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07

あらあら、こんな所でぐうぜんじゃなーい」


 世界が爆破したと思ったが――実際に爆ぜたのはミオの家だった。私たち二人を中心に家がすべて吹きとんだ。林の中に立っていたボロボロの家。

 だが今の現状は――家の周りに木々は無く荒野へと変貌していた。こんなふざけた真似をできるのは、強力な『魔法』を持った者だけ。


「フウキ……」


 頭上に私とミオを見下すかのようにその女はいた。木々より高い場所に浮いているフウキ。頭上にいるので、フワフワのスカートの中身はしっかりと見えてしまっているが、今は流石にそんなモノはどうでも良い。

 今じゃなくてもどうでもいいのだが……・


「なぜここにいる。Ⅰの王との会合はどうした……?」


 その為に帰ったのではないのか?


「行くよー、あんたら殺したらね♥」

「時間に遅れたら厳しいぞ?」

「その辺はだいじょーぶ、あんたら殺して理由説明すればⅠの王も分かってくれるわよ」

「なるほどな……よく考えてるではないか」 

 

 気まぐれな女王とは言えど――いくらなんでも気まぐれが過ぎるだろう何があってフウキは気を変えてここに来た?そんな私の疑問に答えてくれたのは――フウキでは無くミオだ。


「会話、聞いてたんでしょ」


 ミオが低いトーンで私の疑問の答え言う。

 会話を聞いていた? 

 一体どうやって?

 一応、人の気配には敏感なつもりだ。

 ましてや家の中だぞ? 

 あんな何も無い部屋で隠れられるわけがないだろう。

 

「人の会話きいて、人の家壊して、この世界では何でもありか?」


 語気を荒げているミオ。

 正直、この男が怒りの感情が私には意外であった。いきなり銃弾ぶち込まれても全く気にしてない男だぞ?

 なぜ、そんなに怒っている?


「まだ、仕込んでた材料沢山あったのに。僕がどれだけ楽しみにしていたか、お前に分かるのか!」

「は? 私は王様~。あんたは下僕。だけどね、用があるのはその女♥」


 怒ってるのはそこか~い。

 と、心の中で軽く突っ込みを入れた所で、体が一瞬で軽くなった。


「何だ!? これは!」


 私の周りを風が纏わりついてくる。不快な風に運ばれ、地面からどんどんと足が離れて行く。

 フウキのいる高さまで運ばれ、身動きが取れない私の頬を――フウキがつんつん突っついてくる。


「どうしたの、あんな分かりやっすい隙つくちゃって♡」

「しまった」


 油断した――怒っているミオが戦ってくれるのではないかと期待してしまった。

 『異世界の魔法使いに』頼ろうとしてしまった。

 その隙を、心の緩みを――この女が見逃すはずも無かった。戦いは嫌だとミオは言っていただろう。馬鹿か私は。


「さて、何企んでたのか、もっと詳しくき・か・せ・て♥」

「う、うるさい、離せ!」


 風は気持ち悪いし、高くて怖いし。

 早く足の着く地面に下してくれ。それかせめてもっと低いところでやってくれ。

 本当に意地悪な女王様だ。人の嫌がる事をやって楽しめるとは相当に最低な性格だ。よくこんなので国の王をやっていけるな……。


「離せって何もしてないけどね―。風の悪戯? 妖精さんのお遊びじゃない?」

「そんな訳あるか! 黙れ、殺すぞ!」


 顔の横に手を持ていってぶるぶると震える仕草をするフウキ。


「そんな脅されるとー。あ、手が滑った♡」


 捕まれている様な気持ち悪さから解放された。

 これで少しは気分が良くなるぞ。


「ふー。ちょっとすっきり」


 両腕が自由に動かせるので、気分よく額に滲み出た嫌な汗をぬぐえる。それはつまり――風から解放された。解放されると言う事は私を空中に留めていた風からも解放されたと言う事であってそれはすなわち――私は地面に向かって一直線に落ちていく。


「ぎゃああああああああ!!」


 上から見ると吹き飛ばされた家が――私たちが座っていた椅子だけが、その場に寂しく残されてるのがしっかり見える。悲鳴を上げながらもそんな冷静に状況を観察していた。こんな高さから落ちたら怪我だけじゃあ済まないぞ。

 私はあまりにも突然で対応が遅れてしまった。

 そんな情けなさを噛みしめながら地面に向かって落ちていく。ミオが受け止めようと私の着地地点に入ろうとする。


「冗談よ、ぷー♡。いい顔、それじゃあこのおバカさん借りてくからね」


 地面にぶつかる寸前で、再び嫌な風が私の体を掴んだ。助かったみたいだが――状況は変わっていない。

 ただただ、フウキに遊ばれているだけだ。


「見てないで助けろ、愛上尾張!」


 そんな私とフウキを両手で日の光を遮りながら眺めていた。助けには入ろうとしてはくれたみたいだが、基本手出しはしないつもりらしい。

 ただ見ているだけのミオに苛立ち、私は呼んでしまった――彼の名前を。

 フルネームを。


「あ……それダメなんでしょ?」


 ミオが私を指差しながら引きつった表情で見る。

 しまった――思わずフルネームで呼んでしまった。叫んでしまった。

 私自ら――ミオが異世界の住人であるとばらしてしまった。『騎士団』きってのエリートがとんだ失態を。 


「愛上尾張?」


 私は横にいるフウキの顔を見る。

 フウキなら名前の事を知らないと思ったが――この顔を見るとどうやらアウトだ。一人で何かつぶやいていたが、やがて私と視線が交わる。


「そうか、この男は『異世界』から……」

「うわっ」


 ぼわっと私は風に吹き飛ばされる。吹き飛ばされたと言うよりは、風に掴まれて無理やり引っ張られた感じだ。

 引っ張られようが飛ばされようが空中を移動するのは――怖い。

 突風に舞う葉はこんな気持ちなのかな? 今度からはその葉も愛おしく眺めらそうだ。


「まさか、もう異世界から『魔法使い』が来ているのか。崇の奴……」


 崇? 

 それは真黒木さんの名前だ――なぜこの女が知っている。

 『異世界の魔法使い』として名は馳せたが……名前は隠していたはずだ。


「貴様、真黒木さんを知っているのか?」

「あ? 黙れ♥」

「きゃっ……っか。」


 風に軽く放り投げられた私は地面に叩きつけられる。その衝撃で全身が痛むが、どうやら大きな怪我してないみたいだ。

 この場所は森から抜けた広い平地。ミオの家のある林から結構離れてしまった。

 フウキは、私とミオを離して置きたいのか……。

 家での会話が聞かれていた以上、戦闘は避けられない――つまり私は自分で『王』と戦わなければいけないのか。これは気分が滅入るな。


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