04
まさに自由の国の王――嵐の女だ。
しかし帰った事には素直に胸をなでおろす。何回心臓が飛びてるかと思ったか。それでもやり過ごせたのだがら良しとしよう。
ミオはフウキの姿が見えなくなるまで手を振る。
姿が見えなくなったところで、
「女王様すごかったねー。キラキラしてた」
と、私に同意を求めてくる。
私は急に疲労感に襲われ、椅子に持たれるように倒れこむ。
「キラキラしてたじゃない。君は自分が『異世界』の人間だと自覚していないのか」
「うん。『異世界』と使ってる言葉は一緒でしょ。この場所は僕の住んでた田舎みたいだし。街に出た時は外国に来たのかと思ったけど、このエリアは街並み以外あんまり日本と変わらないよ」
時計もあるし、厨房もある。
ミオは、ほらね。
みたいな顔をしているが――何か腹が立つ。
その技術を開発、伝導したのが真黒木さんであって、この世界の『魔法』と『異世界』の技術を合わせ、今まで世界に無いものを作り上げた。
そんな偉大な男ををお前は面白い名前とかほざいたんだよ。
私は何も知らないミオに怒りを覚えるが――必死に飲み込む。
「言葉は一緒だろうと考えは違う。ここは君たちの世界ではない」
「そうかも。なんか海外の絶景みたいなレトロな街並みで――凄い感動した」
「真黒木さんもこの世界に来た時は感動したと言っていたな」
向こうの世界にはない『魔法』を見て世界の進化を目指した。自分たちの住む世界に追い突き、更には道の世界を望んだ。
「異世界かー。僕もそんな物語好きだったな。魔法使いとか異能者の戦闘とか」
戦闘か。
それならば丁度いい――ミオが憧れている世界とやらを体験させてやろう。
「ならばミオ。そんな物語の主人公になりたくはないか?」
「……はい?」
私の言葉に眉をしかめるミオ。
「やっとだ」
私は思わず言葉を漏らす。
10年――この計画を考えてから流れた時間。真黒木さんと出会ってから漠然に考えていた理想は、年を重ねていく度にどんどん計画性を帯びていった。
ようやく最初の一歩を踏み出せる。
何回も考えた私の希望。
だが、この思いは希望と言うほど綺麗ではない。
それならば――これは野望だ。
私の野望には、
「君の持つ『魔法』。私にはそれが必要だ」
私は真黒木さんの遺志を継いで、この世界を次の段階へと進化させるんだ。
かつて私が真黒木さんに救われた様に――こんどは私が弱者を救い、強者を抑え世界を等しくする。
誰もが笑える世界を私が作ってみせる。
その為に『異世界の魔法使い』が必要だ。
『異世界の魔法使い』は特別な存在。
王に匹敵する『魔法』を持つ強い存在。
だから――この世界に迷い込んだこの男が必要なんだ。
「君は主人公になり――この世界を変えるんだ」
そう言って私はミオに手を差し伸べた。
この瞬間私は一体どんな表情を浮かべていたのだろう……。
★
「いやー、そろそろいい時期じゃね。つーか、それじゃね?」
「ふざけないで下さい。そんな簡単に決めていいはずがないでしょう」
「戦いか。嘆かわしい」
「……」
4人が4人それぞれ別の方向を向いて会話をしていた。
これは私が知らない場所で行われた『騎士団』達のトップ会議だった。
『騎士団』を仕切っているのはたったの4人。
王たちの様に『力』で上に立っているのではない。彼らはしっかりと組織として『騎士団』を成立させていた。
「『王』を――支配者を無き者として、我々『騎士団』が管理する世界。それを作るためには、もっと緻密な計画を立てるべきなんです」
丁寧なしゃべりでこの場を仕切る男。
片眼鏡に執事服を着た男は座っていても優雅さと静かさがある。『騎士団』での会議は大体この男が仕切っていた。
「緻密? ハッ、何言ってんのお前。びっびてる系じゃね?」
椅子の上にヤンキー座りと、ある意味器用な姿勢で自分の後ろにいる男を挑発する。
「はあ、『騎士団』もいつからこんなバカな集団になったのかと、がっかりします」
そんなヤンキーの挑発には乗らずに逆に挑発をしてみせる執事風の男。
眼鏡の位置を左手で治しながら呆れた笑いを浮かべた。
「俺もそう思うぞ」
そんな執事風の男に同意したのはこの場にいる4人の中で最も巨体な男。
渋く重い声。体がでかいからか、椅子には座らずに床に正座で姿勢正しく会議に参加していた。
「はっ。馬鹿集団で結構じゃね? 馬鹿じゃなけりゃあこんな計画考えねえだろって」
ヤンキーは首を回しながら二人に聞く。
質問してる最中にも互いの顔を見ようとしない男たち。
「確かに。そこには納得です。ましてや、こんな忙しい時期に」
「今の時期だから、忙しいからこそだ」
挑発こそしてはいる者の、執事風の男も巨体の男もヤンキーの言い分に理解を示す。
それで調子に乗ったのか――今の今までこの会議で一言も話していない人物に対して声をかけた。
「おい、リーダー」
リーダー。
そう呼ばれた男は何も反対しない。
が、そんな事は関係ないとばかりにヤンキー男は話しかけた。
「あんたはどう思う。つーか、知りたくね?」
「そうですよ。あなたも何か言ってください。あくまでも『騎士団』のリーダーは貴方なのですから」
執事男もヤンキーに同調して、何も言わないリーダーに聞いた。
リーダーと呼ばれる男。
しかしリーダーと呼ばれるには、他の人物に比ると――普通の人間に見える。
「……」
それでも何も言わないリーダー。
呆れた執事は、
「ふう、困りましたね。とりあえずこれを」
執事風の男は紙を上に投げた。
適当に放られたかに見えた紙は、見事に全員の手元に届く。
後ろを向いて投げたのにどうなってるのだろうか。投げた方もそうだが取る方も後ろ向きで掴む。
掴んだその紙には細かく――現状の勢力図や王の名前など書かれていた。
「いいですか。『王』は9人――それに対し我々『騎士団』の中で『王』と渡り合える『魔法使い』はせいぜい5人」
五人とはいいながら、紙の右側に書かれた『騎士団』の欄には4人の名前しか書かれていない。
「は、五人? この場所にいる俺らと――つーか、誰じゃね?」
ヤンキー男が人数が足りない指摘をする。『騎士団』のトップはこの4人。
それはこの世界では誰でも知っている事実である。
『騎士団』の4人は王になれる『魔法』を持っていても王に興味を持たなかった人間だ。
ヤンキーはまだ幼かった。
執事は独裁が嫌いだった。
巨体の男は愛に生きていた。
リーダーは――。
そんな4人に名を連ねるもう一人の『魔法使い』。
「……シキか?」
巨体の男が静かにシキの名前を出す。シキは自分の名前が出てきてた事に対して嬉しく思うのだろうか。
シキは『魔法』が使えないからこそ――頭が切れる。
本人曰く、
「頭脳が取り柄の美人」
だそうだ。
そう自分を評価しているシキではあるが――この場にいる4人の評価はどうだろう。
「いえ、彼女は狡い女です。戦力にはなりません」
「そうだぜ、あいつは俺らの9分の1にも満たない女じゃん。つーか、雑魚じゃん」
「……確かに弱い」
シキは自分でも弱いとは自覚はしているが――こんなボロクソ言われるなら最初から名前出すなよ。そんなシキの声が聞こえら気がする。
しかし、巨体の男も自分から名前を出して置いて弱いと言う。分かっているのなら名前を出さなければ良い気もするのだが。
「まあとにかく、『王』に対して半分しかない勢力でどう戦えばいいのか。そして何より……これが一番大事です」
執事がリーダの方を見る。
「殺すのは『王』だけだ」
そう発言したリーダ。会議の中で初めて言葉を発した。力強い意志に残りの3人は体を強張らせる。
再び黙ってしまうリーダ。だが――一言で場の雰囲気を支配してしまった。
「流石ですね。その通りです」
執事が表情を引きつった笑みを浮かべて話を進める。やはりこの男は『王』以上の器を持つ男だと恐怖し、尊敬する。
それは全員同じではあるが――だからと言って納得できない事もある。現にヤンキーは、
「は? ふざけんなよ、それじゃあ支配出来ないんじゃね。つーか 意味なくね?」
不満そうに文句を言う。その意見に賛同なのか、巨体の男も首を縦に振っていた。
二人に説明する執事。
「いいですか、あくまで私たちが目指すのは『管理』です。『支配』ではありません。多くの人を殺してしまえば――『王』と同等に見られてしまいます」
「なるほどな……」
それだけは避けなければいけません。
執事の言葉に大男は納得したみたいだが――ヤンキーはそれでも引き下がらずにぶつぶつと何か言い続けていた。
「けどよー、それじゃあⅠの王とかどうする訳? あいつ軍隊あるぜ。つーか、やばくね?」
「だから、慎重に考えるのでしょう。『王』を悪とし、悪の暴君を倒した救世主に――『騎士団』はならなければいけない」
「救世主……」
「その為にはまず、もう一人の仲間を引き込むとしましょうか。私たちと同等、否。それ以上の『魔法』を使うあの『魔法使い』に会いに行きましょう」
『魔法使い』といいますか――あの『最悪の魔女』に。
彼らはそう言って一瞬で姿を消した。