02
「それで、えーと、お名前なんでしたっけ」
尾張が私の名前を聞いた。
「シキだ」
向かい合って座るミオの表情はコロコロと変わっているが、さっきの空気は一体なんだったのだろうか。
「シキさんか。いい名前ですね」
名前など褒められてもうれしくも何ともない。誰だってそうだろう。
自分勝手に親につけられた名前――何がいい名前なもんか。
「私はそうは思わない――愛上 尾張」
「あ、こっちの世界では名前しか無いんでしょ?」
フルネームで呼ぶ私を注意する尾張。
「そう言う僕もついこないだ門番さんから教えてもらったんだけどね」
なるほど。最近まではフルネームを名乗っていたのか。それで、噂が私の元へと届いた……多分ミオの言う門番とは私をここまで案内してくれた門番だろう。
尾張が名前で呼べと言うのならその通りにするまでだ。
名前などどうでも良い。
「失礼、尾張くん」
「尾張って『終わり』っぽくて嫌い。だから、ミオって呼んで」
イラっ。
ブリブリとした態度――思わず白衣の裏に隠している道具に手が伸びそうになる。私に殺される様ならこれから先必要ない――言い訳をし自分を正当化させようとしていた。
落ち付け私。
呼び方なんてどうでもいいんだろ?
「ミオ……、君に聞きたいことがある」
「なんでもどーぞ」
ミオは立ち上がり料理場へと向かう。そこで何やら作業は始めた。私は後姿のミオに――『異世界の英雄』の名前を聞いた。
「君はマクロギと言う男を知っているか?」
異世界とは言ってもミオからすれば同じ世界の人間だ。
真黒木 崇
この世界に来て真黒木の名を知らないはずはないだろう。
「知らない」
即答か。
これは意外だ。
いい音を響かせながら炎をで肉をあぶり始めるミオ。
部屋の中に食欲をそそる匂いが充満する。
「知らない? 嘘を付くな。いくら君が馬鹿みたい、いや正真正銘の馬鹿だとしても、自分の先輩にあたる、『異世界の英雄』の名前を知らないなどと、それはおふざけが過ぎるぞ」
「真黒木って面白い名字ですね」
「貴様!」
私の尊敬する偉大なる恩師を――ましてや『異世界の英雄』を知らないなどと、こんな無能もう必要ない。
私は『魔法使い』ではない『道具使い』。
恩師の遺した【核】を使用した武器――。
「回転シキ拳銃――シンクロ」
【核】を銃弾に使用したこの世界に置いて唯一無二の武器。
7つある道具の中でも最も愛用している。
銃口をミオへと向け迷うことなく引き金を引いた。
『魔法』ほどの威力はないが、人を一人殺すには十分な道具だ。お前が侮辱した私の恩師。その名を継いだ武器を食らえ。
放たれた弾丸が乾いた音と共にミオの後頭部に直撃する。
「…………痛い」
扱っていた肉を皿に起きながら軽く後頭部を押さえる。
「は?」
完成した肉を差し出しながら、恨めしそうに私を見ていた。
「いきなり、何するんですか!」
大きな塊の肉を切り分けながら文句を言うミオ。
「いや、だって君が、真黒木さんを知らないって……」
「知りませんよ。こっちの世界では有名かも知れませんが、地球では普通の人なんですよーだ。……普通の人かも知らないけど」
「でもこっちの世界にいれば――いやでも耳に入ってくるはずだ」
「まだ来て半年も立ってないですもん」
「それにしては嫌に順応している気がするが?」
「それはこのエリアが、僕の田舎にそっくりだからだよ」
「そうか……。じゃない!」
このエリアがどこに似ているとか、真黒木さんが普通の人と言い切った後に、知らないけど、と、付け加えた事は気にくわないがどうでも良い。
なぜこの男は銃弾を頭に受けて平然としていられるのか――そこの方が重大だろう。
「なぜ君は生きている?」
「うーん、美味しい料理があるからかなー」
切り分けたお肉を美味しそうに頬張り黙々と咀嚼しながら頬に手を添えるミオ。
うん、よし――。
「死ね!」
今度は銃弾を変える。先程は魔力が少し混めた弾だったが次はこれだ――魔法の使えない私には貴重な弾丸だが仕方ない。
弾の代わりに【核】を用いた銃弾。
こちらは弾数の制限があるから使いたくないが――使ってやろう。
「シンクロ――火弾」
直撃してから爆発する弾丸。
これなら威力は十分なはずだ。
衝撃から爆煙が立ち上がりミオの姿が確認できない。
「どうだ!?」
確認するために問いかけては見たが――返事が返ってきたのは扉の外からだった。
「やっほー。シキちゃん。会いに来たよ♡」
自分の家でもないのに扉を勝手に開けて中へと入ってきた一人の女。なぜ私の名前を知っているのか。そう思ったがその人物を見て納得した。
フウキ。
彼女はⅡの国の王であった。王の中で最も自由で働かないとされる女――フウキ。
なぜこの場所に、このタイミングでフウキが現れる?
相変わらず――空気が読めない女だ。
Ⅱの国の女王――フウキ。
思いがけない登場であった。