第十二話 「~ねえねえ、どんな気持ち?~」
「見えてきたな。魔帝城。本来はこの俺のモノに成るはずだったところ」
魔王デルフは数百キロ先の魔帝城を、その人外じみた視力で眺める。
元々デルフはルシフェル一族の長男であった。
だから家督を継ぎ、魔王に成るべきだったのはデルフだ。
しかし忌々しい次男……サタン・ルシフェルが暗黒剣『永久の闇』の使い手になった……
デルフは選ばれなかったのにである。
暗黒剣の使い手が現れたのは数千年振りのことであったため、デルフの父は大喜びでサタンに家督を譲ることを決めてしまった。
デルフは当然抗議して、サタンに決闘を申し込んだ。
そして負けた。
あっさりと負けた。
今でもあの屈辱は忘れない。
何よりも忌々しいのはサタンがデルフのことを許したことだった。
当時、魔界は今ほど統一されていなかった。元々魔人種は種族の数が多い。
故に数千の国に分かれていた。
それでいて国境線に成るような山などの地形的障害物が少ないため、戦争が多発した。
所謂乱世であった。
当時のルシフェル一族の国もその数百の国の中でもそこそこの大国に過ぎなかったのだ。
デルフは父親に認められるためにいくつも国を落とした。
しかしデルフが一つ国を落とせば、その間にサタンが五つ。デルフが十の国を落とせばサタンは百の国を落とした。
結局敵わず、ルシフェル一族の家督を継いだのはサタンだった。
デルフは認められなかった。
だから兵を起こして、サタンを討ち取ろうとした。そして負けた。
惨敗した。
デルフとサタンの力関係は昔と変わらない……いや、変わらなかったというのは語弊がある。
正確に言えばデルフがサタンに劣っていたという事実は変わらないが、その差は遥かに離れていたのだった。
当時のデルフの騎力は二十五万であり、サタンの騎力は六十万だった。
そして、やはりサタンはデルフを許した。
そしてデルフに国を与えた。そしてサタンは言った。
「俺に勝ちたければ、領土を広げて俺との差を縮めるんだな」
今思えば、あれはサタンの策略の一つだったのだろう。
デルフが領土を広げれば、それだけ魔界の統一が近づく。
そして最後にサタンが反乱を起こしたデルフを鎮圧して国を奪う。
サタンは絶対にデルフに勝てると思っていたのだろう。
もしくは、サタンは身内には甘かったのかもしれない。
サタンは多くの反逆者を殺したが、身内だけは殺さなかった……
ともあれ、デルフは領土を広げた。
しかしデルフが領土を広げるよりも早くサタンは領土を広げた。そして魔界はルシフェル一族の元に統一され、サタンは魔帝を名乗った。
その後サタンは大陸北西部……聖人種の領域に侵攻して……勇者を筆頭とする聖人種に討たれた。
そう討たれたのである。
まず抱いた感情は疑いだった。
誤報ではないか?
デルフには魔帝が誰かに討たれるなど、信じられなかったのである。
そして真実だと知った。次に来た感情は驚き。
当然悲しみや怒りは湧き上がらなかった。
勇者たちに嫉妬を抱くかと思ったが……嫉妬も湧かなかった。
ただただ呆然として、無為に時を過ごした。
気付いた時には魔帝の息子が宮殿を占拠して、魔帝を名乗り始めた。
「不味いな」
その時初めてデルフは失敗に気付いた。そう、魔帝の正統後継者は自分である。
デルフは自体を巻き返すために工作を始めた。
他の魔王たちに連絡を取り、密かに自分への忠誠を従わせた。
当然だ。デルフの方がグロウよりも強いのだから。
そしてデルフを討つために魔帝直轄地の騎士候たちに連絡を取り合い、自分の元に付くように進めた。
少しづつ、グロウの足元を崩した。
しかしここでイレギュラーが起こる。
なんと勇者アキトが魔帝を名乗り、グロウを配下に入れてしまったのである。
デルフは作戦の変更を迫られた。
何しろ相手は自分が勝てなかった魔帝を討った男だ。油断してはならない。
デルフは慎重に慎重を重ね、ついにことを起こした。
そしてこうして空を飛んでいるのである。
魔帝城に近い騎士候の多くはデルフの勧め通り、中立を宣言するはずだ。
別にデルフの元で戦って貰う必要は無い。
騎士候に真の忠誠などないのだ。問題はどちらに付く方が得か。それだけだ。
君主と騎士の間にあるのは忠義でも、仁義でも無い。
双務的契約関係だけだ。
「皆の者、そろそろ魔帝城に到着する。先ほど結界に補足されたのを感じた。残念ながら完全な奇襲には成らなかった。だがそれでも敵は防衛準備が整って居ないはず。さあ、行くぞ!!」
「おおおおお!!!!」
騎士候たちは大声を上げた。
目指すは魔帝城と玉座。
狙うは勇者アキトの首。
三十の騎士候とその君主は全身に殺気を纏いながら、進軍を続けていた。
「よし、お前ら。早速迎え撃ちに行くぞ。数は予定よりも大分少ないけどな」
城の騎士候は十五人。
これに近場の騎士候十人が加わり、二十五人に…なる予定であった。
十人のうち七人が腹が痛いとか、子供が病気だとか、熱っぽいだとか適当な理由で遅参すると宣言して来たのだった。
もう少し言い訳を考えろ。
まあどう言い訳しても、魔王デルフの息が掛かっているのは目に見えているからどうでも良いが。
やってきたのは俺が竜退治した騎士候を含めて三人。
人気取りの効果があったかどうかは微妙なところだ。
「すみません……アキト様……私のミスです……」
メアがいつになくしょんぼりと言う。
こいつが落ち込んでいるのは初めてみる。新鮮だ。
「気にするな。政治の尻拭いが軍人の役割さ」
俺はメアの頭を撫でる。そもそもこいつは政治を遣り始めて一か月しか経ってないのだ。
まあ領地の統治経験もあるようだが……こいつの持っていた小さな領地と魔帝直轄地&グロウの魔王領は規模が違い過ぎる。
仕方が無いと言える。
誰か、政治の補佐役が必要だな。え? 俺がやれって?
俺がやったら三か月以内に国を崩壊させられる自信がある。
俺が下手に手を出すよりはメアに任せた方がマシである。
「そもそも相手は四百歳越えの爺なんだろ? お前は十八歳。仕方が無いだろ」
「……聖人種の間隔では四百歳は四十歳ですよ?」
「それでも初老。爺の入り口に入ってる」
二十歳の俺からすると四十歳なんて爺も良いところだ。初老だ、初老。
え? お前も爺になるって?
俺は神具使いだから年は取らない。永遠に肉体は全盛期のままになる。
多分二十五歳前後で止まるんじゃないかと思う。
まあそれはどうでもいいか。
「戦争は俺に任せろ。仮にも特殊遊撃騎士団、通称勇者パーティーのリーダーをやってたんだ。戦術には自信が有る。メア、お前にも協力して貰うぞ」
「はい、分かりました。何をすれば良いんですか?」
俺は空を指さして言う。
「お前には見えないだろうが、結構近くまで連中は来ている。お前の肉眼で見えるようになったら俺とグロウを飛竜ごと敵の近くに転移させろ。他の騎士候は俺たちの奇襲が成功したのを見て、後に続け」
奇襲をしようと思っている連中に先に奇襲を掛けてやるというわけだ。
メアの転移魔術を連中は知らない。間違いなく成功する。
はは、連中のビックリした顔を見てやりたいな。
「立て籠らないんですか?」
「街に被害が出る。出来るだけ避けたい」
俺は攻城戦が嫌いだ。守るのも攻めるのも。
俺たちが勝手に戦争をやって死ぬ分は良いが、一般人が大量に死ぬのは頂けない。
もっとも現在の魔帝城が防衛体制に入っていないという理由もある。
俺たち連合軍が重要な防衛設備を破壊したからだ。
メアやグロウの手で復旧は続いているが、完全復活するまでは数か月は掛かる見通しだ。
立て籠もるのは下策だ。
「あ、見えてきました」
メアが遠方を指さす。俺の目には元々バッチリ写っていたが、さらにはっきりと大きくなって居るのが分かる。
「じゃあ、『奇襲しようと思ったら逆に奇襲されちゃった気分はどう? ねえねえ、どんな気持ち?』作戦を結構するぞ!!」
「……もう少し何とかなりませんか、作戦名……」
メアは苦笑いしながら呪文を唱える。
「転移」
流石にお腹が痛いはギャグです。本来ならもう少しマシな言い訳を言います。まあギャグですので、マジレスしないでください。
一応書いておきますが、騎士候の力が強いのは世界共通です。魔界には限りません。
というか魔界は皇帝の権力が世界平均から考えると高い方です。出席率が悪いのは、まだアキトが認められてないからです。
国によっては、王よりも広い領土を持った騎士候とかも居ます。




