第十三話 「さあ、殺し愛をしようじゃないか!!」
うわああああ、気持ちが悪い!!
やぱり時空酔いは天敵だ。
俺は時空酔いの怒りをデルフにぶつける。
「死ねえええええ!!! デルフ!!!!」
俺はメアが転移で戻るのを見届けてから、一気に飛竜を降下させてデルフの首を狙う。
「ちょっと陛下!! 大声出したら気付かれちゃうじゃないですか!!」
グロウが何か文句を言っている。
風が五月蠅過ぎて聞こえない。多分俺の叫び声もデルフには聞こえていない。というか、だからこそ叫んだのだが。
「っつ!!!」
流石騎力四十万なだけはある。
俺の奇襲を紙一重で避けた。しかしデルフの下に居た騎士候は気付いていない。
先手必勝!!
俺は右手に聖剣ちゃん、左手に魔剣くんを出現させて騎士候二名の首を切断する。
おそらく二人は斬られて初めて気づいただろうな。自分が死んだことに。
「死ねええええ!!!」
グロウも元気そうで、三人の騎士候を葬ったようだ。俺も負けていられないな。
さて、全員気付いたところで……
「俺の名前はアマノ・アキト!! 勇者であり、これから魔帝に即位する予定の男だ!! 降伏することをお勧めする。お前たちでは勝てない」
「抜かせえええ!!!」
デルフはそう叫んで俺に斬りこんできた。
重い、重い一撃だ。
受け流そうにも受け流せない。
俺は全身の血が湧き立つのを感じた。
ああ、いいよ、凄く良い。
興奮するね。
俺は大好きだ。殺し合いが大好きだ。
人を殺すのは好きではない。人が死ぬのも好きではない。
だが殺し合いは、いや殺し愛は大好きだ。
日本では絶対に殺し愛など出来ない。
俺が日本への帰還を拒否した最大の理由だ。日本じゃ私闘は法律で禁じられているからな。
「さあ、殺し愛をしようじゃないか。デルフ!! 俺はお前をもっともっと感じたい。もっと俺を高ぶらせろ!!!」
「貴様……やはりサタンを討っただけはある。あいつに負けず劣らず気違いだな」
誰が気違いだ。俺は正常だぞ?
興奮しないお前が不能なだけだ!!
俺は魔剣くんを仕舞い、聖剣ちゃんを両手で握る。やはり片手では力が入らない。
両手剣は難しいな。
俺は飛竜を操り、デルフに接近する。
剣と剣が激しくぶつかり合い、高い音を奏でる。
思わず持ってかれそうになる。ああ、大好きだ。俺は今、生きている!!
空中戦では上を取った方が有利になる。当然だ。重力を味方に付けるのだから。
俺たちは激しくぶつかり、鍔迫り合いをしながらぐんぐん上へ上昇する。
気圧? 問題ない。俺たちは騎士候だからな。
少なくとも対流圏まではイケる。ああ、俺本当に人間やめちまったな。
「クソ、やはり年寄りなだけあるか」
「二十歳の若造に飛竜の操縦で負けて堪るか」
上を取ったデルフは一気に加速してくる。
俺は聖剣ちゃんから魔剣くんに持ち替えて迎え撃つ。
「っつ!!」
「どうだ、俺の魔剣くんの重力操作は」
俺は重力を操り、デルフと俺に掛かる重力を入れ替えたのだ。
つまり重力のバックアップを受けているのは俺になる。
「はは、魔帝の神具か。ただの飾りかと思ったが、本物とは恐れ入る。では俺もそろそろ宝具を使わせて貰おうか」
デルフがそう言うや否や、徐々にデルフの認識が薄くなる。
宝具、蜃気楼『不可視の羽衣』。
メア曰く、この宝具は相手に認識されにくくなるという効力が有るらしい。
具体的に言うと、姿が消えて、音も立たなくなり、魔術などの索敵も効かない。当然殺気や敵意も感じられなくなる。
羽衣は複数の人間を隠すことも出来るらしい。実際、デルフはそれをやって半ば奇襲を成功させた。もっとも人数が増えれば増えるほど隠しにくくなるとか。
実際、三十人と三十頭の飛竜を隠すのは難しかったのか肉眼では丸見えだった。
結界には引っかかり辛かったが。
今デルフは仲間に掛けていた羽衣を全て自分と飛竜に集中させている。
どんどんデルフは消えていく。
何も感じられなくなる。
……
これは少し厄介な相手だな。
同時に血が高ぶる。殺し愛の相手は強ければ強いほど良い。
俺は全身に気力を漲らせる。
消えるのは存在感で、存在ではない。
竜が羽搏けば空気が動く。その空気を感じ取れば敵の位置の予測は可能だ。
もっとも、そんなことは相手も分かっている。
これは俺の集中力がどれだけ持つかの戦いだ。
一方、グロウは一人で複数の騎士候と戦っていた。
「魔帝陛下の仇である勇者に膝を折るとは!! 魔人種の面汚しめ!!」
「黙れ!! アキト様が魔剣を操っているのが見えなかったのか? アキト様は魔剣に選ばれた。正統後継者だ!!」
グロウは剣を振るう。
アキトに言われた教えを実践する。
グロウの戦略は長期戦だ。相手の攻撃をいなし、徐々に相手の気力と魔力を吸収する。
「隙有り!!!」
呼吸が乱れた騎士候の首をグロウは切り裂く。
ここは上空。いくら騎士候が化け物とはいえ、やはり呼吸は地上よりは苦しくなる。
もっともアキトやデルフやグロウのようなレベルになるとあまり関係ないが。
しかしグロウも厳しい。
何しろ多勢に無勢。徐々に切り傷が増えていく。
しかし……
「グロウ様!!!」
グロウの背後を急襲しようとした騎士候を騎士団長が……すでに解任されて騎士の一人となった男サルディアが切り裂く。
グロウがチラリと後ろを振り返ると、飛竜に騎乗した騎士候たちが居た。
ようやく援軍の到着である。
「よし、勝った!! と思いましたね。グロウ様。良いですか。勝ったと思った時すでにその人は敗北してるんですよ?」
「お前は人の思考を勝手に読むな」
執事長に叱られるメイド長。
しかしメイド長はどこ吹く風だ。
流石のグロウも思考を読まれるのは不愉快だが、今は大切な援軍である。
文句は後でメアとアキトに言えば良い。
「さあ!! 殲滅するぞ! 全軍、俺に続け!!」
「「おおおおおお!!!」」
グロウ率いる魔帝軍が突撃する。
形勢は一気に魔帝軍に傾き始める。
特にグロウの活躍は素晴らしく、友軍の存在で背後を気にする必要がなくなったおかげか次々と敵を討ち取って行った。
偶に背後から攻撃を仕掛けようとする者が居たが、尽くメイド長に潰された。
思考を読むことが出来るメイド長には奇襲など無意味なのだ。
グロウはメイド長への罰は少し軽くするように考え直した。
「グロウ様。あなたを殺す私をお許しください」
そう叫んで剣を振り上げて来たのはデルフの副将であった。
グロウも何度か手合せしたことが有る騎士候である。
「お前の騎力は十万だろ。俺より弱い」
「お言葉ですが、実戦と訓練は違います。それに騎力はただの数値に過ぎません」
副将の大剣とグロウの双剣が激しい金属音を立ててぶつかり合う。
強烈な一撃がグロウを襲う。
「っく……やはり強いな。前の俺ならば負けていた」
グロウはアキトのアドバイスを実践する。気力を適切に、必要な分だけ体の各所の筋肉に送る。
最高効率で最高の力を出す。
徐々にグロウが副将を押し込んでいく。戦いが長引けば長引くほど、グロウの双剣が副将の体力を吸収してグロウに有利になっていく。
「これで最後だ。吸血双頭『吸命の剣』、全能力解放!!」
グロウの双剣が仄かに赤く発光する。
「死ねええ!!」
グロウは双剣を副将に叩きつける。今まで吸収していたエネルギーが直接破壊力に変換されて、副将を襲った。
副将は慌てて大剣で防ぐが、赤い光の奔流は大剣を容易に砕き、副将の体を貫いた。
「敵将、討ち取った!!」
グロウが副将を討ち取ったことで形勢が完全に魔帝軍に傾いた。
デルフ配下の騎士候は少しづつ討ち取られていく。
自死する者。
相打ちを計る者。
逃げる者。
様々だが、唯一言えることがある。
それは魔帝軍が勝っているということ。
しかしまだ勝敗の行方は分からない。
遥か上空で戦うデルフとアキト。この二人の一騎打ちの勝敗が全てを決する。
グロウたちの戦いはその一局に過ぎないのだ。
グロウたちがデルフの騎士候を駆逐してアキトの援軍として駆けつけるのが先か。
はたまたデルフがアキトを討ち取るのが先か。
もしくはアキトがデルフを討ち取るのが先か……
運命の女神は微笑んだ。
その見つめる先は……
「はあ、はあ……強いな。お前。本当に騎力四十万か? 五十万はあるんじゃないか?」
「かもな。俺が計ったのは百年前だ。変化しているかもしれない」
デルフは答える。
姿は見えない。だが位置は分かる。竜の羽ばたきで分かってしまう。
大まかな位置を掴むのは簡単だが、敵の剣や拳の位置を探るのは難しい。
確実に俺の集中力は削れていた。
全身も擦り傷塗れだ。重要な場所は守り通せるが、それでも防御は甘くならざるを得ない。
「お前と俺の騎力の差は数値上は十三万だ。しかし騎力は数値に過ぎない。わかっているだろ。お前も騎士候ならば」
「ああ。大事なのは技術だ。そしてお前さんは俺よりも遥かに長生きしている」
つまりこいつは俺よりも強い挌上の相手だ。
ああ、本当に良い。
やはり強い奴との生死のやり取りは堪らない。
「戦闘狂め。今殺してやる」
「死ぬのはお前さ。俺は誰にも負けない。俺より強い奴が相手でも俺は必ず勝つ」
そう、こんな奴に俺が負けるわけないのだ。
「大した自信だな」
「ああ、当たり前だ。お前のように、一度勝つことを諦めて屈した男に負けるわけがないだろう? 永遠の敗者が!!」
生死を分け合うが精子を分け合うと変換されて、思わず笑ってしまった。




