05
「世界とか――どうでも良いかな」
ミオは笑いながら首を振った。
そんな笑顔でどうでも良いとか言わないでくれ。かっこつけて世界を変えてみたくないかとか言っちゃったよ。
恥ずかしくなってきた、こんな思いするなら言わなきゃよかった・・・・・・。
「どうでもいいか……」
確かに『異世界』の住人であるミオはこの世界に興味がないのも分かる。だが、『異世界』から来た魔法使いは皆――世界を変えているんだぞ?
私はさりげなく差し出した手を戻しながら、その歴史をミオに伝える。
「でも、僕その人たち知らないし……」
「だから! 君はこの半年近く何をしていたんだ!」
両手で机をたたく。
全くこの男は……。
ミオは腕を組んみしばらく考える。この世界に来た時からの生活を思い出しているのだろう。
しばらく考えた後に、手をポンと叩き、
「料理?」
それがミオの答えだった。
「…………」
もしかしてこいつの『魔法』は料理に関係しているのか?弾丸も止めたのではなく、実は当たっていなかったとか? 着弾して爆発を引き起こしているから、そんなはずはないと思うが……。
そういえば真黒木さんも――自身の魔法を詳しく説明してくれなかったな。この男はどうだろうか?
「もしよければ君の『魔法』を教えてはくれないだろうか」
試しに私は聞いてみた、教えてくれるとは思っていない。
過去の異世界の魔法使い達は皆強力な『魔法』を使っていた。それなのにこの男は半年間、『魔法』の情報が一切来なかった。
それから考えられるのはつまり魔法を使用していないのか、隠しているか。
普通に考えると隠しているのだろう。
だとしたら、こいつは――こんな性格で一体何を企んでいるのか?
「いいよ。えーとね、僕の魔法は、自分の身体能力を強化してくれる『魔法』」
簡単に教えてもらえるとは思っていない。ならば、私も自身の『魔法』の代わりとなるべく道具を見せるしかない。
「私の道具を全てみせよう」
異世界の魔法使いを知るためだ――私の道具など全部見せた所でお釣りがくるわ。私は白衣からまず一番の愛用道具を取り出した。
「あれ、シキさん?」
「しょうがないなあ……特別だぞ。私の道具を全部見れるなんて、ミオが初めてだぞ? これがさっき君を殺そうとした道具だ。回転シキ拳銃と言ってだな」
「おーい」
「これは、なんと、『異世界の英雄』――真黒木崇が私の為に作ってくれたのだぞ!?」
「知らないよ、駄目だこれ」
「って、教えてくれたのか!」
「遅い、遅いよ!」
ミオが少し怒っていた。
そんな簡単に『魔法』を教えてくれるとは思わないので心外だ。
ふむ――教えてくれたのか、教えてくれちゃったのか。
私の自慢の道具見せたかったなー。話したかったなー。
「なんで残念そうなの?」
「そんな訳ないだろう。別にここから私の尊敬する 真黒木さんに着いて語ってやれなくて落ち込んだりはしてないぞ?」
「はあ、そうなんだ……」
身体能力の強化。その魔法を使って防御力を上げて弾丸を受けたと言う事か……地味ではあるが強力だ。強力ではあるのだろうが――地味だな。
『魔力』の高いものは体も強い。
だが――火弾を受けて無傷なミオ。『魔法使い』でも正面から受けて平気な者はそういない。
一応戦闘能力は低い私だがの『騎士団』の一員だからな。
それなりに戦場を見て歩いて来た。
「ミオの『魔法』――属性は『無』と言う事か」
「属性?」
首を傾げるミオ。
属性についてはどうやら知らないようだ。しかしこれくらいは許容範囲だ。
何せ真黒木さんを知らないのだからな。
「今から説明してやるから、よく聞けよ」
「はい」
素直にうなづくミオ。
この辺の説明は簡単ではあるが、ミオは『魔法』についてはどこまで知っているのか。とりあえず最初から説明するか。
「はるか昔から『魔法』は存在した」
「はるか昔かー、どれくらい前なの?」
「それは・・・・・・知らないけど」
私が生まれた時から、当たり前の様に『魔法』は存在していた。むしろその辺は神話の領域でしか記録は残されていない。
その話をしてしまうと面倒くさい、神話とは総じてそう言うモノだ。
「そこはまたの機会に教えよう」
「えー」
「不満そうな顔をするな、いいか。『魔法使い』……魔法を使う人々はそう呼ばれ尊敬されていた。」
「されていたって事は今はされてないの?」
いいところに気が付くではないか、少し評価を上げてやろう。
「そう――『魔法』を持った者たちは重宝された。が、10年前、これが開発された為に、その価値は薄くなった」
「これは……?」
私は自分の道具入れから光り輝く【核】を取り出す。白衣にはお気に入りの道具を忍ばせているが、それ以外の道具や【核】などは、腰に巻いている袋の中にしまっている。
「これが人々を『魔法使い』に変える魔法の源、【核】だ」
「【核】?」
「ああ。『魔法』はごく一部の人間しか使えない」
魔力は誰でも持っていたが魔力があろうとも『魔法』を使えない人間がほとんどだった。
そんな多くの人間を『魔法使い』へと変えるのが【核】。
「とはいっても核では属性は主な五つしか使えないがな」
「だから属性って?」
【核】を興味津々と見ていたが属性についても早く知りたいようだ。異世界の話が好きとは言っていたから――この手の話は大好きなのか。
「あせるな、【核】と一緒に説明した方が速いから後に回したんだ。むしろ、その気遣いに感謝しろ」
私はエリートだからな、その辺はしっかり考えているわ。
全く、自分はのんびりしているくせに人を急かすなどと――何たる自分勝手だ。
「うわー上から~」
私は白衣の内側から拳銃を取り出した。
「うわ、それ、痛いからやめて」
「なら、黙って聞け」