!!」
まあ、嘘は言ってねえよ。復讐するとも言ってないけど。
「皆も知っていると思うがグロウは強力な騎士候だ。そして魔帝の次男であり、誰よりも俺を殺したい人間のはずだ。そんな彼も耐えている。何故なら今戦ったら死ぬからだ。死ねば復讐は無しえない」
騎士候たちの視線が俺に集中する。
「俺を殺したいのは結構! だが俺を殺すその時まで俺に従え。俺に勝てると心の底で思った時まで俺に従うんだ。それが賢い復讐者だ。……これだけ言って俺に挑んでくる者はよほどの大馬鹿か、復讐を言い訳に自殺して逃げたいだけだな」
実際、彼らは魔帝の元に行きたいのだろう。
俺に復習したいのではなく、後追い自殺……殉死したいのだ。
「良いか、魔帝が死んだのはお前たちの力不足だ。お前たちが悪い。魔帝に少しでも申し訳ないと思う気持ちが有るのであれば、耐えて耐えて、俺を必ず殺せ!!」
まあ、最後に勝つのは俺だけどね。
そもそも俺に追いつくなど不可能だ。故に永遠に復讐は達成されない。
つまり、永遠に俺に従い続けるわけだ。
我ながら名案である。
「さて、長々と話してしまった。当然のことながら、出来れば俺は君たちと仲良くなりたい。さあ、今から面倒なことはすべて忘れよう。今俺が言ったことも忘れて良い。祝ってくれ。俺とメアの結婚を。さあ、飲もう!!!」
「「「おおおおお!!!」」」
優秀だな、メアが仕込んだ桜軍団は。
「初めまして。勇者様。私はフィオナと申します。グロウの妻です」
褐色色の肌の女性は俺に頭を下げた。
よく見ると耳が尖がっているのが分かる。亜長耳族のようだ。
それにしても美人だ。そしておっぱいが大きい。
「おい、グロウ。お前の奥さん凄い美人じゃないか。どこで捕まえた?」
「さ、酒臭いですよ……そもそも俺の領地には亜長耳族の自治領が有りますし……彼女はその族長の娘です」
「つまりあれか。滅ぼされたくなかったら女を差し出せと!!」
「違いますよ。あっちの方から来たんです。なあ、フィオナ」
グロウがそう言うと、フィオナは顔を少し赤らめて頷く。
詰まんねえな、おい。
「グロウ様は故郷を追われ、居場所も無い私たちに住む場所を下さったんです。本当に感謝しています」
どうやらフィオナはグロウにぞっこんらしい。くそ、人妻じゃなかったら口説いたのに!!
「俺は亜長耳族には詳しくないが……お前らって生物的には妖精種で精霊魔法を使えるんだよな?」
確か俺の記憶が正しければ、亜長耳族は長耳族の亜種だ。相違点は肌の色と闇精霊を使役出来るところだけだ。
長耳族は排他的な種族で自分たちと違う者は兎に角排除したがる。
本来の長耳族の肌は雪のような白だが亜長耳族は褐色色。
故に差別されているのだ。
このように亜種であるが故に迫害される種族は多々いる。
そういった種族の多くはこの魔界にたどり着くことが多い。魔人種は元々複数の少数民族に別れているから、細かいことは気にしないのだ。
よって魔界には政治上は魔人種に属するけど、生物的には違う種族という者は大勢いる。
「はい、私は精霊魔法に関してはそこそこ自信があります」
「俺、精霊魔法を見たこと無いんだよね。今度、機会があったら見せてくれ」
魔術と何がどう違うのか、楽しみだ。
それはそれとして……
「おい、グロウ!! お前飲んでないじゃないか。飲め、飲め!!」
「いや、もう無理です……」
「ああ? 俺の酒が飲めねえのか!! 痛てえええ!!」
頭に鈍痛が走った。後ろを振り向くとメアが居た。
「何やってるんですか」
「怒るなよ。俺が悪かった、悪かった。ところでメア、飲め」
俺は酒をメアのコップに注ぐ。メアはそれを一気に飲み干した。
良い飲みっぷりだな!
「ぷはー、キツイですね……」
「潰れろ、潰れろ。俺が介抱してやる」
俺はさらにメアのコップにつぎ込む。
メアは抗議の声を上げた。
「こんなに飲めませんよ。お返しします」
メアはそう言いながら酒を口に含み……
俺の唇に自分の唇を重ねて来た。
俺の口の中に酒が入りこむ。
口の端から唾液と酒の混合物が垂れて服を汚した。
「美味しいですか?」
「ああ、美味かったよ」
こいつ、かなり酔ってるな。結構、結構。
「勇者様……と今はお呼びすれば良いか?」
俺は突然声を掛けられた。
後ろを振り向くと、金髪の少年が居た。年は十二、いや十三歳かな? 目の色が赤い。
なかなかの美少年だ。女装が似合いそう。
恐らく吸血族か淫魔族だろう。
「ああ、まだ即位してないからな。今は勇者様かアキト様で結構だ。それで、君の名前は?」
「ルクス・ルシフェルと言います。魔王デルフの長男です」
「へえ、言われてみるとそっくりだな」
そう言えばデルフも綺麗な金髪だった。
まあ野郎の金髪なんぞどうでもいい情報だが。
「君のお父さんは本当に強かった。久しぶりに楽しかったよ」
「そうですか。実はあなたに言いたいことが四つあるんです」
ほう、何かな。ルクス君。
俺は目を細める。
「一つ、父を丁重に葬ってくれてありがとうございます」
「ん? そんなことか。気にするな。俺は死者を辱める行為は嫌いなんだよ。だから俺の自己満足。それに君のお父さんとの戦いは本当に楽しかったしね」
「殺し合いが楽しいとは変わってますね」
「君のお父さんにも言われた。サタンと負けず劣らず気違いだなと。失礼だな」
いくらなんでも気違い呼ばわりは酷いと思う。
「二つ目、僕たちを見逃してくれてありがとうございます。それに加えて小さいながらも領地を下さり……おかげで露頭に迷わずに済みました」
「気にすんな。というか、俺はお前のお父さんの魔王領を丸ごと貰ったんだ。そんな小さな領地、感謝することは無い」
「いえ、それは勝者の特権ですから」
まあ、実際のところ俺のやり方はかなり優しい。
この世界では騎士候はよく見逃がされるが、王族などのピラミッドの頂点は見逃されない。何故なら王の一族を殺さないと、その王が抱えていた騎士候を囲い込みにくくなるからだ。
騎士候は数が多いし、騎士候の裏切りはよくあるからその度に殺していては居なくなってしまう。
逆に王というのは基本的に敵で仲間になることはあり得ない、それに数も少ない。
そういう諸々の事情だ。
気付くと他の騎士候が俺とルクス君を取り巻いていた。
興味深そうに俺とルクスのやり取りを見ている。まあ、俺はルクスの父親を殺したわけだしな。
俺が、ルクスが、何を話しているのか気になるのだろう。
「そして三つ目。僕はあなたのことを恨んでいます。殺してしまいたい」
「なるほど。今から裏庭でやるか?」
俺が笑みを浮かべて聞くと、ルクスは首を横に振った。
「まさか、父を倒すことも出来ない僕がその父を倒したあなたに勝てるわけないじゃないですか。あなたのご忠告通り、僕があなたを越えるまで耐えますよ」
「そうか。そいつは利口だ。楽しみに待っているよ。それで四つ目は?」
「僕をあなたの御側に置いてください。僕はあなたから技術を盗みたい。強くなりたいんです」
そういって俺を見つめるルクスの目は……
真っ直ぐだった。その真っ直ぐな瞳の奥底には憎しみの炎と強くなりたいという純粋な欲求、そして俺への憧れの色が伺えた。
……少し試すか。
「でもな。俺もメアとイチャイチャしている時に後ろから刺されたら死ぬわけだしね。恨みを抱いた奴を側に置くわけにはいかないなあ。なあ? メア」
「ふぁい? ひょうでしゅね……んん……アキト様とイチャイチャしている時に攻撃しゃれたらこわいでしゅ……」
メアは顔を真っ赤にして、目をトロンとさせながら言う。完全にアルコールが周っているようだ。
可愛いなあ。俺は思わずメアの頭を撫でた。
「ご安心を。僕の父はあなたに一騎打ちで敗れました。だから僕はあなたを一騎打ちで殺します。それが真の復讐です」
「気に入った!!」
俺はルクスの頭を撫でた。
突然のことで驚いた表情を浮かべるルクス。
「良いぞ。俺は君みたいな奴が大好きだ。君を俺の弟子兼直属の騎士として認める」
「ありがとうございます。僕があなたを越えるまで、永遠の忠誠を誓いましょう」
ルクスはその場に膝をついて頭を下げた。
「では僕はこれで……」
「おい、待て」
俺はルクスの服を掴む。ルクスは怪訝そうな表情を浮かべた。
「何ですか?」
「酒飲もうぜ」
「嫌ですよ」
「ほう、負けるのが怖いのか?」
挑発したらルクスはムッとした表情を浮かべた。
やはりこいつは挑発に乗りやすいタイプみたいだな。
「良いですよ。ちなみに僕は父を酔い潰したことが有ります」
「俺なんか聖人種酒飲み大会で優勝したことあるぞ」
聖女と接戦の末、俺が勝利を捥ぎ取ったのだ。
俺とルクスは睨みあった。
こうしてどちらが先に潰れるかの勝負が始まった。
「っく……はあ、やるじゃないか!」
「うぷ……あなたも、中々、じゃ、ないですか」
そう言うルクスはもう限界という顔だ。俺はまだまだ行けるけど。
俺はつまみのチーズを口に入れる。チーズは大陸北西部の方が旨いな。
「ん……しゃすがです、アキトしゃま……どうぞ……」
メアがこれでもかと俺のコップに酒を注ぐ。
大丈夫かよ、メア。
結婚式だから初夜……とか考えてたんだけどね。酒に酔って頭がおかしくなっている状態で処女を奪うのはやめて置いた方が良いな。
メアが可哀想だ。
さて、俺はいつメアとやれるのだろうか?
俺はそう思いながら酒を飲む。
ルクスも俺と同時に酒を飲み……倒れた。
俺の勝ちだな。
俺は声を張り上げる。
「貴様ら!! ルクスの仇を討ちたい奴は居るか!!」
「では、この私が。アキト様だからといって手加減は致しませぬ。いざ、尋常に勝負!!」
二十分後……
「っぐう……無念……」
「ははは!! 討ち取った!!」
「ゴレアスがやられた!!」
「あの人はどういう身体構造してるんだ!!」
「まったく、男どもはだらしない!! 今度は私が行きます。夫の仇!!」
というノリで俺は会場の酒飲たちを全員討ち取り、キング・オブ・大酒飲みになった。
取り敢えずジャンル酒では俺は魔界一らしい。
この調子で世界を狙おう。




