第十四話 「そろそろ決着を付けようか」
「お前のように、一度勝つことを諦めて屈した男に俺が負けるわけがないだろう?」
アキトはデルフに言い放った。
怪訝そうに顔を顰めるデルフ。アキトはデルフの表情が見えないからか、そもそも気にしていないのか話を続ける。
「お前、魔帝に勝てないと思ってただろ?」
「何を根拠に……貴様は俺が何度も魔帝に反旗を翻しているのを知っているだろう?」
デルフは今まで二回も魔帝と戦っている。
デルフが魔帝から帝位を簒奪しようと目論んでいたのは明白であり、誰にでも分かることだ。
「いや、違うね。お前は二回目の反乱で負けた後、完全に魔帝に屈した。お前はその時永遠に魔帝には勝てないと感じたんだろう?」
「証拠はあるのか? お前は俺の心でも読んだのか?」
不機嫌そうに声を荒あげるデルフ。勝手にレッテルを張られて良い気持ちのする者はそうは居ない。
「ああ、あるさ。俺の仲間の一人、王国国王は大戦時に多くの魔王に背後から魔帝を攻撃して貰うように依頼した。だが尽く断られた。お前も断った一人だ」
「卑怯だから。そう考えることは出来ぬのか? 貴様は」
「はあ? 裏工作でうちの騎士候を懐柔して、透明人間になって戦ってる奴が何言ってるんだ」
戦争にはルールなど無い。
勿論仁義や道理、騎士道などは存在する。
だがルールは無い。故に勝利の為ならば裏工作だってしても良いし、集団で強い敵に挑むのも戦術の一つだ。
デルフはそれを弁えている人間であり、卑怯などと思うはずがない。
アキトはそう主張する。
「お前は魔帝に最後に敗北した時、勝てないと思った。だから今まで魔帝に従わなかったが、同時に反旗を翻そうとも思わなかっら。お前、魔帝が死んだときどう感じだ? 俺に先を越されて悔しいと少しでも感じたか? 感じなかっただろ。当ててやるよ。お前はその時、まず疑いを憶えただろ。そしてその後に驚きを感じた。違うか?」
真実だ。
デルフは魔帝が死んだと聞いてまず情報の正誤を疑い、真であると知った後は驚きを感じた。
心の底を見透かされて、デルフの心臓は跳ね上がった。
「魔帝がお前を王に封じたのはお前のことを信頼していたからではない。お前が自分に屈したと、確信を抱いたからだ」
「っく……ああ、認めてやるよ。俺はあいつに勝てないと思ったさ。仕方が無いだろ? あんな化け物に勝てるか!!」
デルフは一気に距離を詰めて剣を振るう。
デルフの剣は見えない。それでもアキトは大気の流れで剣の動きを予測してその攻撃を防ぎ続ける。
だが集中力は長く続かない。
どうしても受けが甘くなり、アキトの体に傷が増えていく。
「例え今は勝てなくとも勝てる時が来る。勝つ方法も様々だ。実際、俺は魔帝を殺した。お前は魔帝を裏切って俺と共に戦っていれば魔帝に勝てた!! だが臆病者のお前は戦わなかった。お前は永遠の敗者だ。故に勝つのは俺だ。どんな戦いも、最後に勝つのは俺だ!!」
アキトの魔剣がデルフの剣を強く弾く。
「お、お前……」
「悪いな。お前の剣術、九割方解析完了だ。次はこちらからだ!!」
アキトは見えないはずのデルフに接近する。
見えない、聞こえないはずのデルフを相手に剣を振るう。
「き、貴様……俺の癖と剣術をこの短い間に覚えきったのか? はは、化け物め……」
「化け物? 褒め言葉だな!!」
アキトはニヤリと笑う。
そして剣先を向けて宣言する。
「そろそろ決着を付けようか。魔王デルフ」
「そろそろ決着を付けようか。魔王デルフ」
俺は剣先を向けてそう宣言した後、魔剣くんを腰の鞘に戻して聖剣ちゃんを引き抜いた。
神具は抜かずとも、簡単な能力は扱える。
俺は魔剣くんを操って常に自分に重力加速度が掛かるようにする。
これくらいならばそう難しくはない。
「聖剣ちゃん、全能力解放!!」
聖剣ちゃんが白く光り輝く。
俺は聖剣ちゃんの能力を抑え気味で扱っている。何故かと言えば制御が難しすぎるからだ。
下手を打てば俺の体も危なくなるほど、聖剣ちゃんは能力が高い。
弱い敵と戦う時は二十%、デルフのような強敵と戦う時は七十%。ちなみに魔帝城の床を破壊した時は三十%だった。
七十%以上の出力だと、十分も持たない。
「一撃で決める」
「なるほど、その一撃を喰らったら死にそうだ。だが当たらなければどうということは無い」
デルフに体が消えていく。
これは……
「蜃気楼『不可視の羽衣』、全能力解放。今の俺は全ての物体を無視できる。意味は分かるな?」
ああ、なるほどね。
分かったよ。意味が。
空気の動きがほとんど感じられない。こいつの体そのものが透過しているのだ。
完全な透過では無いらしく、多少は空気が揺れ動くが……それでもほとんど感じられない。
飛竜も自分の体と一緒に包んでいるからだろうな。
透過しきれないのだ。
分かるのは大まかな位置だけだ。
だが大まかな位置だけ分かれば十分。
「言っておくが、俺はこれでお前から逃れられるとは思っていない。逆だよ。俺は正面からお前の攻撃を受ける。全て透過させてやる」
「俺の聖剣ちゃんの属性は光だ。透過しきるのは難しいぞ?」
「それでも正面からぶつかるよりは遥かにマシだ」
多分、デルフは不敵に笑っているんだろうな。
もうこいつの存在はほとんど認識できない。
それにしても今まで俺の聖剣ちゃんの光を正面から受ける大バカ者は大勢居たが……
こういう受け方をする奴は初めてだな。
「良いだろう。俺の剣は全てを貫く」
「俺の羽衣は全てを貫かせる」
俺は、俺たちはその武具の真名を解放する。
「聖光剣!!」
「蜃気楼!!」
世界が白い光に包まれた。
(何という威力だ……)
デルフは光の奔流を浴びながら思った。
光の一筋一筋が重い一撃を持った斬撃で、鉄をも一瞬で溶かすであろう熱線。
そんな何千本、何万本の光がデルフの体を貫く。
(全身が今にも引き裂かれそうだ……蜃気楼を使わずに正面から受けたら、即死だったな……)
デルフは気をしっかりと持たせる。
デルフの蜃気楼は完全な無敵ではない。このような強烈な一撃を喰らい続けたら、当然透過能力は衰えていく。
デルフの頬に一筋の血が垂れる。
それを皮切りにデルフの体の各所から血が噴き出る。
(内臓と頭。それさえ死守できれば勝てる!!)
デルフは少しづつ体を切り捨てていく。
左手、左足が吹き飛ぶのを感じる。
すでにデルフが跨っていた飛竜は息絶えてて、吹き飛ばされていた。
一秒一秒が永遠に感じられる。
しかしデルフは耐え抜いた。
光が晴れる。
視界が戻り、青空が目に映る。
デルフはゆっくりと落下していた。
(勝ったのか?)
デルフがそう思ったその時だった。
首筋を何かが掠めた。
視界がぶれる。気付くと自分の体がずっと下にあった。
その時ようやくデルフは自分の首が燃えるように熱いことに気付いた。
「あともう一歩だったな。しかし俺の体もボロボロだ。お前はよく戦った。デルフ・ルシフェル。俺は永遠にお前の名前を憶えよう」
そんな声がデルフの耳に届いた。
デルフは笑う。
「そうか。……魔帝を殺した英雄に名を覚えられるのだ。名誉なことだ。俺の領地は……好きに使え」
デルフは死んだ。
俺は切り裂いたデルフの首を掴んだ。
一応、こいつの首は晒さなければならない。
それが勝者の特権であり、敗者の末路である。
「後で丁重に葬るよ。デルフ・ルシフェル。楽しかったぞ。あれだけ血が滾ったのは魔帝以来だ。楽しい時間をありがとう。敵うことならば生まれ変わって、もう一度殺し愛をしたい。仲間として戦って貰うのも大歓迎だ」
俺はデルフの瞼を閉じて、布で巻く。
必要以上に弄ぶのは失礼だ。
どんな奴でも死んだら平等に死者なのだから……
ああ、それにしても体が重い。
やはり聖剣ちゃんの全能力解放は重いな。今回は魔剣くんも同時並行で使ったからか、余計に疲労を感じる。
「勝ちましたか?」
俺が飛竜で下まで降りると、グロウが駆け寄ってきた。
俺が頷くとグロウは高々と叫ぶ。
「敵総大将魔王デルフは魔帝陛下が討ち取られた!! デルフ配下の騎士候は降伏せよ!! 罪には問わない!!」
それ、俺のセリフなんだけどな……
しかし眠い。疲れた。
文句を言う気力も湧かない。
「グロウ。後は頼む。……俺は少し寝る」
「え? ちょっと、陛下? 陛下!!!」
俺の視界は暗転した。




