08
「さて、世界を変えるとか言ってたみたいだけどー、シキちゃん。何で王を倒そうとか言っちゃてる訳?」
「……」
私は答えない。
答えてもこの女――王達には理解できないだろう。
「私ー。『騎士団』の事は嫌いだけど、シキちゃんはだーい好きなんだよ?」
「そうか……私は嫌いだったよ」
――お前たち王は皆。
『魔法』が使えるからって、凡人を見下す世界を作ったお前らを、心の底から憎んでる。
みんなが魔法を使える【核】も認めず、自分たちが強力な『魔法』を使えるからって、弱い人々を見捨てる王を――好きになれる筈がないだろう。
「あー怖い。でもさ、それは先代の王達たちだからー、お門が違うぞ♡」
「だとしても、貴様も自分の『魔法』で多くの者を傷つけてきた、先代だろうと現代だろうと関係あるか!」
回転シキ拳銃――最初から全開で行く!
例え勝てないとしても、私は勝ってみせる。
これまでの恨みを込めれば勝てると――私は信じている。
「シンクロ――火弾!」
当たった直後に爆発する弾丸。ミオはその身体強化の『魔法』で耐えたが、フウキには効果がある筈だ。
どんなに強力な『魔法使い』だろうと、この弾なら倒せる。
現に私は道具だけでこの『騎士団』での地位まで上ってきた!
「うーん、残念」
「なっ」
「当たれば爆発する弾丸だろうと――私に当たる前に風が止める♡」
その言葉の通り――弾はフウキの前で止まっていた。落ちるのでなく空中に留まっている。
あの嫌な風でつかんだのか? それを踏まえての火弾、当たったら爆発する弾丸を選択したのだが私の考えが甘かった。
ただの道具で王の『魔法』とはわたり合えないのか……。
「シキちゃんって意外に馬鹿? 会話を聞いてたって言ってるんだから―。同じ道具使っちゃダメでしょ?」
かもしれないが、その程度――どうと言う事はない。
貴様が私の拳銃を防げようとも、私は道具使い。
ありとあらゆる手段を用いて勝利を手にする!
風の王女フウキ。
風を操ると言うのならその風を乱せばいいだけの事だ。
風を切り裂くほどの道具――刀で。
「魔刀シキ――火衣」
火の【核】を使用した『魔法使い』の作りし名刀。
属性『鋼』の『魔法使い』が作った刀に【核】を散りばめた私専用の刀――火衣。
この刀は、
「風も切り裂く!」
例え空にいようとも風を切り裂き、弾の通る道を作る。
そうすれば、あの風に掴まれないでフウキの元へ私の弾丸は届くはずだ。
「あら、女の子なんだから、刃物は大切に扱わないと♥」
「っが」
体の内側に衝撃が走り、思わずその場に蹲ってしまう。
「貴様……」
フウキに何をされたのかが理解できない。考えようにも鈍器が体の中を暴れているようで集中できない。
風を切り裂くと言ったが――刀を振らせてすら貰えないとは、情けない。
よくこれで王を倒すなど言えたものだ。
ばかばかしくて笑えてくるよ。
「シキちゃん。殺す前に教えてあげる♡ 私は『風』の魔法使いだけれど、私の使う『風』は音すら支配する」
「声か……?」
声は空気を震わせて聞こえる。
音を媒介にして――私の体内へと『魔法』を入れたのか。
『風』の『魔法使い』はそんな技も使えるのか?
だが、今まで会った事も聞いた事も無いぞ?
「王の私を――風だけしか起こせない『魔法使い』と一緒にするな♥」
今度は目に見える風を私にぶつける。
何とか火衣で風を受け流して防ぎはしたが、まだダメージが抜けていない。
正直防いだだけで体がきしむ。
火衣以外の防御に特化した道具を使えば防げはするだろうが、今の私ではその衝撃に耐えられない。刀で風を反らすのが精いっぱいだ。
「私は風来姫。風より来たり女王――シキちゃん程度が邪魔するな」
「なあ、お前にとって国とは何だ?」
「国? そうね――。私に魅了されるだけの存在。私を愛してくれればそれでいい」
悔しい。
『異世界の魔法使い』がいなくても戦えるとどこかで驕っていた自分が悔しいし――国を何とも思っていない。
弱い人間たちを自分を愛するためとしか思わないフウキに――私は何も出来ないのか。
「そうだよねー。悔しいよね。念願の『異世界人』を見つけたのに、あと一歩で夢に向かって走り始めれたのにね♡」
「だまれ、まだ私は戦える……」
ただ、言葉を発していただけであの威力。『魔法使い』としてのレベルが違いすぎる、今まで戦った相手とは比べ物にならない。
『魔法』は想像力だ。イメージした魔力を放出する。
核は、限界が決められている。
誰でも使えるが――限度がある。
もしもフウキが本気で『魔法』を使ったら――私など相手にはならないだろう。
「戦える? 何シキちゃん戦っているつもりだったの? もー。私を驚かせるのが得意なのね、シキちゃんは」
「うるさいうるさい!」
「そんなに怒るとしわが増えるわよ? ただですら私より老けて見えるんだから♡」
「黙れ、化け物。前から言おうと思ってたが、その年でその服装はきついぞ?」
「もー、ファッションにも支配されない。それが、あ・た・し」
会話をしながらも考える。なんとかこの場を切り抜ける方法を。まだ詰んではいない、ダメージがあっても動けない訳ではないし、まだ道具も沢山残されている。
「さーてと。 あの男、愛上尾張の『魔法』教えてくれない?」
「教えると思うか?」
どうせ教えてもこの女は私を殺す。もしかしたら気まぐれで生き残れるかも知れないが――そんな気まぐれに期待などしたくない。
こんな女に救われたくない。
「えー、じゃあ、えい♥」
右腕がなくなったかと思った。それほどの衝撃が私を襲う。今度は声を聴かない為に咄嗟に耳を塞いだが……無駄だった。
「っ。」
「あれれー。右腕が変な方向だぞー」
このババア。
平然とひどい事してくれるじゃないか――とっさに両手で耳をふさいだ私の腕に――風の球をぶつけてきた。
冷静にな時であれば簡単に対応できたのだが――『声』の魔法を受けてしまった。
フウキめ。私に考える余裕も与えないつもりか。
私の性格分かってるじゃないか。
目に見える風の球と、声と言う目に見えない風を――私の意識に刷り込んだのか。
ただの自由人かと思えば考えてるじゃないか…。なんとか道具を使えれば。
そうすればこの怪我の痛みも和らげられるのだが。
「あれれ。お得意の道具使おうとしてるのかな――させるかよ!」
フウキの前に圧縮されていく風。それは野球の球ぐらいの大きさではあろうが、その魔力は半端ではない。
その風を見た瞬間に私は命を諦めそうになる。
だが、頭の中を駆け抜けた走馬灯が――私に生きる意志を取り戻させる。そうだ、私はこんなところで死んでいい人間などでは無い!
右腕をかばいながら何とかフウキから離れようと足を動かすが、空を飛ぶフウキは平然と追いかけてくる。
フウキは距離を見て、風の球を可愛らしい女子のフォームで私に投げつけた。
「てい♥」
風の球が投げられた時、私の前にあの男が現れた。
『異世界の魔法使い』。
私が長年探し求めていた存在が――そこにいた。
「やっと追いついた」
異世界の魔法使い――愛上尾張。
彼は私の前に気持ちのいい笑顔で現れた。