03
Ⅱの国の女王である筈の彼女がなぜこんな場所にいるのか。働かないのは構わないがまさか他国にまで現れるとは……。
空気が読めない女ではあるがこちらとしては――動きが読めない女だ。
「もー、相変わらずシキちゃんはお堅い表情だね。そんなんじゃ、女の子失格だぞ♡」
勝手に家の中に入り私の横に座るフウキ。
「すまんな。だからと言って――私は貴様みたいにはなれんよ」
とっさに道具を隠したので、何をしていたか見られなかったみたいだ。
フワフワした服装をしているフウキ。彼女の独創的なセンスは同じく若者の女性に人気だとか。
そんな服を着ていたら、いざと言う時に対応出来ないだろうと思うのだが――もっとも王であるフウキには関係ないだろう。
別に私も着た事があり似合わなかったからねたんでいる訳ではない。
慣れ慣れしく話してくるフウキ。
王らしくないその態度から若者の支持が厚いこの女。
だからこそ――警戒に越した事は無い。
「あー、ゴスロリさんだ。可愛いー」
向かいに座っているミオ。
衝撃から肉を守るために皿を自分の上に持ち上げていた。
私の火弾を食らってもなお平然としているミオ。
「ちょっと立って立って」
フウキはは立ち上がってポーズを決める。ミオはピョンピョンと飛び跳ねながら一周回る。その間にもポーズを変えながら決め顔を作る。
「僕の住んでた町は田舎だったから――初めて生で見ます。すごいなー」
一通り見て満足したのかお礼を言って座る。
混乱している私の気持ちなど知らない二人は見事に私の怒りを煽ってくる。
「まあ、確かにこのエリアじゃあね。お堅いのが取り柄のこの国じゃあ……あまり見かけないかもね♡」
恐らく、ミオは国どころか世界が違うのだが・・・・・・。
そんな事よりもとりあえず――この状況を整理しよう。
考える事は2つ。
なぜ女王であるフウキがこの場所、この家に来ているのか。
そしてもう一つ。
何故弾丸を食らってもミオは平気なのか。普通の『魔法』使いなら無傷ではいられないはずだ。
『異世界の魔法使い』は王と匹敵する『魔法』を持つとは言うが――これは期待以上と喜んでいいのか?
私にとっては後者の方が重大ではあるが――フウキは気まぐれだ。
風の様に吹き嵐の様に去る女。
もしも私がミオを殺そうとしたことがばれたら――どう出るかが分からない。Ⅰの王ならば間違いなく罰を与えに来るだろうが。
フウキはどうだろう。
笑って加勢してくれるかもしれないし、私を殺そうとするかもしれない。
どうなるか読めないならば――話題は私がコントロールしなければいけない。
「あのそれよりも、何でフウキ女王がこの場所に?」
一つ目の疑問を解決するついでに二人の会話を切る。私も未だにミオの性格は分かっていない。
会ってまだ数時間で人を理解できるわけがない。
更に私は人を知るのがかなり苦手だ。
「仕事でこの国に来たんだけど、ここの門番が『騎士団』のシキが来ているーって♡」
……あいつか、口軽い門番め。
ペラペラと喋りやがって。
ヘラヘラと眠たそうな目をこすっている門番の顔が浮かぶ。帰る時に銃弾でもぶち込んでやる……。
「『騎士団』も今は大変な時でしょ。だからー、友達のシキちゃんが心配だったの♡」
「それは見に余る光栄だな……」
『騎士団』のエリートである私は、Ⅱの国へと何回かは訪れている。
その時に何回か顔を合わせ会話をした。
それだけでそんなに心配されるくらいに仲が良かった記憶は無いのだが。
故に私は友達とは思っていない。
王と友達なんてこちらから願い下げだ。
「あれ、あたしが女王だからって緊張してるー?」
ミオは、私とフウキの顔を交互に見る。
私たちの話を理解しようとしているのだろうが……。人差し指をこめかみに当てて、眉をしかめて口を尖らせているミオ。
全然頼りにならない顔をしているミオ。
そんなミオをフウキは緊張していると捉えたようだ。
「え、本当に女王様なんですか!?」
左手を口に当てて、目を大きくするミオ。ミオが緊張しているかは分からないが――確かにいつもより私は緊張していた。
私の計画に必要になるだろうミオ。
恐らく私の勝手な予感ではあるが、フウキとミオの組み合わせは最悪だ。ミオの性格は分からないが、フウキと気が合ってしまう予感。
分かっている範囲では二人ともフワフワしてマイペースだしな。
その場合――最悪の場合。私では無くフウキを選んでしまうのではないか。
考えるだけでも嫌気がさす。
王と『異世界の魔法使い』。
この二人を同時に相手など――無謀にもほどがあるぞ。
「そうよー。私はⅡの国の王。知らないなんてありえない♡」
「知らなくても仕方ないですよ。だって僕、いせか……もがもが」
切り分けられていない方の肉。まだ一口で食べるにはデカすぎる肉ををミオの口へ押し込んだ。
異世界の事はあまり知られたくは無い。二人が手を組む可能性をあまり高めて置きたくはないからな。
『異世界の魔法使い』はこの世界では英雄だ――それに真黒木さんだって言っていた。
『異世界』の技術は余り知られたくないと。
ならば、ミオには基本『異世界』については話してほしくない。王の中でも『異世界』の事を詳しく知っているのは――そういない。
私は自分がこの世界で一番『異世界』に詳しい自身がある。
「この肉美味いみたいだぞ? 良かったらフウキも食べてみればどうだ」
私はミオが私の更に切り分けてくれた肉をフウキに差し出すがフウキはその皿を私の方へ押し戻す。
「えー、今食欲ないかなー。それよりも、君……だれ?」
口をモゴモゴさせて必死に口の中の物を飲み込もうとしているミオを指差し、聞いた。
「あ、えーと……彼は」
今さら聞くのか……。散々仲良く話していたくせに。
フルネームで答えさせるのはまずいし、ミオと呼んでもいいのだが――本人がどうでるか。
愛上尾張――アイガミオワリの真ん中をとってのミオ……だと思うのだが。本人はミオと呼べと言っていたし、とりあえずはそう呼んでおこう。
「ミオと言う男だ。この男が作る料理は美味いと評判になっていたのでな。ちょっと食べてみようと休みを使いこの国へ来たのだ」
これは嘘ではない。
私がこの場所に来たのもその情報――ミオの作る料理の評判を耳にしたためだ。
妙に長い名前の男が居ると、その男が出す料理は絶品だとこのエリアでは話題になっていた。
「ふーん。そんなに有名なんだ。それともー、『騎士団』で一番の情報屋だから知ってるのかな♡」
ウインクするフウキ。
なんでだろうか。その仕草が私は全く気に入らない。
「情報屋か。偶然耳にしただけだったのだがな」
「いやー、そんな料理上手くないんですけどね。でも美味しいって笑って貰えるのは嬉しいな」
オークの肉を飲み込んだミオが話に入ってくる。
もう少し食べていれば良かったのだが。
何とかしてこの二人が余計な会話をする前に――フウキを帰らせなければ。
「ふーん、君、改めて見ると中々の男前じゃない。もしよかったらー、私の王宮で料理人として、働かない?」
心臓が跳ねた。
私が考える最悪のシナリオをいとも簡単に提案してきたフウキ。この女にしてみたら軽いお誘いなのだろうが私にとっては軽くない。
「嬉しいお誘いなんですけど、遠慮しときます。まだ、今は何かをしたい時期ではないですし」
ミオが申し訳なさそうに誘いを断る。そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいのにな。むしろ満面の笑顔で断った方がいいと思うぞ。
「あらー、残念」
誘いを断られても特に落胆した様子もなく笑うフウキ。
危なかった。
もしその誘いにミオが乗ってしまってたらやりにくくなる――どころか計画の破たんだ。
いきなり手詰まりなど、冗談じゃない――本当に心臓に悪い女だ。
「それより、お仕事はいいんですか? 時間に送れるとⅠの王は厳しいですよ?」
私はミオの部屋に置かれていた時計を指差す。
時計。
時と言う概念を持ち込み作り上げたのも真黒木さんだ。
「そうなのよねー。時間に厳しいとかー男の癖にに器小さーい♡」
手を叩きながら笑うフウキ。
この話が聞かれていないか思わず周囲を探してしまう。誰にも聞かれていない事を確かめてフウキに忠告する。
「フウキ。Ⅰの王に向かって直接いうなよ。下手するとどこかの国が無くなってしまう可能性がかなり高いからな」
数年前、王後継期が訪れた際に、一人で先代の王達を二人倒したとかなんとか。とにかく伝説に事欠かないⅠの王である。
王同士の争いなどしたら、国が滅んでしまう。
国の危機だと言うのにフウキは笑っているしミオは私の真似をして周囲を探していた。何を探しているんだこの男は……。
「分かってるー。だから、会いたくないんじゃない」
だからⅠの王は嫌いなのよー。
と、ぶつくさ文句を言いながら立ち上がりさっさと家から出ていってしまった。