第十話 「アキト様のために~」
「はあ……痛いです……」
メアはスカートを履き直し、尻を撫でながら立ち上がる。
半泣きだ。
「何か、目覚めてはいけないモノに目覚めてしまいそうです……」
「俺は全然良いぞ?」
「私は良くないんです!」
メアが文句を言う。
しかし良い尻だったな。あれは。俺が見た中でもトップクラスだ。
「終わりましたか」
「ああ、入っていいぞ」
俺がそう答えると、グロウはドアを開けて入ってきた。
「それで、何の用だったんだ? 俺を探してたんだろう?」
「ええ。実は稽古を付けて欲しいなと……」
なるほど。そう言えば前回、こいつと戦って以来一度も試合をしていない。
戦い方を教えてやると約束したのだ。約束は履行しないとな。
「じゃあやるか? 今から。俺も魔剣くんの効力を確かめたいんだよね」
未だに俺は魔剣くんを使いこなせていなかった。
あれは闇と吸熱反応と重力を操るという性質上、中々玄人向けの武器だ。
聖剣ちゃんは光と発熱反応を操るから、比較的素人向けだ。
聖剣ちゃんと叫びながら敵をふっ飛ばせばいい。
あと二刀流のやり方も盗まないとな。こいつに頭を下げるのは癪だ。
「じゃあ、やろうか」
俺たちは宮殿の裏庭に出た。
「確かアキト様は騎力五十三万でしたっけ。で、グロウ兄様は二十五万」
「ええ、そうですね。お二人とも、化け物の領域です」
メイド長がメアの言葉に答える。
執事長が口を開く。
「騎力十万以上は一国に一人、二人程度。アキト様のような五十万越えは……おそらくアキト様ただ一人でしょうね。私の知る限りでは、ですが」
「そう考えるとアキト様はとんだ化け物ですねえ。ところで参考までに二人の騎力は?」
メアの問いに二人は答える。
「私は騎力二万です」
とメイド長。
「私は騎力三万ですな」
と執事長。
二人ともメアの保有する最高戦力であり、魔界でもトップ百に入るレベルの実力者だ。
もっとも、アキトと比べると霞んで見えてしまう。
「私は数値上は五万ですが……魔力に全振りですからね」
魔力とは魔術や魔法を扱うのに必要不可欠な力だ。だが魔術師と言うものは戦場では決定打にならない。
戦闘能力に直結するのは気力だ。
気力は身体能力を格段に上昇させることが出来る力だ。また気力を纏うことで肉体の耐久力を上昇させることも出来る。
気力を纏うことで、アキトは化け物じみた身体能力と肉体耐久能力を維持しているのだ。
メアはこの気力が壊滅的に無い。一般人の方がまだ高い。
扱える魔術の適正も『空間魔術』『結界魔術』『解呪魔術』に全振りであるため、戦闘はとても出来ない。
「あ、始まりましたよ」
まず最初に動いたのはグロウだ。グロウは双刀を振り上げて、アキトに襲い掛かる。
アキトはそれを剣で受け流す。
そしてグロウの腹に蹴りを入れる。
「お前さ、引っかかり過ぎなんだよな。あそこは退くべきだった。あと、気力の扱い方が非効率的。良いか、全ての筋肉に気力を流す必要は無い。必要なところに必要なだけ流すんだ。そうすれば無駄も無くなり、常に高出力で長持ちする。大事なのはイメージだ」
「はい!!」
再びグロウがアキトに襲い掛かる。今度は数度討ちあった後、アキトの拳を喰らい倒れる。
「アキト様って脳筋そうでもいろいろ考えて戦闘をしてるんですねえ」
「それにしても騎力は二分の一の差なのに、どうしてここまで差が出るのやら……」
「アキト様は戦いの天才ですな。特に気力操作が抜群。あれは常人では真似できませんな」
再びグロウは立ち上がり、アキトに挑みかかる。その度にグロウは地面に倒れる。
しかし段々と打ちあえる時間が伸びていく。
「グロウ!! さっきよりは随分とマシになったじゃないか!! さて、俺もそろそろ自分の訓練をさせて貰うぞ!!」
アキトがそう言うと、突然グロウの動きが鈍くなる。
グロウは苦悶の表情を浮かべる。
「重力操作……っく」
アキトの重力攻撃に耐えて見せるグロウ。
現在アキトがグロウに掛けている重さは約八トン。だがグロウが現在感じている重さは三十キロだ。
神具による攻撃は魔力や気力によって緩和出来るのだ。
もっとも消耗は激しい。
「どうやら十トンくらいまでは行けるみたいだな!!」
「っぐ!!」
さらに重さが加わり、グロウは苦しそうに声を上げる。
アキトの剣がグロウの双刀を吹き飛ばし、アキトの蹴りがグロウを地面に転ばせた。
「地味だけど中々便利だ。気力や魔力の少ない奴なら簡単に無力化できそうだな」
「はあ、はあ……やはり狡いですね。神具は」
「お前だって宝具使ってるじゃないか。大分盗まれたぞ、俺の気力。魔力なんてもう空だ」
余裕そうに言うアキトと、苦しそうに呼吸を続けるグロウ。
グロウはアキトの気力を吸収しているというのに……
「取り敢えずこの辺で休憩にしようか」
「待ってましたよ!! アキト様!!」
メアは笑みを浮かべてアキトに駆け寄った。
メアが笑顔で駆け寄ってくる。よく見ると手にバケットを持っている。
これは……
「アキト様のためにサンドウィッチを作りました。どうぞ!!」
メアはそう言って俺にバケットの中身を見せてくる。
良い匂いだ。
「お前、料理出来るの?」
「まあ、そこそこです。趣味程度には」
ほう、中々女子力が高いな。
さて、匂いは美味しそうだが味はどうだろうか。こういうのは不味いのがテンプレなのだが。
取り敢えず俺は卵サンドを手に取る。どうやら卵焼きが挟んであるタイプのようだ。
「ん、旨いな。これ」
塩気が調度いい。それに少し半熟なのが良い。
それにしても温かいな。そう言えば亜空間の中は時間が経過しないんだっけ。
俺は次にハムサンドを手に取る。レタスとハムと胡瓜のノーマルタイプだ。
ハムには黒胡椒が掛かっている。俺が前居た大陸北西部では胡椒は貴重品だったから、中々嬉しい。
「うん、普通に旨いぞ。美味しい」
「ありがとうございます」
まあ、ここまでは誰が作っても同じだろう。問題は他の少し変わった具が挟んであるサンドウィッチだ。
さて、どれから試すか……
俺が選んでいると、今まで物欲しそうにこちらを眺めていたグロウが口を開いた。
「あの……メア様。俺にも一つ、貰えませんかね」
「どうぞ」
メアはそう言ってドレッシングを渡した。どういうことだ? ドレッシングはかける物だぞ?
「そこの雑草にでもかけて食べてください。お兄様♡」
「……」
グロウが恨めしそうにメアを睨む。俺が居なかったら怒鳴ってたところだろうな。
しかしこれではグロウが可哀想だ。
「おい、メア。少しくらい上げろ」
「はあ……そう言うと思いましてメイド長に別で作らせました。ホラ、とっとと食え」
メアは冷たく言い放ち、バケットを投げる。
グロウは大慌てでバケットを拾いに向かう。
「さて、邪魔者は居なくなりましたし食事を続けましょう」
「……俺は少しお前との性生活に不安を抱き始めた」
俺はこいつと上手くやっていけるのだろうか?
まあ、良い。気を取りなおしてサンドウィッチを喰おうじゃないか。
俺は次のサンドウィッチを手に取る。
少し中を開いてみる。なんとサバが入っていた。サバサンドだ。知ってるぞ。イスタンブールの名物じゃないか。
具はサバと生玉ねぎ。それにしても魚なんてどこで……ああ、亜空間に放りこんで転移すれば良いだけか。
俺はサバサンドを頬張る。
うん、サバだな。それにしてもサバってパンに合うんだな。うん。旨い。
それにしても良いサバだ。油が乗っている。
「美味しいですか?」
「ああ、すごく旨い。えっと……これは何の具だ?」
「エビです。そのまま挟んだ方が見た目は良いですが、食べにくいだろうと思って裏漉ししました。ソースはエビに合うように作ってあります」
なるほどね。エビサンドか。初めて食べるな。
俺はエビサンドを口に運ぶ。
う、旨いじゃないか……
エビの良い味が出ている。その味を引き立てている甘辛いソースが特に良い。
やばいな、これ凄く美味しいぞ。
少し残念なのがエビの触感をあまり楽しめないことか。多少食べにくくても裏漉しせずに、そのまま入れてくれて良かったな。
「こいつはローストビーフか?」
「はい。じっくり焼き上げました。どうぞ?」
ローストビーフが挟んであるサンドウィッチとか初めて食うぞ……
俺はローストビーフサンドを口に運ぶ。
ああ、高級感がスゴイ。噛みしめると肉の味が溢れてくる。
というかタレが旨い。めちゃめちゃ旨い。
……俺の語彙力の無さが悲しいな。旨い以外言えないぞ。仕方が無い、脳筋だからな。
俺は手に付いた油やタレを布きんで拭き、最後のサンドウィッチを掴む。
これは……フルーツサンドか!!
「デザートです。どうぞ」」
俺はフルーツサンドを口にする。具は柑橘系の果物のようだ。
さっぱりした味。今までエビやローストビーフと味の濃いものばかり喰ってたから、丁度良い。
メア、お前料理の才能があるな。
流石メア。略してさすメア。
メアがマゾかサドかはこの作品の命題の一つです




